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2008-06-17 09:59

(連載)2008年の世界を考える三つの視角(2)

山内昌之  東京大学教授
 第二は、いわゆるグローバル・ガバナンスをめぐる問題である。グローバル・ガバナンスとは国境の枠を超える問題の制御を意味する。最近の食糧危機、かつてのアジア通貨危機、SARRS(重症性呼吸器症候群)、不法難民の流入と人口移動、グローバル・テロリズム、地球温暖化などの環境問題などは、グローバリゼーションによる「より遠くへ、より速く、より安く、より深く」越境していく性格の産物でもあった。ここにサブプライム・ローン問題の波及を入れてもよい。かつては無関係だった多様な要素が結びつき、想像を超えたスピードで一国あるいは地域の問題が地球規模となる出来事の解決には、国家の主権原理の強調だけでは不十分であろう。そこでは、労働力問題や難民問題の解決に取り組むために、移民ネットワークや国家間協力といった多様な選択肢が必要となる。

 グローバル・ガバナンスとは、主権国家システムがもつ内と外との敷居をなくし、「帝国」やネットワークといった脱領域的システムに近いものになるのかもしれない。日本は、この問題解決のために何ができるのであろうか。たとえば、近代の欧米主導の越境的なガバナンスのあり方に対して、華夷秩序やアジア交易、華僑やインド商人らのつくる異なる秩序を見直せないだろうか。また、中東文化ミッションや日本アラブ対話フォーラムのような文化外交の試みは、グローバル・ガバナンスの問題といかに関連するのかという点も議論に値するかもしれない。

 第三は、統合の深化とアイルランド国民の判断した反対に見られる統合問題である。国家に視野を固定せずEUのように国家を拘束するベクトルと、依然として国家の主権や国民の利益を基礎にした古典的な政治外交のベクトルが共存する現実をとらえる視点の模索は重要であろう。国家の枠を越えた地域統合と、国家と国民の自立性をどうとらえるのかという点は、見かけほど簡単なものではない。たとえば、EUの統合を考える時に、無条件にEUのあり方を賛美し、そのサポーターとなる傾向が強く、国家の枠をロマン的に否定する者も少なくない。こうした人びとは、アメリカの提供する安全保障の枠組みによってヨーロッパが存在してきた意味を過小評価しがちである。

 東アジア共同体の問題を議論するときでも、アメリカが日本に長年にわたって提供してきた安全保障の枠組みを無視することはできない。他方、EUの「やわらかい統合」は、アラブ・ナショナリズムのロマン的な幻想から訣別し、現実的な利益で統合を模索するアラブ湾岸諸国などにも示唆を与え、ASEAN、そしてずっと遠い将来の東アジアにも教訓を与えるかもしれない。(おわり)
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