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2008-11-25 22:52

オバマ新政権の課題と日本の対応

小沢 一彦  桜美林大学教授・国際学研究所長
 次第に明らかになりつつある、クリントン前政権下でも活躍したサマーズ氏やガイトナー氏、ボルカー氏、グルズビー氏など、学者や実務家などの経済専門家をはじめとする陣容での、次期米国オバマ政権については、複数の先生方が既に投稿しておられるので、なるべく重複しない様に、その他の部分についてコメントしておきたい。ここでは、オバマ新政権誕生の意味、直面する重い課題、新しい時代への構造変化、それについての日本の対応について論じたい。

 まずは、マイノリティ初の次期大統領に選ばれた、バラク・オバマ氏であるが、本人の資質もさりながら、「非白人男性」であることに意味がある。つまり、有名な「ボーリング・アローン」という論文を書いた、ハーバード大学のロバート・パットナム教授指摘の様な、経済格差とネット社会で分断され、孤立化していたアメリカ社会における「共同体の再統合」、および「自発的な相互扶助結社」や「社会資本」再建のシンボルとして登場したことだ。さらには、1929年の世界大恐慌の最中のF.D.ルーズベルトの再来的な意味合いをも持っている(ただし、米国の相対的力の衰退や財政赤字の肥大化、工業文明の衰退など、当時との差異も多い)。
 
 政権移行期から、すでに「臨戦態勢」に入っているように、優先課題として「ブッシュ・ジュニア政権の新自由主義の撒き散らした負の遺産」である経済危機を片付けるところからスタートせねばならない。デリバティブなどの複雑な金融商品が世界的バブルを引き起こし、投機的マネーが世界を席巻した後に、BNPパリバ危機発生やサブプライム・ローンなどが破綻したことにより、過剰だった金融市場での急激な信用収縮と、その後の実体経済での需要の急減がほぼ同時期に起きたのである。これらを解決し再建するには、経営者の経営責任を厳しく追及しながら、政府による膨大な資金投入と財政出動、そして金融派生商品等の監視・規制が不可欠である。自由放任主義は、強欲ではなく、あくまでもアダム・スミスの言う倫理の上にしか成り立たないのだ。今回の金融危機は世界中で国家的破綻まで引き起こしており、アラン・グリーンスパン前FRB議長の管理ミスや、IMF・世界銀行をはじめとする今や時代遅れのブレトンウッズ体制、さらには投資銀行、金融ファンドをはじめとする国際経済機関やアメリカ金融界の責任は重大である。

 「100年に1度の大津波」の経済再建に次期政権の多くの資源とエネルギーを割かれることが明確な中、日本にとって懸念されるのは、アメリカによる政治外交・安保分野での外部世界へのコミットメントの低下である。国家資源が限られる中、対テロ戦争でも、アフガニスタンやイランなどでの「局所的対処」にならざるを得ない。その空白や間隙をぬって、EUや中国、ロシアなどが「多極化」を目指して挑戦、台頭して来るだろう。では、日本は2009年1月20日発足の米国新政権に対して、いかに対応すれば良いのか。まずは「パクス・アメリカーナ」に翳りが生じて、「新世界秩序」への移行期・過渡期に入るかもしれないという危機管理、心の準備をすることである。

 日本が片務的に米国に依存していた冷戦期の日米同盟というバイラテラルな関係は希薄化し、より多国間協調主義への構造変化が起こるだろう。そこで生き残るには、これまで日本国憲法に縛られ、あまりに消極的過ぎた日本の同盟上の義務をしっかり果たすこと、そして新たな世界秩序に向けた環境技術、疫病対策、アフリカ経済支援などの日本のソフト・パワーを用いた積極的関与を強めることである。当面は超大国アメリカの時代が続くが、政治経済、安全保障、地球環境などすべての分野で、次第に無極化、多極化が進行するのは否定できない。インド洋での給油法延長問題を含め、政局を含めたコップの中の争いという、内向きの議論ばかりで国際協調を軽んじている限り、日米関係は弱体化する一方であろう。日英同盟の二の舞となりかねない「ジャパン・ナッシング」の危険性を今から想定し、日本は自強政策を含めた戦後対外政策の再定義を、アメリカの指示によるのではなく、自主的・自発的に行わねばならないのではないか。
                            
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