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2008-07-23 14:02

EU諸国のしたたかな外交力

小久保康之  静岡県立大学教授
 議論を簡略化するために、洞爺湖サミットに限定しよう。同サミットには、EU関係者として、英国のブラウン首相、フランスのサルコジ大統領、ドイツのメルケル首相、イタリアのベルルスコーニ首相に加えて、EU欧州委員会のバローゾ委員長の計5名が出席した。G8の首脳の過半数がEU諸国の首脳である。更に、今回のサミットでは、EU議長国であるフランスのサルコジ大統領の背後には、EU加盟27カ国が控えている。EUの中で欧州委員会に発言権を加盟国が認めている案件については、バローゾ委員長が代弁し、その他の事項についてはサルコジ大統領がEU加盟27カ国の総意を表明する。もちろん、英・仏・独・伊の間にも政策の相違は存在しているし、EUは27カ国の主権国家の集合体であるから、必ずしもすべての領域において統一の見解で合意しているわけではない。しかし、サミットのような極めて重要な国際会議において、EUという枠組みに参画している諸国が、合意できる範囲内でタックルを組んできた時の底力には、米国でさえ譲歩を迫られることになる。

 環境問題で、米国のブッシュ大統領が国内への配慮から、かつては京都議定書からの離脱し、今回も数値目標の設定に難色を示したことは、EU諸国が国際社会におけるイニシアティブを握る絶好のチャンスを提供した。しかも、EUおよびEU加盟諸国が視野に入れている地理的範囲は正に「世界」である。EUの主要国は、旧宗主国としての関係を巧みに活用し、アフリカ、中東、アジア、中南米の諸国と様々な関係を構築している。EUの外縁部には、欧州近隣政策(ENP)を通じて、周辺諸国の民主化と経済発展を促しつつ、同地域の安定化を進めている。サルコジ仏大統領のイニシアティブにより、EUと地中海・中東16カ国の計43カ国は、7月13日に「地中海連合」を発足させることで合意し、通商から環境まであらゆる政策領域での関係強化を謳っている。

 EUは一枚岩ではないし、EUは新たな国家でもない。しかし、EU諸国は歴史にない新たな主権国家間の枠組みを構築し、時にはEUとして一丸となり、時には個人プレイーに走り、実にしたたかな外交を展開している。EU議長国のサルコジ仏大統領は、北京オリンピックの開会式に欠席すると言っていたにも拘わらず、フランスの原発を中国が購入したことやEU企業の中国進出などを考慮して、サルコジ大統領自身は開会式に出席することで他のEU諸国からの同意を取り付けた。正に、EU諸国は複雑なEUの仕組みを巧みに操りながら、EUスタンダードのグローバル化に向けて隙を窺っているのである。もはや、EUを知らずして国際情勢を語ることはできないと言っても過言ではない。軍事力だけが外交の源泉ではない21世紀において、日本としてもEUのしたたかな戦略に注目し、米国のみならず、EUおよびEU諸国とも関係強化を一層進める必要があるのではなかろうか。そのためには、EU統合に対する理解を深めることが不可欠である。
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