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2008-12-18 13:18

米国自動車業界の行方

池尾 愛子  早稲田大学教授・デューク大学客員研究員
 アメリカの自動車メーカー・ビッグ3の救済問題についての議論は、日本でも注目され、素早く報道されている。アメリカでは、GMの経営立て直し問題は、自動車労働組合(UAW)の譲歩の程度とともに、かなりおおっぴらに議論の的にされてきた。大いに議論されればされるほど、隠れていた問題、論点が次々と出されてくるのがわかる。それでも、社会的に開かれた形での議論には乗りにくい論点も潜んでいることが感じられる状態が続いている。

 行間を読めば、11月下旬の感謝祭前に、ビッグ3の一角に対して、連邦破産法第11条の適用申請(会社再生)が非公式に打診されたことがうかがえる。ビッグ3救済については、民主党の提案ではあったものの、オバマ次期大統領、ペロシ下院議長(民主党)は慎重姿勢をとっていた。12月2日に各社の長期再建案が提出され、会社トップは年俸1ドルで働くことが条件に入ったものの、感謝祭前の250億ドルを上回る340億ドルが要請総額として提示された。この時は、各執行取締役(CEO)は社用ジェットではなく、各社の環境対策車に乗ってデトロイトからワシントンDCにやってきた。3日には、GMのCEOが「破産法の適用を申請するとなれば、第11条ではなく、会社の解体・清算を意味する第7条の申請になる」と発言するシーンが、テレビで繰り返し報道された。

 GMとクライスラーは長期計画とは別に、140億ドルのつなぎ融資を要請した。UAWの譲歩は続いたものの、退職者の年金・医療保障問題では譲歩できないことが明言された。もとより、これらが最大の争点であることが開示されたといえる。しかし、賃金水準、年金政策が、他産業、海外メーカーと断片的な形で比較されてゆくことになり、議論の見通しはつきにくく、説得性をもたせにくいものになっていった。つなぎ融資案については、下院は通ったものの、上院で審議はストップした。現在、ホワイトハウスで金融安定化法に基づく資金の利用が検討され続けている。

 GMの議論が表面に出て世論の批判の矢面に立つ一方で、クライスラーの状態はGMより悪いとされる。12月17日(水)に、クライスラーが19日(金)から最低1か月間、全米30工場(プラント)の稼働を停止すると発表した。クリスマス、大晦日、新年を含むものの、大きな賭けに出たとみられている。フォードは、この季節の休暇を例年の2週間に比べて1週間長くする方針を発表した。

 私の身近な観察やテレビ報道に頼ることになるが、2008年の自動車市場はかなり荒れたと思われる。5桁の郵便番号ごとのマーケティング戦略が敷かれているようで、米市場全体の動向はつかみにくい。10月に引っ越したものの、大学に近いところに住み続けている。アメリカで新学期が始まる7-8月頃に大幅な値引きがあったようで、9月には新しい中型車や小型トラックが増え、観察可能な範囲で車の平均的サイズが明らかに大きくなった。ガソリン価格が高騰した時期と重なったので、それは異様な光景に映った。感謝祭休暇の頃には、GM車の値引き率は40-45%に達し、即金の必要性が感じられた。私の郵便番号に近い地域では単純な値引きをしていたが、「Buy one, get one free.」(1つ買えば、もう一つがおまけでつきます。)というスーパーがよくやる販売戦略をとったディーラーもいたことが報道されていた。2台めについてもディーラー料金と税金は支払う必要があるとのことだった。外国車の販売は、こうしたアメリカ車の大幅値引き販売の影響を被ったことであろう。
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