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2008-07-22 14:41

日中艦艇の相互訪問の意義は大きい

増田雅之  防衛省防衛研究所教官
 2008年6月24日~28日、海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が中国海軍南海司令部の所在する広東省湛江を訪問した。今回の「さざなみ」訪中は中国海軍ミサイル駆逐艦「深セン」の訪日(2007年11月28日~12月1日)に対する答礼訪問で、本年5月の日中首脳会談において6月の実施が合意されていたものであった。訪問期間中、四川大地震の被災地に贈られる食料品や毛布等の救援物資が日本側から中国側に引き渡されたほか、座談会が開かれ、災害派遣・救難に関して意見が交換された。また、28日には湛江近海において、通信訓練や戦術運動訓練という初歩的ではあるが、自衛隊と人民解放軍間で初めての、共同訓練が実施された。

 しかし、今回の「さざなみ」訪中について、日本メディアは厳しい評価を下した。「防衛交流は中国の覇権志向が高まる中で始まったことを認識するべきだ」(読売)、「日中艦艇の相互訪問が対等な関係になっていない」(産経)、「交流はまだ表層的」(東京)。たしかに、日中防衛交流は、小泉政権期の靖国神社参拝による「政冷」のため長らく途絶え、安倍訪中(06年10月)、温家宝訪日(07年4月)、胡錦濤訪日(08年5月)による日中「戦略的互恵関係」構築プロセスの中で緒についたばかりだ。そして、防衛交流の深化を下支えする国内世論は、依然として厳しい。例えば、5月末に四川大地震の救援物資輸送で自衛隊機の派遣が検討された際にも、インターネットを中心に中国の世論が強い反発を示したほか、人民解放軍指導部も受け入れを拒絶したとされるのである(香港誌『動向』08年6月号)。その結果「さざなみ」訪中は「やや寂しい光景」の中で実施され、一般市民から「隔離された防衛交流」(読売)となった感もないわけではない。

 それでも、今回の「さざなみ」訪中の意義を指摘すれば、四川大地震もあり、軍の災害派遣・救難や国連平和維持活動(PKO)の分野での交流を深めることで改めて一致したことである。07年8月の曹剛川国防部長(当時)の訪日時に、日中防衛当局は「自然災害対処等、非伝統的な安全保障分野における交流を漸次検討する」ことで合意し、胡錦濤訪日時の共同プレス発表では「PKO、災害救援等の分野での協力の可能性を検討していく」ことで合意していた。共同プレス発表の文言は、今後の協力分野が災害対処だけではなく、PKOへ拡大されること及びその実現可能性が増していること(「漸次検討」→「検討」)を示唆していた。

 「さざなみ」訪中時に、災害派遣・救難やPKOという分野で国際協力を志向する言質を馬暁天副総参謀長から得ることができたが、それによって人民解放軍の開放性や非排他性を促す契機とすることができれば、その意味は極めて大きい。日中防衛交流の意義は、たんに二国間関係の中にだけあるのではなく、リージョナルな、そしてグローバルな安全保障環境の中にもあることを、日本としても認識すべきである。一連の流れは単なる防衛「交流」ではなく、防衛「外交」という文脈で評価されるべきものである。
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