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2008-09-02 17:40

アメリカ次期大統領は中国を無視できない

関山健  東京財団研究員
 あるメディアから、アメリカ次期大統領の対中政策について取材を受けた。私は、アメリカ次期大統領は、オバマであれ、マケインであれ、歴代大統領の就任時と比較して抑制的な対中政策を取るのではないかと予想している。米中関係正常化後、多くの歴代アメリカ大統領は、共和党か民主党かにかかわらず、就任直後は中国に対して強い姿勢をとってきた。

   カーター(民主):人権外交を掲げて1977年就任
   レーガン(共和):親台湾派として1981年就任
   クリントン(民主):中国の人権問題を非難して1993年就任
   ブッシュ(共和):中国を「戦略的競争国」とライバル視して2001年就任

 たしかに、「人権を蔑にする共産主義国家・中国」への強気な姿勢は、アメリカ国内で大衆の支持を得やすい。一方で、アメリカは少なからぬ政治・経済上の利益を中国と共有しており、現役大統領は、大衆迎合的な政策を取りにくい。実際、上記の歴代大統領も、秋田浩之氏が著書『暗流』で指摘するように、就任後おおむね2年以内にはその対中政策を軟化させてきた。それだけに、新たな大統領(候補)としては、前任者の政策を批判し、その違いをアピールするための材料として、強硬な対中政策は便利なのである。現在アメリカ経済が不調であることから考えれば、来年1月に就任するアメリカ次期大統領も、国内政治上の配慮から、廉価な工業製品を大量に輸出して大幅な対米貿易黒字を計上する中国に対して、批判の矛先を向ける可能性は否定できない。しかし、いまやアメリカにとって中国は、歴代いずれの大統領就任時と比較しても一層重要なパートナーとなっており、もはや強硬路線を取りうる余地は非常に少ない。

 たとえば、ブッシュ大統領就任時の2001年には、日本が第3位(全体の7.9%)の輸出相手国であり、中国は9位(同2.6%)でしかなかったが、2007年には、中国がアメリカの第3位の輸出相手国(同5.6%。1位カナダ、2位メキシコ)となっている。輸入でも、2001年に中国は日本(同11.0%)に次ぐ第4位(同9.0%)にとどまっていたが、2007年ではアメリカにとって最大(同16.5%)の輸入相手国だ。いまや中国なくしてアメリカ経済は成り立たないのである。また、外交的にも、北朝鮮の非核化には中国の協力が必要であり、ここにきてロシアが強硬な態度に変化してきていることからも、アメリカが中国を味方につけておく戦略的な必要性はさらに高まっていると言えよう。

 ライス国務長官の言葉を借りれば、アメリカにとって中国は、「価値観は共有しないが、利益は共有する」大国であり、「アメリカと同様に特別な責任を負っている」重要なパートナーである(ライス国務長官「Rethinking the National Interest」Foreign Affairs 誌7-8月号)。したがって、アメリカ次期大統領が、仮に歴代大統領と同様に中国に対して批判的な言動を取るとしても、それは議会の対中強硬派のガス抜き程度で終わり、実際の対中政策は、現政権の路線からいずれの方向にも大きくぶれることはないだろう。
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