国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-03-22 11:48

(連載)有毒資産の価格付けについて(1)

池尾 愛子  早稲田大学教授・デューク大学シニア・フェロー
 有毒資産(Toxic Assets、後述)の価格付けがうまくいかない。Toxic Assets は、日本語では「不良資産」と訳されているようだが、ここではその性質を考えるために、別の訳語をあてておく。テレビ他での専門家の説明を聞いて少し考えていると、J・M・ケインズの『プロバビリティ論』(1921)での議論が思い起こされた。プロバビリティ(probability)は、現在では確率、蓋然性と訳されることが多いが、古い文献では「蓋然知」なる日本語があてられていた。同書はそうした確率や蓋然知の論理的基礎を系統的に論じた研究書で、英語では初めてのものと位置づけられている(独語ではよく論じられていた)。

 確率にはいくつかの種類がある。古典的確率は、サイコロを振った時に偶数の目が出る確率や、硬貨を投げた時に表の出る確率であり、これらの確率は0.5である。相対頻度説は、ある年齢での生存確率などで、これは生命保険で使われている。傾向説は、天体の運動や気象予報、景気予測で用いられてきた。ケインズによって論じられたのは論理確率で、論拠(命題)と命題の間の関係あるいはそれに対する合理的確信の程度(0~1)である。彼は海上保険の引受け実務を考察することから確率のイメージを広げていった。「貨物船が積荷とともに無事にロンドンに帰港する」という命題を取り上げ、同船の行方不明情報、浮遊物情報、そして発見情報などによって、航行中に再保険引受料が変化すると論じることを通して、確率やその合理的確信の程度が変化する様子を議論したのである。

 ケインズは、こうして確率のイメージを膨らませた上で、理由不十分の原則(ラプラスの法則)を改めて提示した。つまり、「事象Bが起こるか起こらないかわからない場合、事象Bが生起する事前確率は 0.5 とする」ことを原則にしたのである。このケインズの確率論については、ラプラスの法則を後で説明するという議論の順序を含めて、昔から賛否両論がある。3月16日の本欄に書いたように、現在の金融危機の一因は、サブプライム・ローン(信用力の低い借手に対する融資)による住宅融資によって、リスクをとってはいけない人たちに、リスクをとるような融資を受けるように誘導したことにある、と整理されている。(つづく)

 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム