国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-12-07 10:34

(連載)ソマリアの海賊問題について考える(2)

高村 晴一  団体職員
 このような事態に、国際社会も黙ってはいない。国連の安全保障理事会は、本年6月に、各国がソマリア領海内での海賊取り締まりのために「必要なあらゆる措置(all necessary means)」を取ることを認めた決議(安保理決議第1816号)を採択し、今月2日、その決議が半年の期限を経て失効することを受け、その決議内容を1年間延長する決議(安保理決議第1846号)を採択した。また、今月8日には、EUが、初めての海上任務となる「アタランテ作戦(Operation Atalanta)」と呼ばれるソマリア沖対海賊オペレーションを開始する。「アタランテ」とはギリシャ神話に登場する勇猛な女狩人のことだ。その他、米国が主導する多国籍の合同任務部隊(CTF150)も、本来任務である「対テロ作戦」に加え、ソマリア沖で海賊の取り締まりに従事している。

 我が国としても、このようなオペレーションに積極的に参画すべきであることはいうまでもない。そのための特別法制定や「交戦規則(Rules of Engagement)」等の整備は急務である。ただ、このような活動は、いわばソマリアという重病患者に対して施すべき外科的治療である。「今そこにある危機」への対処が優先されてしかるべきであるが、同時に必要なことは、内科的治療、すなわち破綻国家であるソマリアの国家的機能の再建、つまり治安回復のための警察力の強化等の社会的インフラの整備に向けた国際社会あげての復興支援であろう。ソマリアの現状が対症療法だけではどうにもならない事態である以上、破綻国家の建て直しという「日暮れて道遠し」の迂遠な作業を避けて通るわけにはいかない。

 それにしても、世界の一隅で悪さをする一握りの元漁民たちが、これほどまでに国際社会を混乱に陥れたということ自体、驚くべきことである。彼らは国際政治学でいうところの「パワー」とはかけはなれた存在なのだ。今後、同様の事態がいつどこで発生するか、予測がつかないことも問題であるが、はっきりしていることは、このようないわば「リバレッジ型」の脅威がますます国際政治において存在感を増すだろうということである。いずれにせよ、今回のソマリアのケースは、破綻国家がいかに深刻な安全保障上の脅威となりうるか、を国際社会が学んだ貴重な機会であるといえよう。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム