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2008-08-22 19:25

グルジア問題をどう考えるか

廣瀬陽子  静岡県立大学国際関係学部准教授
 8月8日、平和の祭典であるオリンピックの北京大会開会式が行われたその日に、グルジアとロシアの交戦が始まった。しかし、そのことは別に驚きでも何でもなかった。コーカサスを専門にしている筆者にとっては、起こるべくして起きた紛争だった。

 この紛争は、8月1日頃からグルジア国内で「未承認国家」化している南オセチア(日本の報道ではたいてい「南オセチア自治州」とされているが、グルジアは南オセチアから自治をはく奪しており、「自治州」と表記するのは間違いである)が、グルジアに対して攻撃を始め、8月7日にグルジアが一方的停戦を発表するも、状況が変わらないため、8日にグルジアが南オセチアに侵攻し、それに呼応する形でロシアが「自国民保護」を名目にグルジアへの大規模な攻撃を行ったことで始まった紛争である。ロシアのグルジアへの攻撃は、単なる「自国民保護」のレベルをはるかに超え、グルジア国内のいくつかの要衝を占拠し多くの死傷者、難民が出たほか、軍用空港や主要幹線、鉄道や橋などを破壊してグルジアのインフラは機能を失った。フランスのサルコジ大統領の仲介などで、両者は停戦合意に応じたものの、ロシアは様々な理由をつけて、完全撤退はまず見込めない状況である。

 そして今後の解決も非常に困難が予測される。グルジアとロシアの主張がことごとくかい離していることから、和平協議も難航が予測され、今回の紛争の問題解決の見込みは現在では全くもてないだけでなく、そもそもこの問題の根幹である、南オセチアの法的地位問題(並びに、南オセチアと同じように「未承認国家」状態にあるアブハジアの法的地位問題)を国際社会の関与の下、全関係主体が納得する形で解決する必要がある。しかし、グルジアは「領土保全」「主権尊重」の国際原則を主張し、南オセチア・ロシアは「民族自決」原則を主張し、どちらも重要な国際規範であるため、第三国がこれらの問題に関与しづらいというのも問題である。

 そしてこのような問題は、コソヴォ独立問題並びに旧ソ連のアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフや、モルドヴァの沿ドニエストルなど他の未承認国家問題の帰趨にも大きく影響する。今回の問題の背景には、もちろんロシアやグルジア双方の野望がある。そして、アメリカは事前に知らされていたにもかかわらず、グルジアの冒険を止められなかった。ロシアの今回の攻撃の理由については長くなるので、また稿を改めたいが、本稿ではコーカサスの民族・領土問題の根本的解決をしなければ、ロシアは旧ソ連諸国に対する有効な外交カードを握り続け、民主的世界の構築も冷戦思考の根絶も不可能だということを強く強調したい。

 日本はオリンピックムード一色で、グルジアの紛争についての報道も少なく、ほとんどの方が無関心だった。日本もG7の国として、ロシアと領土問題を抱える隣人として、もっとこのような問題に真剣に向き合い、難しい問題解決、ないし紛争関係国の最大公約数の最善の「解」への到のために、もっと努力をしていくべきだと考える。
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