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2009-03-05 15:24

中国の国防費増加傾向をどう判断するか

増田 雅之  防衛省防衛研究所教官
 1月29日付本欄への投稿「総合的な軍事能力の強化をめざす人民解放軍」において、「中国の国防費の増加傾向は変わりそうにない」との見通しを、筆者は示した。その理由は、人民解放軍の新たなミッションが1月20日に公表された「国防白書」において軍種別に幅広く確認されているということであった。こうした文脈で、3月5日に開幕する第11期全国人民代表大会(全人代)第2回会議において、金融危機の影響を受けて厳しさを増す財政状況のなかで、どの程度の国防予算が計上されるのかが注目された。

 全人代開催の前日(4日)、全人代スポークスマンを務める李肇星・常務委員会委員は記者会見を開いた。記者会見では、全人代の議事日程とともに、記者からの質問に答える形で2009年度の中国の国防予算が明らかにされた(『新華網』2009年3月4日)。明らかにされた国防予算は4806.86億人民元で対前年比14.9%の増加となった。2008年度の伸び率が対前年比17.6%であり(『人民日報』2008年3月5日)、それに比べれば2009年度は2.7ポイント下回り、また、財政支出全体に占める割合も近年下降傾向にあることから(『2008年中国的国防』)、李肇星は「国防経費の規模はコントロールされている」と強調した。また、増加分の多くは軍人の生活や訓練の維持に割かれていると説明され、中国の国防費は全体として「合理的水準」にあるという。

 しかし、国防費の合理的水準の均衡点を何処に求めるのかについての判断は容易ではない。人民解放軍のミッション拡大という観点から言えば、中国の公表ベースで14.9%の国防予算の増加はなお十分ではないだろう。例えば、上海政法学院の倪楽雄教授は、中国の海外における利益の増大や海洋の安全保障の重要性を強調して、海洋における軍事力の増強、特に海上輸送路の安定を確保する能力の増強の優先性を主張している(『環球時報』2009年2月27日)。加えて、中国の「国防白書」には海軍だけではなくその他の軍種の新たなミッションも規定されていることを鑑みれば、各軍種が資源の優先配分を求めることもあり得る。

 他方で、倪教授は「グローバルな経済危機が他国と同様に中国にも影響を及ぼしており、多くの国は軍事支出を削減することになるであろう」とも言い、経済情勢がスローダウンする中で、財政支出全体における国防支出の優先的増加を必ずしも所与とはしない見解も示している。仮に、その現れが国防予算の増加率の減少(17.6%→14.9%)だとしても、主要国が軍事費を抑制するなかで、中国が21年連続で対前年比2桁の国防予算の伸び率を継続させている一方で、その透明性が必ずしも確保されていないなかでは、中国の国防費は国際社会において中国への警戒感を惹起させるに十分な額である。2009年の中国の国防予算は英国を抜いて世界第2位の規模になったと考えられる。

 中国軍備管理・軍縮協会の滕建群副秘書長は、中国の「軍事支出の伸び率は低下すべきであるが、2桁の伸び率はなお数年継続するであろう」と述べ(Associated Press, March 4, 2009)、複数の文脈を踏まえた「合理的」な均衡点を求めようとしているようであるが、それを探し出すことは簡単ではなだろう。
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