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2009-02-27 10:37

「内需拡大への転換」を唱える怪しさ

内海 善雄  前国際電気通信連合事務総局長
 未曾有の経済危機に直面し、内需拡大が叫ばれている。もちろん内需の拡大は、緊急の課題であるが、どうしても納得できないことがある。それは、エコノミストやジャーナリス達が、いっせいに「外需に依存した日本経済のつけ」というような表現を使い、日本経済を内需中心に構造改革をしなければならないと主張していることである。しかし、世界一の高齢化社会の日本が、どうやって個人の消費を増やすのだろうか?人生の終末期を迎えようとしている高齢者に、最後の浪費を薦めるようなものである。医療や介護が、未開拓の内需拡大に貢献する産業だというが、公的負担に依存していても維持が困難な分野である。エコノミスト達は、医療や介護産業が、素晴らしい発展が期待される産業だと本当に思っているのだろうか?どこか別のところで充分儲けて、はじめてこれら産業の顧客になれるのだが、どこで儲けよと言っているのだろうか?

 ところで、日本は、外国に比較して、本当に外需に依存しすぎている経済産業構造なのだろうか?驚くなかれ、総理府発表の世界貿易統計においても、日本の輸出依存度(13.1%)は、例外的な米国(7.8%)を除いて、ヨーロッパ諸国(単純国別平均32.8%)やカナダ(30.7%)よりもずうっと低く、最下位に位置する。アジア諸国の中でも、主要国の半分以下で最下位である。統計数字上は、日本は、世界で最も外需に依存していない国なのだ。数字は「もっとグローバル・エコノミーに組み入り、経済活動を活発化しなければならない」と言っているのだ。

 これ以上の「内需拡大への転換」は、鎖国化への道である。エコノミスト達は、一斉に「バイ・アメリカン」の保護貿易主義を批判するが、「内需拡大への転換」は、まさにこの保護貿易主義と同じ精神土壌にあると思う。食料の6割、エネルギーの9割を外国に依存せざるを得ない日本は、なんとしても輸出をし、外貨を稼がなければならない。日本の豊かさを維持し、更に発展させるためには、どうしても外需を前提とした経済活動にたよらざるを得ない。パニック状態の経済危機を乗り切るためには、公的資金による短期的な有効需要の拡大以外に方法がなかろう。しかし、日本経済を維持発展させるために必要なことは、「内需への転換」ではなく、持続的な「外需の拡大」であると思う。

 それは、国際競争力をどれだけ保持できるかということである。芸術的な感性を始め多くの分野で、日本人は外国人より優れている。中でも、緻密な組織力と高い生産技術は抜群である。日本経済を活性化するのは、このような日本人の得意な部分を生かした国際競争力の開発保持であろう。今必要なことは、付和雷同的な意見に惑わされることなく、薄れかかった自信を取り戻し、自らの得意とする分野を更に強くする努力である。
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