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2008-09-28 19:26

(連載)柔道は「武道」か「スポーツ」か(2)

亀山 良太  自営業
 本来、武道は殺し合いだから、型をもって実力が評価されていたが、それでは実戦で通用するのかどうかわからない。講道館柔道創始者の嘉納治五郎は、さしあたって、当て身や関節技を禁止し、投げ技に関しては畳で保護することにして、安全性の問題を解決した。安全性を確保することによって、型だけでなく実戦的な練習を可能としたのである。嘉納はあくまで武道を目指していたのだが、皮肉なことに、安全性の確保がスポーツの価値観と合流し、おりしも学校教育に採用されたこともあって、試合が目的化するきっかけとなったのである。晩年、講道館を視察した嘉納は、「これは私の柔道ではない」と言っている。

 東京オリンピックの開催が決まると、日本は柔道を正式種目にすることに成功したが、そのときメダルの数を増やすために体重制を導入した。戦場ではありえない体重制を導入した時点で、武道を放棄したといっても過言ではない。柔道の選手の目的は体重制の試合での勝利となり、最高の目標はオリンピックでメダルを獲得することになった。指導者たちも競技で勝つことが至上命題となり、修行の場から「戦場」はすっかり蒸発してしまったのである。

 こうしてみると、今、日本で行われている柔道は、武道の看板を掲げてはいるものの、実はJUDOと同じスポーツという器に盛られているのがわかる。「JUDOはもはや武道でない」というのなら、柔道だってとっくに武道ではなくなっているのだ。柔道とJUDOの違いは、スポーツの試合に勝利するための方程式の違いだけだ。そもそも、武道の看板を掲げて、メダルを目標とする事自体が、根本的矛盾をかかえている。これでは文字通り「看板に偽りあり」ではないだろうか。

 スポーツの価値観(規律性、公平性、安全性)は万人に受け入れられ、異議申し立ての余地がない。もし日本が武道にこだわっていたら、世界的な柔道の普及はなかったし、我々がオリンピックで感動を与えられることもなかった。それは賞賛すべき成果に違いない。しかし、それは武道の価値観とは相容れないものであることを認識すべきである。その上で伝統的な日本武道の価値観も保存しておかなければならない。この際、日本柔道界はスポーツをやりたいのか、武道をやりたいのか、どちらかはっきりしてもらいたい。それはスポーツの価値観を守るためでもあり、同時に武道の価値観を守るためでもある。(おわり)
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