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2008-09-15 09:51

(連載)北京五輪後の中国政治体制の行方(1)

関山健  東京財団研究員
 米ポートランド州立大学のブルース・ギリーは「オリンピックは中国の民主化に影響を与え、政治変革を促進している」(8月6日付『ウォール・ストリート・ジャーナル』)と主張している。ギリーによれば「民主化は、独裁者が民主化を決断したからではなく、政権の弱さ、正統性の減少、市民の民主化要求で起きるものであって、例えばソ連は、1980年のモスクワ五輪時にボイコットや抗議が発生して政権の正統性が弱まり、ゴルバチョフ登場につながった」として、「北京オリンピックも、中国政府の行動を吟味する機会を提供し、中国の政治的な変化を促している」という。また、正反対に、欧米では、中国はオリンピックに向けて国内の締め付けを強化しており、民主化を遅らせたという論評も多い。

 私は、いずれの主張も五輪の影響を過大視しすぎであり、北京五輪そのものがきっかけで中国の政治体制にプラスにせよマイナスにせよ、変化が生じることはない、と見ている。独裁体制の有効性や正当性が失われた時に、大衆から民主化要求が巻き起こるというギリーの主張には同感だが、政権の有効性や正当性に対する疑問を、大衆に抱かせる最も典型的な要因は経済不況である。ソ連を崩壊に導いたのは五輪時のボイコットや抗議ではなく、経済の衰退であり、現在の中国とは発展趨勢が全く異なる。

 中国では格差が広がって社会不安が高まっているというが、基本的には、都市世帯も農村世帯も「昨日より今日、今日より明日の生活がよくなる状態」にある。今年第1四半期の都市住民世帯の可処分所得は、対前年同期比11.5%、農村住民世帯の可処分所得は対前年同期比18.5%も上昇した。この傾向が続く限りは、格差が開いたところで下層の人々も、現体制の有効性や正当性を否定してまで現状を変えたいとは望まないだろう。ただし、足元の中国経済には、北京五輪とは直接関係のない要因によって「昨日より今日、今日より明日の生活がよくなる状態」を脅かしかねない兆候も出てきている点には注意を要する。その兆候とは、「物価高騰」と「不動産バブル崩壊」である。(つづく)
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