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2013-08-26 07:02
「安倍官邸」はピントが外れ始めたのか
杉浦 正章
政治評論家
首相・安倍晋三はいったん成立して来年4月1日の施行を待つだけとなっている超重要法である消費税法を、今さらひっくり返せると思っているのだろうか。自らアベノミクスを水戸黄門の印籠のように高々と掲げれば、国内も海外も「ははっ」とひれ伏すとでも思っているのだろうか。思っているとしたら、慢心のなせるわざとしか思えない。政界は「まさかやるまい」と思っているから動きが出ないが、本気で安倍が打ち出せば、間違いなく「政局化」する。自民党内各派は来月にかけて数年ぶりに研修会や、政策勉強会を開始するが、予定通りの実施論が強まることは避けられない。消費増税見送りを断行すれば、党内は反安倍勢力が結集し、息も絶え絶えの民主党も息を吹き返す。逆に黄門ではないが「この状況が見えないか」と言いたい。再び総選挙をして国民の信を問うべきほどの問題であることを、官房長官・菅義偉も含めた「安倍官邸」は理解していないのだ。状況認識が甘いのだ。安倍の“悪あがき”は相当なものがある。側近学者で内閣官房参与・浜田宏一の消費増税延期論の旗色が悪くなると、今度は応援にやはり延期論者の官房参与・本田悦朗を繰り出した。大蔵官僚で次官になれなかった敗戦組の本田は、テレビでまるで財務省への意趣返しであるかのように延期論をぶちまくり始めた。「1年待って欲しい。来年の4月はタイミングが悪い」と、まるで首相になったかのような口ぶりだ。無理もない。官邸筋によると、去る11日に安倍とゴルフをした際に、安倍が1%ずつ引き上げる構想を「深く研究して欲しい」とけしかけているのだ。
安倍としては、堀の深さを測ろうとしているのだろうが、さらに一層馬鹿馬鹿しいのは、きょう8月26日から始まる有識者なる者60人からの意見聴取だ。政府は6日間の日程で経済団体や連合、それに業界団体や自治体の代表のほか、エコノミストや経済に詳しい大学教授などから意見を聴く。この意見聴取なるものはまるで、賛成論と反対論を選んで世論調査をするようなもので、何の意味も持たない。本来なら有権者の生の声を聞いて当選した自民党内からまず意見を聞くべきものだが、狙いは別にある。増税延期賛成論があたかも反対論と“同等”であるかのように際立たせることにより、それを受けた安倍の最終判断をやりやすくしようというのだ。外堀を埋めてからあわよくば党内論議を進めようという狙いが見え見えである。しかし党内の空気は安倍が判断するように甘くはない。まず幹事長・石破茂は4月実施論だ。「反対なら福祉財源はどこに求めるのか」と、究極の反論をしている。石破は法律の景気の動向を考慮して実施を判断する「景気条項」についても、「経済状況の激変、例えばリーマンショックのようなケースを想定している。法律はそう読むべきだ」と発言している。自民党幹部筋は「中国のバブルが弾けるようなケースでも生じない限り、予定通り実施が既定路線」と述べている。
だいたい首相側近の学者らの理論武装はなっていない。浜田宏一は1977年の増税が税収にマイナスに作用したと強調しているが、学者にしては勉強不足だ。減収はリーマンショック、アジア通貨危機など外的要因によるものであり、消費増税が直接要因ではない。本田悦朗も1%づつの増税を主張しているが、徴税の実態を知らない。今の徴税能力では、まず国税庁が機能的にパンクしてしまう。毎年1%づつ増税されては、中小企業は真綿で首を絞められるような結果となる。価格に転嫁できないのだ。小刻みの実施だと、累計の税収が2020年までに10兆円減収となるという民間調査もある。だいいち4~6月のGDPは年率2.6%であり、これは増税ゴーの青信号に他ならない。来年4月の時点で状況がよくなっているという保障は全くない。その場合、ずるずる延期を続けるのか。本田は「デフレ脱却の途上での増税は横から弾丸を浴びせるようなものだ」と述べるが、増税を断念した場合の国際的影響を無視している。すでに消費増税は国際公約となっており、市場関係者の大多数が、「見送れば日本売り」と判断している。長期金利が暴騰し、国債が売られて、デフレ対策どころではなくなる状況に陥るというのだ。要するに、虎視眈々(たんたん)と狙うハゲタカファンドの餌食になり、日本経済はそれこそ横からミサイルを受けるようなことになる。米欧など先進諸国は消費税15%、20%が常識であり、5%の消費税をたったの3%上げられなかった事に対する日本の政治への不信は頂点を極めるだろう。
そもそも消費税法は、国権の最高機関である国会が多数で決定したものであり、たとえ首相といえども恣意的な判断でその結果を左右できるものではない。もしどうしてもやるというのなら、まず手始めに自民党内の正式機関の論議を経るべきであろう。昨年8月の3党合意での法案成立に際して、安倍は自民党内で一言も反対論を発していない。さらに総裁となった後の総選挙の公約では「消費増税に伴い、食料品等への複数税率の導入検討」をかかげているではないか。増税を前提にした公約を掲げておいて、いまさら見直しというなら、再度国民の信を問うしかあるまい。それが憲政の常道である。国会も支離滅裂のみんなの党を除いては、4月の増税是認が潮流だ。安倍は10月7日から開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議の前までに判断することになる見通しだが、安倍にあえて潮流に棹さす勇気があるのか。またひっくり返すなら秋の臨時国会で、見直し法案を上程して、1から論議をやり直さなければならない。とてもその時間と余裕はない。首相たる者未練たらしい恣意的な増税見送りへのイニシアチブはやめた方がいい。
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