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2008-08-07 19:54

文明史的選択を迫られているイスラム世界

入山映  サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
 これは「・・・の陰謀だ」というたぐいの話をよく耳にする。「・・・」は何でもよい。ユダヤというのもよくあるし、米国でも、北朝鮮でもかまわない。要するに、「そうではない」ということが証明できない、というのが共通している訳で、その点では、「ピンク色の鯨が存在している」というのと軌を一にする。まことしやかなほど説得力めいたものが付加される。アルコールの入った席での議論にありがちなパターンだが、どうかすると、かなりまともなジャーナリズムがこの手の話を掲載することもあるから注意した方がよい。

 イスラムにおける世俗主義(secularism)と原理主義(fundamentalism)の対立の一つとして、関心を集めているトルコのケースだが、Ergenekon 陰謀説というのが耳目を集めている。エルジェネコンというのは、イスラム化以前のトルコに存在したといわれる「灰色の狼」に率いられた伝説上の指導者グループだが、その名を冠したグループが退役将軍、ジャーナリスト、財界要人らによって組織され、(過度にイスラム的な)政権を転覆させようとしている、という。既に50名を超える逮捕者を出し、エルドハン政権はかなり本気で摘発に当たっているようだ。もっとも、軍部や憲法裁判所によって代表される世俗主義からの攻撃に対する政権側の反撃だと言う見方もある。

 政教一致を説くイスラム正統派と、分離を実現しようとする近代派の相克は、アラブ諸国を中心として、多くのイスラム国家に見られる現象だ。イスラム律法(シャリア)の厳格な適用と議会による法の支配(rule of law)の争いだといってもよい。なんらかの解決策を見いださない限り、第二・第三のタリバンやアルカイダが出現するのは、ほとんど自明だろう。その意味でイスラム世界における世俗主義の先駆者トルコが注目をひいている。かりそめの陰謀説のようなものに溺れて、一方が他方を制圧しても、それが本質的な解決に繋がらないのは自明だろう。だからといって、足して二で割るような解決策が成功するとも思われない。その意味では文明史的な時期に遭遇しているイスラム世界だが、世界人口の三分の一を占めるこのグループの動向は、十字軍やレコンキスタ(キリスト教徒によるスペイン奪回)の時代にも増して、われわれのありようを規定するものになるのは確実だ。

 懸念された憲法裁判所の判断も、与党AKPの解党を命ずるものとはならなかった。クルド独立派の仕業と噂されるテロに震撼するトルコだが、その帰趨が今ほど注目されている時はない。永遠に続くかと思われたユダヤとパレスチナ、米国とイランの関係にも光が見え始めた今、月並みだが、人間の叡智に信頼をおく他はない、というが結論になろうし、信頼をおいている、という事実の相互認識のみが、われわれを破局から救うのだと思う。と書き終えたときに、イスラエルのオルマート首相の辞意表明が伝えられた。米国実業家からの献金疑惑などが原因のようだが、まことに彼の為に惜しむ。願わくば彼の路線を継ぐ、聡明なタカ派が出現しますように。
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