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2009-02-09 06:55

気候変動対策は原点に戻って論点の整理を

池尾 愛子  早稲田大学教授・デューク大学上級研究員
 気候変動問題はアメリカでも注目され、オバマ大統領も積極的に動く様子が見える。「地球温暖化」はどのくらいのタイムスパンで語ることが合意されているのかよくわからないが、最近20年くらいをとれば、アメリカはどちらかといえば寒冷化している可能性が高いように思われる。私のいるノースカロライナ州では、年間あるいは月毎の平均気温は下がってきているようで、「寒冷化傾向」の実感が共有されている。10年近く前に建築されたアパートには、エアコンディショニングを「切」にしても、サーモスタットが反応して、氷結点が近づくと自動的にヒーターが「入」になるような凍結防止措置が施されている。しかし、20年くらい前には、冬でも凍結対策は必要なかったようで、そのころ建てられたアパートには自動凍結装置はなく、外泊するときにはヒーターを「入」にして出かけるようにとの注意喚起が1月後半から行われている。もちろん、北極や付近の氷山が溶けて、北極グマの生態環境が危険にさらされていること、オーストラリアの熱波や自然発火による火事(野火)の拡大はアメリカでも報道されている。それに対して、ケンタッキー州がアイスストームに襲われ、電力会社による電力供給のストップ(停電)も重なって、凍てついている様子は、どのくらい海外で報道されているのだろうか。また、南極の氷は厚みを増しているとも聞く。

 省エネ対策が温暖化ガスの削減につながることは確かである。アメリカでは、省エネはエネルギー安全保障につながると捉えられていて、省エネ・環境対策への政策的後押しは表明されており、デトロイトも例外ではないようだ。ただ、京都議定書には、酸性雨をもたらす硫黄酸化物の削減も目標に入っていたはずである。次の政策提案にあたっては、今一度、気候変動問題の原点に戻って、専門の科学者たちが問題点・論点を整理して、合意点とそれ以外についても、正直に提示することも望まれるかもしれない。

 地球環境対策には産業技術が絡むことから、自然科学と社会科学の両方の知見を動員することが必要になる。科学的活動自体についての精力的研究(Science Studies)を参照すれば、産業別のエネルギー効率や硫黄酸化物排出データ、これまでの(経済産業省などの)省エネ・環境協力からの体験を整理して理論化して、(応用可能な形で)提示することも必要であろう。エネルギー効率や改善の様子が部門によってかなり異なると聞くので、発電、送電、鉄鋼、セメントなどのように部門別データを突き合わせたうえで、対策を整理してもよいであろう。どの企業(あるいは国別平均かグループ別平均)の技術が優れているのかも、データを比較した上で出すべきであろう。技術協力の問題については、本政策掲示板の2007年2月28日から3月3日に「『日中対話』の提起したいくつかの問題」という題での連載投稿の後半2回に書いたことと重複するので省略する。企業は模倣されにくい技術を採用すべきである、とする経営学の理論があるので、まことに悩ましいことに変わりはないが、対策は生産財部門と消費財部門に分けてメカニズムをデザインしてもよいかもしれない。

 科学的研究活動には失敗のリスクが伴うが、失敗を厭わない情熱が科学を進歩させるのだ、という科学的楽観主義がいろいろな意味で現代文明を支えているのかもしれない。こうした科学観では、自然科学と社会科学を方法論的に区別することはない。企業であれ政府であれポリシー(方針・政策)として採択するときには、様々なリスクに対して別の配慮がなされるはずである。省エネ・環境対策では、企業が直面するリスクを削減する形で直接投資を推進する方策を考えてもよいであろう。国際金融制度の再構築でも、新制度や新商品のかかえるリスクを判断し、これまでの問題処理や協力の体験を整理して、理論化するとともに、既存の国際機関・各国機関との望ましい関係の構築を提案していくべきであろう。最後に、ポスト京都議定書の気候変動対策の会議は何度か開催されるのであろうから、必ずニューヨーク辺りでの開催も視野に入れたいものである。
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