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2009-03-23 11:20

(連載)世界の民主化について考える(1)

矢野 卓也  日本国際フォーラム研究員
 3月18日のことである。アゼルバイジャンで、大統領の連続三選を禁止する憲法規定が撤廃された。国民投票で、9割を越す賛成をもって承認されたという。この手続きにより、現職のイルハム・アリエフは、次回の大統領選以降何度でも立候補が可能となり、終身大統領への道も拓かれた。クーデターや革命といった体制転覆によらず、「正規」の手続きを通じて終身大統領への道が拓かれるという事態は、今回のアゼルバイジャンに限らず、昨年11月のアルジェリアや本年1月のベネズエラなど、地域を問わず次々と発生している。かつて「民族解放の父」や「革命の父」などが「終身大統領」になったのとは異なるパターンである。

 いずれも形式上、国民投票や議会の承認を経てはいるものの、それが実質的にどれほど「民主的」であったかは定かではない。共和制をとる国はおおむね大統領の多選に制限をかけているが、その制限撤廃が、民主化に寄与するとはとうてい考えにくい。有事の時限的独裁というわけでもないから、その実態はかぎりなく専制(autocracy)に近くなる。21世紀の今日になって、このような体制が次々と誕生すること自体が驚きである。「民主化は時代の流れ」という我々の常識が淡々と裏切り続けられている現状を見る限り、国際社会には今なお望ましい国制(constitution)に関するコンセンサスがないと言わざるをえない。

 冷戦終焉後、フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」論が話題を呼んだことがあった。当時、そのあまりに楽観的な主張に、当惑を覚えた識者も少なくはなかったが、今日ではもはや「そんな時代もあった」かと、追憶の対象になりつつある。世界各地にリベラル・デモクラシーを移植することが一筋縄にはいかないことも明らかとなった。そして、ここにきて、リベラル・デモクラシーの本家本元、つまり久しく先進地域として世界をリードしてきた欧米世界が、政治的にも経済的にも世界を牽引する活力を失いつつあるかのようである。それに対して、ロシアや中国といった、リベラル・デモクラシーとは親和的ではない大国が経済成長を示し、にわかに発言力を持つに至った。

 こうしたなか、興味深いことに、従来の歴史観や発展モデルを「裏返し」にしたかのような議論が見られるようになった。たとえば、昨年出たローバート・ケーガンの『The Return of History and the End of Dreams』などは、まさにフクシマの議論の「裏返し」である。ケーガンは、「専制が復権を果たした」として、世界の途上国にとって、政治の自由化を伴わない経済発展が有力な選択肢となる以上、世界は今後、民主国家圏と専制国家圏に分かれ、両者の対決は不可避だという。ケーガンは、いわば診断は外れていないが危うい処方箋を書く医者といったところか。たしかに現代世界は、ケーガンの診断を裏付ける事象には事欠かないものの、世界を二つに切り分けるべきかどうかは、また別問題である。(つづく)
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