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2008-11-19 05:11

今こそ人間の欲望にたがをはめる智恵を

古屋 力  会社員
 先の英国訪問の際、片田舎に住む詩人ラルフの自宅に招待され、彼の家族とともに美味しい手作りの夕食を頂きながら、しかも「嬉しいことに地球温暖化の影響で美味しくなった」と軽口ジョークの前口上付で頂いた実に美味しい英国製ワインを堪能しながら、愉快な時間を過ごした。その席上で詩人は問わず語りでこう面白いことを言っていた。「欧州の古い諺に、ゆっくりと歩む旅人は一番遠くまで辿りつける、という示唆に富んだ箴言がある。いまこそ、その意味を考える時期である。いま世界の経済の仕組みそのものが壊れつつある。急進的でgreedy(貪欲)な仕組みにはもはや限界が来ている。いまこそ、新たに地球環境と人間に優しい non-greedyな仕組みを構築すべき時代にあると思う」と。そこに深い洞察と未来志向の含意を感じた。確かに、大昔からの先哲の知恵は、無限大に膨張しがちな人間の欲望をいかに抑止するかの工夫の歴史だったかもしれない。

 日本では「もったいない」という習慣や価値観は、私自身も田舎のおばあちゃんからよく聴かされたし、古い時代のキリスト教やユダヤ教、さらには今日のイスラム教の教えるところの「リバー(自己増殖の禁止)」も、ある意味、理屈抜きの「絶対教義」として、人間の果てしない欲望にたがをはめる一種の「知恵」だったのかもしれない。換言すれば、人類は長い歴史の中でこういった工夫を一種の「持続性(sustainability)」を担保する装置として創造してきたのであろう。ゲーテのファウスト博士のメフィストテレスとの交渉を紐解くまでもなく、古来の文学、哲学、宗教、さらには昨今の経済学の議論の推移を省みても、その多くの部分は、幸福の永遠の持続性について、永遠なる命について志向し、問答している気がする。とりわけ昨今、地球環境の有限性、脆弱性の問題意識が高まるにつけ、この議論はいよいよもって真正面から、しかも具体的にその「均衡解」を模索せざるを得ない次元に至っている。

 もはやそこには神学論争をネバーエンデイングに繰り返している猶予はない。経済的価値はあくまでも幸福になるための1つの要素でしかないのに、なぜかそれが全ての行動の究極の目的のようになって「自己目的化」し、若干20代の若者が田舎に住む自分の父親の年収の100倍以上を得て、そのために人格が変わったかのような守銭奴になりきる姿は、もはや幸福な形のそれではないであろう。そんなのは個人の自由だと言ってしまえばそれまでだが、その挙句の果てがこのサブプライムに端を発した国際金融危機とその結果としての死屍累々である。

 人類は本当は賢いのか、愚かなのか、分からなくなる。そしていつも思うのであるが、こういった空虚な幸福を何百倍も乗数倍した不幸が、そのすぐ脇に横たわっている。そしてその不幸を被る多くの人々が世界の貧困層等の弱者なのである。そこに人類の不条理を感じるのは、徒然人だけではなかろう。もう経済的なサイクルに伴う不況の解決策を戦争という有効需要政策で解決する愚行は厳に回避しなければなるまいし、地球環境ののっぴきならない現下の状況を鑑みるに、もはや人類にとってそんなくだらないゲームをしている暇はないはずである。あの日、イギリスの田舎で詩人がいったモノローグは、まさにこの大きな疑問としていまも私の頭の中でリフレインしている。
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