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2009-01-29 08:00

「躁(そう)」から「鬱(うつ)」に転じた麻生演説

杉浦正章  政治評論家
 首相就任当初の麻生太郎の所信表明演説を「躁(そう)」とすれば、28日の施政方針演説はまるで「鬱(うつ)」だ。早ければ3カ月後には衆院を解散するというのに、勢いにも欠ける。だいいち解散・総選挙への言及もゼロだ。今更低姿勢に転じても、野党が攻勢の手を緩める訳がない。ここに来て「やる気」をなくした背景に何があるのだろうか。打って出るところを、打って出ない、という誤判断をしたとしか思えない。

 民主党幹事長・鳩山由紀夫がオバマ演説と比較して「感動がない」と批判しているが、自分の発言の感動のなさに比べればまだましだ。しかし、いくら何でも自民党幹事長・細田博之の言うように「気力に満ち、やる気満々という感じ」というのは、褒めすぎだ。公明党幹部が「声が明るくない。国民に訴える力がリーダーには必要だが、その点で落第だ」と批判しているあたりが、適切な評だろう。普段は首相擁護に回っている元幹事長・伊吹文明までが「今回は安全運転。盛り上がらなかった」と述べているのだ。

 4カ月前の所信表明では、民主党や代表・小沢一郎に対し逆質問で“追及”、歯切れも良かった。麻生節がまさに発揮されたところだったが、今回は独自性は全く見られず、官僚の作文を“コピー・アンド・ペースト”した感じが濃厚だ。おまけに歴代首相の演説で2番目に短い。側近によると、当初は半分の分量だったそうだから驚く。なぜパンチが欠けたかであるが、任期切れで解散が切迫しているにもかかわらず、一切の言及を避けたからである。直接言及しなくても、解散間近の首相は、政策課題でも目玉発言をして、国民に訴えかけるものだが、政策も淡淡と述べるだけにとどまった。わずかに小泉路線からの転換明言が目新しいだけだ。河村建夫官房長官ら複数の閣僚は「印象的なエピソードを入れ、抑揚をつけた方がいい」と進言したというが、麻生は取り入れなかった。

 中曽根康弘が「死んだふり解散」をして成功したが、まさか真似して「死んだふり」をしているとも思えない。いま「死んだふり」をしていたら、本当に「死に体」になってしまう。だいいち中曽根は当時支持率が高かった。麻生は演説の中で野党に対し「野党にも良い案があるなら大いに議論をしたい」と呼びかけて、打って変わった低姿勢ぶりを見せているが、今更野党が協調路線に転ずるわけがない。八百屋で「魚をくれ」というようなものだ。要するに、施政方針演説の基調が実務的すぎて政治的でないのだ。したがって総選挙を前にした最後の、崖っぷちの緊張感もない。それ故にリーダーシップも感じられないのだ。麻生は「心境の変化ではない」と述べているが、「私は逃げない」の口癖とは裏腹だ。やる気をなくしたという心境の変化ではないとすれば、施政方針演説のあるべき基調を誤判断したとしか思えない。
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