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2008-10-15 11:53

テロ支援国家指定解除への日本の取るべき対応

増田 雅之  防衛省防衛研究所教官
 10月11日、「米国と北朝鮮が核計画の検証方法で合意に達した」として米国務省は北朝鮮に対するテロ支援国家の指定解除を発表した。北朝鮮外務省も翌日、この指定解除について「歓迎」を表明し、「寧辺の核施設の無能力化を再開し、米国と国際原子力機関(IAEA)監視要員の義務遂行を再び認めることとした」と言及し、北朝鮮はIAEAに核施設への立ち入り禁止措置の解除を通告した。

 北朝鮮は8月、米国が北朝鮮に対するテロ支援国家の指定を解除しないことに反発して、核施設の無能力化作業を中断し、9月には寧辺の使用済み核燃料再処理施設でIAEAの封印や監視カメラを撤去し、IAEA要員の立ち入りを禁止した。さらに、10月に入ると施設再稼働の準備を理由に、立ち入り禁止措置を実験用黒鉛減速炉や核燃料加工施設に拡大していた。こうしたプロセスを鑑みれば、今回も北朝鮮の「瀬戸際外交」の勝利であったといってよい。他方、我が国が懸案事項の一つとしていた拉致問題については、何一つ進展が見られないままの指定解除であったために、閣内からも「米国は、同盟国である日本とよく相談した上でやったのか」(中川昭一・財務相兼金融担当相)との米国への不満が漏れたという。

 しかし、今回の北朝鮮のテロ支援国家指定解除の決定について、日本以外の六者会合参加国は概ね歓迎の意向を示した。韓国外交通商部の金塾・朝鮮半島平和交渉本部長(六者会合の韓国首席代表)は、決定を「六者会合が正常な軌道に復帰し、北朝鮮の核廃棄につながる契機となる」と評価したという。中国外交部新聞局の秦剛副局長も「六者会合プロセスを推進する建設的な努力である」として、米朝の決定を「積極的に評価」した。

 今回の米朝合意をみれば、核計画検証の対象は「申告された施設」すなわち寧辺の核施設に限定された感が強いが、分野的にはプルトニウム計画だけではなく、ウラン濃縮計画や核拡散活動も検証の対象となり、昨年の六者会合の合意に基づく検証を実施していくことが確認された。この合意の実効性に疑問がないわけではないが、米朝合意を踏まえて10月末に六者会合を再開することが目指されているという。また、北朝鮮の朴宜春外相は今日からロシアを訪問し、10月15日にはラブロフ外相と会談を行なう。この外相会談では二国間協力とともに、北朝鮮の核問題についても協議されることとなっている。

 たしかに、今回の米国の「譲歩」に批判がないわけではない。第1次ブッシュ政権で国務省東アジア太平洋局顧問を務めたデービッド・アッシャーは、合意に「兵器化や核ミサイル配備に対する予防や阻止の措置」が含まれておらず、「北朝鮮を事実上の核兵器保有国として認知してしまうことに等しい」と厳しい批判を加えている。しかし、同時に、米国は内外の批判を受けながらも、自らの「譲歩」によって、北朝鮮を交渉のテーブルに引き戻したのであり、米朝合意に対する関係諸国の「歓迎」もこの点に向けられている。我が国も北朝鮮に対する圧力を維持させながらも、六者会合の再開に向けて、北朝鮮との独自の対話路線を模索していかねばならない。それが、今回の米朝合意への関係諸国の反応から言えることであり、対話と圧力のバランスを如何に図るかが、日本外交に改めて問われている。
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