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(連載1)南北“示談”による米韓同盟の行方   
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-01-18 09:48 [修正][削除]
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3448/3448
 2018年1月9日、朝鮮半島では、2年ぶりとされる南北両国の閣僚による会談が開かれました。新北派で知られる文在寅韓国大統領のたっての願いが叶えられたわけですが、南北の歩み寄りは、今後の東アジア情勢にどのような影響を与えるのでしょうか。

 当初、同南北対話では、議題は、平昌オリンピック問題のみに絞られると報じられていました。しかしながら、議題限定化の予測に反し、韓国側からは、目下の懸案である核・ミサイル問題も提起されたようです。この非核化の提案に対して北朝鮮側は無視を決め込んだものの、平昌オリンピックへの北朝鮮の参加と協力、並びに、朝鮮半島の緊張緩和や軍当局レベルでの会談等については合意に達し、一定の成果が強調されています。

 今後の展望として、文大統領は、南北首脳会談の実現まで視野に入れているそうですが、同大統領が対北融和政策の行き着く先をどのように描いているのか、疑問なところです。仮に、南北統一であれ、“二国共存”の相互容認であれ、それが南北間の和解、即ち、朝鮮戦争の終結(講和)を意味するならば、アメリカとの同盟は、最早、必要ではなくなるからです。

 朝鮮戦争とは、北朝鮮による奇襲的な韓国侵攻を国連安保理が“侵略”と認定し、米軍を中心とした国連軍が侵略国である北朝鮮に対し、武力を以って排除しようとした戦争です。北朝鮮は、平和を破壊する加害国として位置付けられ、国連軍は、多大なる犠牲を払って被害国である韓国を軍事力を以って救済したのです。ところが、南北両当事国が和解するとなりますと、事実上、加害国と被害国とが“示談”したこととなります。そして、米軍をはじめ、“平和の敵”と戦うために軍隊を派遣していた諸国は梯子を外され、犯罪国家である北朝鮮から被害国である韓国を守るという意味での“世界の警察官”の役割も宙に浮いてしまうのです。(つづく)

(連載2)「貧困をなくすために」宇宙進出を加速させるアフリカ ← (連載1)「貧困をなくすために」宇宙進出を加速させるアフリカ  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-01-17 09:30 [修正][削除]
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 とはいえ、人工衛星の用途は経済活動だけにとどまりません。例えば、アフリカでは医師の不足が深刻であるため、通信を用いた遠隔地医療の可能性は医療に携わるNGOの間で数年前から提案されています。アンゴラ政府はアンゴサット1に通信環境の整備だけでなく、遠隔地医療の普及の効果もあると強調しています。人工衛星による地表の情報収集が効果は、これ以外にも難民支援、食糧生産、災害対策などにおいても期待されています。民生用だけでなく、ナイジェリアは人工衛星Sat-Xなどをイスラーム過激派ボコ・ハラムの対策に用いており、2014年には誘拐された273名の人質を宇宙から確認し、その救出につなげています。こうしてみたとき、人工衛星は確かに安いものではありませんが、そのコストに見合う成果を得られるのであれば、よりよい生活環境を作るための「投資」といえます。この観点は、「技術で社会を変える」という考え方に基づくといえるでしょう。ところが、アフリカ諸国の宇宙進出における最大の課題は、そのパフォーマンスにあります。そして、アフリカの人工衛星のコストパフォーマンスを引き下げることが最も懸念される要因としては、科学技術よりむしろ社会や政治のあり様があげられます。

 例えば食糧生産の場合、2017年10月のアフリカ各国の財務大臣が集まる会合に提出された報告書では、市場経済のメカニズムに適応しやすいように小規模農家を商業化する必要が強調されており、そのための必要条件として人工衛星やドローンを含む最先端技術の導入だけでなく、家庭や共同体における女性の役割強化や、土地制度の改革などもあげられています。言い換えると、人工衛星による地表データの収集は食糧増産に寄与するとしても、それ以外の条件が整わなければ、効果は限定的とみられるのです。ところが、これらの地道な社会改革は、派手な宇宙進出と比べて遅れがちです。同様のことは、他の領域に関してもいえます。例えば、先述のようにナイジェリア政府は人工衛星をテロ対策の切り札と位置付けています。ところが、その一方で、2014年12月には「武器・弾薬の不足」を理由にボコ・ハラム掃討作戦への参加を拒絶した54名の兵士に軍事法廷が死刑判決を下しています。つまり、ナイジェリア政府はハイテクの人工衛星を打ち上げるために1基あたり約1300万ドルを投じている一方、ローテクのより基礎的な部分への予算配分は制限してきたのです。このアンバランスな対応がテロ掃討作戦の成果を遠のかせる一因になっていることは疑い得ません。

 1960年前後に独立した多くのアフリカ諸国では、冷戦の背景のもと、東西両陣営からの援助による巨大ダムやテレビ局の建設などを通じて、当時の最先端の科学技術を海外から導入しました。独立したてのアフリカ諸国は、「一人前の国になった」シンボルとして、科学技術の導入を進めたといえます。しかし、メンテナンスを行う人材の不足などから、結果的に無駄になることも珍しくありませんでした。全ての国がそうとはいえませんが、2000年代の資源ブームで急速に成長したアフリカ諸国のなかには、高揚感に満ちた独立期と同様、「科学技術の導入」そのものが目的になっている国があったとしても不思議ではありません。また、冷戦期の米ソと同様、宇宙進出が国威発揚の手段になっていることも否定できません。少なくとも、適切なガバナンスを欠いたままでの人工衛星の導入に高いパフォーマンスを期待することはできません。それにもかかわらず、アフリカでの宇宙進出を加速させている一因には、海外からのアプローチもあります。現在、宇宙開発は巨額の資金の動くビジネスであり、西側諸国だけでなくロシアや中国、さらに日本もこぞってアフリカ各国の人工衛星打ち上げに協力的です。

 宇宙進出の技術をもつ国にとっては、アフリカが有望な市場であると同時に、「技術で社会の問題を解決する」というアイデアを実行するのに格好の土地と映るかもしれません。さらに、宇宙進出に関する協力は、アフリカを取り巻く大国同士の進出競争の一環となっているともいえます。しかし、現地からの要請に沿ったものであったとしても、社会や政治のあり様と無関係に科学技術の成果を投入してきたことが、結果的にアフリカの「コストパフォーマンスの悪い宇宙進出プロジェクト」を加速させていることもまた確かです。だとすると、技術開発をする側にいかに高邁な理想があろうとも、それを上手に運用できる環境がなければ、科学技術は宝の持ち腐れとなり、アフリカの人工衛星は「盛大な打ち上げ花火」で終わります。言い換えると、「技術が社会を変える」のと同じくらい「社会が技術を制約する」といえます。その意味では、宇宙進出レースが過熱するアフリカは、「イノベーション信仰」が広がる世界において、「技術で社会を変える」モデルケースであると同時に「技術革新の成果が反映されやすい社会のあり方」を再考するモデルケースでもあるといえるでしょう。(おわり)

(連載1)「貧困をなくすために」宇宙進出を加速させるアフリカ  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-01-16 10:19  
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3446/3448
 2017年12月26日、南西アフリカにあるアンゴラの初めての人工衛星アンゴサット1(Angosat-1)がロシアの協力のもと、カザフスタンから打ち上げられました。翌27日にアンゴサット1との交信は途絶えましたが、関係者が復旧作業を行い、29日にロシアがコントロールを回復したと発表。約3億ドルを投入したアンゴサット1が星の藻屑となる事態は回避されました。貧困や飢餓といったマイナスのイメージがつきまとうアフリカが宇宙開発に参入することは、多くの人々にとって意外かもしれません。しかし、アンゴラ以前に既にアフリカ大陸54ヵ国中7ヵ国が災害対策、テレビを含む通信環境の改善、軍事利用などの目的で既に人工衛星を打ち上げており、その宇宙進出は今後も加速する見込みです。技術支援を行う側も含めて、アフリカの宇宙進出は「人工衛星が貧困などの社会問題を解決するうえで役に立つ」という考え方に基づきます。しかし、科学技術に社会を変える力があるとしても、それはイノベーション至上主義者が考えるほど無条件のものではなく、「技術革新の成果が出やすい社会」がなければ、アフリカの宇宙進出は「打ち上げ花火」で終わりかねないといえます。

 まず、アフリカ各国の宇宙進出の歴史を振り返ります。アフリカ大陸で初めて自前の人工衛星を保有したのはエジプトでした。宇宙開発がビジネス化され始めていた1998年、フランスのマトラ・マルコニ社によって製造されたエジプトのナイルサット101が、ヨーロッパの多国籍企業アリアンスペースのロケットに搭載されて打ち上げられ、北アフリカ一帯のテレビ、ラジオ電波の送信やデータ通信環境をカバーしました。しかし、初めて自前の人工衛星を製造したのは、これに続いた南アフリカでした。1999年、ステレンボッシュ大学大学院が製造したサンサットが、かつてスペースシャトルの発着に利用されていたヴァンデンバーグ空軍基地から米国のデルタIIロケットで打ち上げられました。これは初のアフリカ産人工衛星で、地表データの収集や電子データ転送通信などを目的としていましたが、2001年に通信が途絶えました。その後、南アフリカは2009年、今度は南アの産学官連携のプロジェクトとして新たな人工衛星サンバンディラサットをロシアのソユーズIIで打ち上げています。その後、アフリカ諸国の宇宙進出は、モロッコ(2001)、アルジェリア(2002)、ナイジェリア(2003)、モーリシャス(2007)、ガーナ(2017)に続かれており、今回のアンゴラは8番目の人工衛星保有国。この他、エチオピアとケニアでも計画中といわれます。

 しかし、貧しいアフリカが宇宙進出を目指すことを一種の「贅沢」とみなす意見もあります。実際、2000年代の資源ブーム以来、その経済成長が注目を集めるようになったとはいえ、アフリカはいまだに世界の最貧地帯です。世界銀行の統計によると、サハラ以南アフリカ平均で41.0パーセント(2013)の人口が1日1.9ドル以下の生活水準にあり、15歳以上の女性のHIV感染率は58.7パーセント(2016)と地域別で断トツで高く、相次ぐ内戦などによって難民数は約600万人(2016)にのぼります(World Bank, World Development Indicators Database)。これまでに人工衛星を打ち上げた国は、他のほとんどのアフリカ諸国より経済水準などで高いとはいえ、それでも人工衛星打ち上げには批判もあります。例えば、南アフリカでは約770万ドルをかけて製造した人工衛星サンバンディラサット打ち上げの際、議会では野党議員から「その資金をもっとよい使い道に回せたはず」と批判があがりました。この種の議論は人工衛星以外にも、例えば高速鉄道の敷設などでもみられます。

 これに拍車をかけているのは、国によって差はあるものの、2014年に資源価格が下落した後、アフリカ諸国の多くで経済成長にかげりが見え始めていることです。やはり世界銀行の統計によると、アフリカ平均で2000年から2013年まで平均4.8パーセントあったGDP成長率は、2016年には2.9パーセントにまで下落。今回、アンゴサット1を打ち上げたアンゴラはサハラ以南アフリカで第2の産油国ですが、2016年の成長率はゼロにまで落ち込んでいます。ただし、その一方で、人工衛星の打ち上げには「投資」の側面もあります。昨今のアフリカではしばしば、「貧困など社会問題を解決するための手段」として人工衛星の必要性が強調されています。例えば、アフリカでは携帯電話の普及が加速しており、これは単に通信手段の普及だけでなく、その他の産業に大きな波及効果を及ぼすことを意味します。例えば、ケニアで生まれた携帯電話を通じた送金サービスM-Pesaは、銀行口座をもてない貧困層にとって重要な金融サービスとして普及しており、同種の事業はルワンダなど近隣諸国でも生まれています。この環境のもと、通信環境の整備は不可欠の課題で、そのためにも人工衛星の需要は大きいといえます。(つづく)

トランプの先に見えてくる新軍産複合体   
投稿者:大井 幸子 (東京都・女性・SAIL代表・-)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-01-16 10:07 [修正][削除]
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3445/3448
 2018年も昨年同様、トランプ旋風が世界に新秩序の始まりを知らしめるだろう。米国内では、トランプ減税が短期的には個人消費を押し上げ、企業の設備投資を刺激すると見られる。国内景気を牽引するのはAmazon GoのようにB2Cでビッグデータを集積し需要を先取りするIT企業群で、今やニューエコノミーがオールドエコノミーの生産体制を主導するという新しい産業構造に移行しつつある。

 この新しい産業構造は、プラットフォーム・エコノミーやシェアリング・エコノミーという形ですでに拡散・浸透している。AIやIoTは「産業連関のパラダイム・シフト」という大きな枠組みでとらえるべきである。新しい産業構造を率いるグーグルのような巨大IT企業、そして、財務省と国防省とが協力し作り上げる新たな軍産複合体の姿が見えてくる。トランプ政権はこの新軍産複合体が目指す「アメリカ第一主義」を実現する政権である。

 FRBパウエル新議長は実務家であり、トランプ政権の意向に沿う形で、おそらく年に3回は利上げを行うだろう。3月には今年最初の追加利上げが予想される。一方で米国には不安定要素がある。第1に、トランプ大統領個人の資質と政権内部の混乱である。数日前に政権内幕を暴露した「炎と怒り」が出版されベストセラーになっているが、ロシアゲートで政権中枢に捜査が迫る中、人騒がせな内輪揉めはまだまだ続くだろう。第2の不安定要素は、朝鮮半島情勢への対応である。米国の対外戦略の主たるターゲットは中国である。

 日本にとって今年は、日米同盟の「デカップリング」(切り離し)が明確になるだろう。米国は日本に「覚醒」を求め、中国に対する牽制など安全保障でより大きな役割を担うことを望んでいる。尖閣諸島がそのキモになりそうだ。

ドイツ情勢と世界について   
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-01-10 16:46 [修正][削除]
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3444/3448
 私は今年の最大リスクの一つとして、「ドイツの政局不安」から連鎖する、「独仏連携であるメルケロン体制の揺らぎ」と、これに起因して起こる、「EU体制の崩壊リスク」が顕在化し、その結果、「欧州経済の悪化の可能性が高まる」ことが懸念され、具体的には、「欧州株価の下落」とそれに伴う、「先進国株の連鎖下落」に伴う、「先進国株の同時下落」によって、「世界経済に一気に暗雲が広がる」と言う可能性があるという事を懸念しています。

 「EU崩壊」のリスクさえ顕在化しなければ、こうした私のつまらぬ見方などは、「杞憂」に終わり、後には、「ああ、なんとつまらぬことに心配したのであろうか」と思うのでありましょうが、どうしても、今は、「ドイツの政局展開」に注目せざるを得ません。いや、それほど、「まさかドイツの政局が」「何故、すんなりとドイツでは連立政権が成立しないのか」と疑問に思うからであります。ドイツの政治家たちが、冷静に考えれば、「小事を捨て、大局を見つめるべき」であることは自明の理であり、政治家としての思惑はあっても、すんなりと連立政権が樹立していれば、今の時期には、「EU体制は大丈夫である。従って、欧州経済に不安はない。よって、2018年の欧州経済も先進国経済も堅調に推移し、日本経済には更に明るい兆しが見えてくる」と言えたものと思いますが、ドイツの連立政権樹立は年を越してしまいました。

 即ち、先月20日にドイツのメルケル首相と第2党の社会民主党(SPD)のシュルツ党首が会談し、今後の政権協議の日程を決めたわけですが、政策のおおまかな方向性を話し合う予備交渉はこの年初から始め、本格交渉の開始は1月下旬以降にずれこむものと見られています。これによって、ドイツで総選挙後に正式な政権が存在しない期間は戦後最長となっており、この政治的空白は世界の不安を拡大しているのであります。メルケル氏が率いるキリスト教民主・社会同盟(同盟)とSPDとの予備交渉の開始は1月7日、そして、メルケル首相と話し合うSPDは当初の予定を延期して今月21日にボンで臨時党大会を開き、本交渉に進むかどうかを決めると言っています。SPD、シュルツ党首がこれほど、連立政権樹立を慎重に考えている背景には、やはり、ドイツ国民の、テロに対する不安の高まりに基づく、「ドイツ版自国第一主義」がじわじわと一般市民の間に拡大していることにあり、それをベースに政権運営の主導権獲得に色気を見せるシュルツ党首、SPDの野心も見え隠れしていることが考えられます。

 何れにしても、ドイツの連立政権樹立の動きは欧州経済全体に、そして世界経済にも影響を与える可能性があることから、年初より、大いに注目しなくてはならないイシューとなりました。ドイツの連立政権の早期樹立を強く望みたいと思います。尚、こうした中、実際にメルケル首相は、新年に向けた恒例のテレビ演説の中で、「世界は待ってくれない。ドイツが今後10年、15年と成長していく条件を作る為、迅速に行動しなければならない」と述べた上で、難航している新政権樹立に注力する決意を示しています。

中国市場に期待するより中国企業に警戒を   
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-01-09 12:53 [修正][削除]
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3443/3448
 近年、2030年頃にはGDPにおいて中国がアメリカを追い抜き、世界第一位の経済大国に躍り出るとする予測を目にするようになりました。こうした予測の根拠は、13億を数える中国の人口規模にありますが、この予測が正しければ、日本国は、中国市場に期待するよりも、巨大化する中国企業こそ警戒すべきではないかと思うのです。経済成長率が6.5%程度に減速したとはいえ、日本国内には、中国の経済成長をビジネスチャンスとして歓迎する声は少なくありません。少子高齢化により国内市場が縮小傾向にある日本国では、なおも拡大を続ける13億の中国市場は、製造拠点、消費市場、投資先等の何れの面においても魅力的です。しかしながら、市場規模と企業規模は比例する点を考慮しますと、この歓迎論は楽観的に過ぎます。

 例えば、80年代にヨーロッパにおいて試みられた市場統合は、欧州企業の規模の拡大を意図していました。市場が中小の国ごとに細分化された状態では、日米等のハイテク企業が凌ぎを削るグローバルな国際競争には生き残れないとする危機感が、欧州市場の誕生を後押ししたのです。かくして、規模においてアメリカを凌ぐ人工的な巨大市場が出現したのですが、この点、中国は、市場規模に苦労する必要はなく、既に国内市場のみで世界一の規模を誇ります。このため、中国の国内市場の成長は、即、中国企業の競争力伸長を意味するのであり、技術的劣位も、グローバル化を追い風とした技術移転や企業買収等により容易に克服し得ます。昨年、東芝の家電部門が中国の美的集団に買収されましたが、この事例は、日本企業が中国市場においてシェアを伸ばすのではなく、多国籍化した中国企業が、日本市場の一角を占めてしまう展開の先例となりました。今後も、“規模の経済”を背景に、資金力にものを言わせた中国企業による日本企業の買収が続けば、やがて、日本経済は中国経済に飲み込まれ、日本企業は消滅の危機を迎えないとも限らないのです。

 しかも、政経一致を旨とする共産党一党独裁体制が堅持されている中国では、政府系企業が幅を利かしており、民間企業もまた、法律によって共産党員の受け入れを義務付けられています。乃ち、中国企業の海外進出には、進出先の国における中国の政治的影響力、否、支配力の浸透を伴うのです。その一方で、中国は、自国企業を保護・育成し、併せて体制を維持するために、国境に見えない“万里の長城”を建設しています。

 人口規模において国家間に先天的な条件の違いがある場合、レッセ・フェール的な自由貿易主義の貫徹が適切であるとは言えないように思えます。中国の鉄鋼の過剰生産問題に際しては、日頃は自由貿易主義の堅持を主張してきた諸国でさえ、これを自由貿易の結果として受け入れようとはしませんでした。13億の市場を背景に中国企業が全世界に事業を広げる今日、日本国を含め、巨大化する中国企業対策、そして、拡大至上主義や規模優位型経済からの転換こそ真剣に考えるべきではないかと思うのです。

新年明けましておめでとうございます   
投稿者:伊藤 憲一 (東京都・男性・グローバル・フォーラム代表世話人・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-01-01 00:01 [修正][削除]
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3442/3448
 新年明けましておめでとうございます。

 グローバル・フォーラム、公益財団法人日本国際フォーラム、東アジア共同体評議会が連携し、特定非営利活動法人世界開発協力機構の後援によるe-論壇「議論百出」「百花斉放」「百家争鳴」の全国および全世界の投稿者および愛読者の皆様に新年のご挨拶を申し上げます。

 早いもので、このe-論壇も、2006年4月12日のスタートから数えて、12度目の正月を迎えることになりました。この間に投稿者、愛読者の皆様のアクセスも、パソコンからスマホに重点を移しつつ、連日10数万人に達しております。年間では、延べ人数で1億人に迫るスケールとなりました。

 e-論壇「議論百出」「百花斉放」「百家争鳴」は、それ自体が組織として特定の政策上の立場を支持したり、排斥したりすることはありません。発表された意見に責任を負うのは、あくまでもその意見に署名した者のみであります。会員や一般市民の皆様に研究活動への参加や発言の機会を提供することにより、内外の世論を啓発し、相互理解の増進に寄与することを目的としております。極端な一方的議論に凝り固まるのではなく、反対論にも謙虚に耳を傾け、バランスのとれた冷静かつ寛容な議論を交わす場として、その使命を果たしてゆきたいと考えております。

 e-論壇「議論百出」「百花斉放」「百家争鳴」の近況についてご報告させていただきました。旧年に引き続き、新年もまた皆様のご支援とご参加を得たく、お願いいたします。

2018年元旦

グローバル・フォーラム代表世話人

伊藤 憲一

(連載2)法定通貨について ← (連載1)法定通貨について  ツリー表示
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-28 10:35 [修正][削除]
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3441/3448
 また、先ずはキャッシュレス化を推進、これを一気に世界に広げようとする英国は英国連邦の一つ、インドと組み、そのインドにキャッシュレス化を進めさせ、その功罪を確認しながら、こうした計画を、自国通貨のみならず基軸通貨にも活かしていく仕組み作りに向けた壮大なる実験を始めていると私は認識しています。時代の趨勢ですね。

 そして、わが国、日本でも一つの実証実験として、「現金通貨でのお支払いお断り、電子決済のみ支払い可能」のレストランが生まれています。しかし、私にはここに一つの根本的な疑問があります。それは、原則として、「法定通貨には強制通用力がある」と言うことであります。国家の主権を握る政府は政府=国が発行する法定通貨に信用力を持たせ、国民が自国内に於いて、これをいつでもどこでも使えるように担保していますが、その法定通貨を使わせないお店と言うのは、ある意味で、「法律違反」となります。

 従って、日本でも、政府は基本的には、「仮想通貨は認めない」と言うスタンスを基本とし、しかし、一方で国民利便性を高める為、政府が通貨管理をできるように仕組みを整えつつ、「キャッシュレス化」を進めてくると私は見ています。

 また、そうした流れの中で、時代の趨勢としては、「現行の基軸通貨、米ドルの信認は落ちる方向にある」のではないかと思います。一方で、「国際金融の雄・英国と、一気にキャッシュレス化を進めている中国本土は連携をし、キャッシュレス化を前提に、新たな基軸通貨体制を構築してくる可能性がある」とも考えています。何れにしても今後も注目、フォローしたいと思います。(おわり)

(連載1)法定通貨について  ツリー表示
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-27 10:43  
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3440/3448
 「通貨は国家の主権の象徴である」と言われます。一国の政府は、「自国内に於ける国民のものやサービスの経済的な価値判断基準」である「通貨」を、「善意」を以って管理をし、「国民生活を安定させる」ことが一つの重要な役割であり、そうした意味で、「中央銀行の一つの大切な使命は物価を安定させ、国民生活を安定させることにある」とも言われます。

 さて、こうした中、最近、世界の潮流として、その中央銀行が発行する「法定通貨」を背景としない、「仮想通貨」なるものが世界に広がっています。電子マネーは法定通貨を背景としていますが、仮想通貨はさに非ず、私の言葉で表現すれば「変形の現代版無尽」のようなものであり、「親=仮想通貨の発行主体の信用力を担保にして集めたお金を有効利用していくシステムをIoT化した社会を背景にして実現している」ようなものであると私は見ています。

 しかし、過去の無尽は、「当時の法定通貨」を背景としていますので、いまの仮想通貨よりもまだ相対的には信用力があると思います。これに対して、現在の仮想通貨は、「親」が無責任であると、その仮想通貨を保有した人は大損害を被る危険性があります。一方、政府、金融当局からすると、通貨による経済管理がしにくくなることによって、「国民生活を安定させる」と言う大目的に大いに支障をきたす危険性もあります。

 従って、政府としては、「政府が“親”になる」形で、このIoT時代に合わせて、「キャッシュレス化」を更に推進していくことを進めようとしてくるものと思います。そして、実際に、スウェーデンやエストニアと言ったあまり人口は多くなくIoT化が社会に浸透している国々ではこうした動きが見られます。(つづく)

見えてきたトランプ「アメリカ第1主義」   
投稿者:大井 幸子 (東京都・女性・SAIL代表・-)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-26 11:10 [修正][削除]
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3439/3448
 12月18日にはトランプ大統領が国家安全保障戦略を明確に打ち出し、また19日に共和党の税制改革法案が議会下院を通過した(再採決が必要だが)。トランプ政権発足から早くも1年近く経とうとしている中、具体的な「アメリカ第一主義」の姿が少しずつ顕れてきたようだ。その特徴は、一言で言えば、21世紀版「富国強兵」である。

 まず、「富国」について。これまで大きな法案成立の実績がなかったトランプ大統領だが、ようやく30年ぶりとなる大減税法案成立の可能性が高まってきている。ただし、すんなり上院を通過するかどうかはわからない。その中身について、法人税減税、相続税減税がポイントと筆者は見ている。この法案が富裕層や不動産保有者を優遇するとの批判は、実際、的を射た批判である。現に中間層(特に中の下の層)の個人は減税の恩恵を2026年までは受けるがその先は長期的には実質増税になる。トランプ大減税の狙いは何か。ズバリ、米国自体が「世界のタックスヘイブン」となり、米国に世界の富を集中させ、競争力を取り戻すことである。具体的には多国籍企業を米国に引き戻し、さらに、世界の優秀な企業を米国で経済活動させ、国内の雇用を促進し、国を繁栄させることである。

 次に「強兵」について。トランプ氏の国家安全保障戦略では、明らかにロシアと中国に対して「力による平和の維持」を打ち出している。米国は2000年に中国をWTOに加盟させ、自由貿易圏に取り入れて「世界の工場」へのし上らせた。今後は中国が他国の主権と貿易の自由を侵す存在であるとし、戦略上の位置付けを変えている。

 国際秩序の基軸は、米州(南北アメリカ)とアフロ・ユーラシア(アフリカ、欧州およびアジア)の2極に分解し、欧州連合から離脱した英国がその漁夫の利を得ようとしている。2018年は、トランプ政権「新秩序」構想を巡り、世界の大変動が本格化しそうだ。

トランプ政権の「国家安全保障戦略」と日本国憲法第9条   
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-25 17:37 [修正][削除]
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 2017年12月18日、アメリカのトランプ大統領は「国家安全保障戦略」を公表し、同政権による安全保障政策の基本方針を内外に示しました。さながら“トランプ・ドクトリン”となるのですが、その基調となるのが「力による平和」です。同戦略では、とりわけ中国とロシアに対する警戒感を露わとしており、「力による平和」とは、これらの諸国の覇権主義的な行動に対する強い牽制を含意しています。このため、早、中ロからの反発が報じられていますが、「力による平和」は、日本国においても憲法改正に関わる重大な問題を提起しております。何故ならば、憲法第9条、否、日本国憲法とは、その前文に謳われているように、「力による平和」とは正反対の「力なき平和」を前提としているからです。護憲論者からしますと、トランプ政権の基本方針は、その前提を打ち砕く反平和的な危険極まりない方針に映ることでしょう。

 しかしながら、人類史が明らかにしているのは、究極的には、力を以ってしか暴力を押さえることはできないという、厳粛なる事実です。この厳しい現実は、仮に、犯罪組織が政府よりも強力な武器を備えた場合を想像してみればよく理解できます。メキシコでは、既にこの状態が発生しており、麻薬密売組織がメキシコ政府を凌ぐ武力を保持するに至ったため、同国の治安は著しく乱れ、一般の国民は、常に犯罪組織に怯える生活を余儀なくされています。麻薬密売組織が急速に勢力を拡大させたフィリピンもまた、メキシコ化の危機にあると言えましょう。何れにしても、犯罪組織の武力が政府のそれを上回る場合には、同組織による加害行為を止めることは極めて困難となるのです。そして、犯罪組織にとっては、一方的な脅迫や殺傷を可能とする武力こそが“生業”を守り、法を排除する手段なのですから、話し合いや交渉によって放棄するはずもないのです。

 国際社会にあっても、国際法を無視し、他国の主権、領域、国民を一方的に侵害する国は、上記の犯罪組織と変わりはありません。そして、こうした無法国家が、高みから他の諸国に対し軍事力を以って睥睨し、実際にその抜きん出た軍事力を行使するに至れば、全ての諸国の運命は風前の灯となります。“力”という言葉は、利己的な目的で他者に対して害を与える暴力と、その暴力を押さえるための正義の力、防御の力とを区別する必要があります。非暴力・無抵抗主義は、高邁な理想ではありますが、両者の違いを認識せず、暴力に対抗する抑止的軍事力や警察力までをも一緒くたに放棄するとなりますと、暴力を是とする犯罪組織に、国家の、そして人類の運命をも掌握されてしまうこととなりましょう。実際に、非暴力・無抵抗主義を是としたチベットは、今なおも暴力主義国家の頸木に繋がれております。

 トランプ政権が示した「力による平和」という基本方針は、それがアメリカ・ファーストの意味であれ、日本国に対しても、「力なき平和」を求める憲法第9条に潜む本質的な問題をも問うております。日本国は、改憲案の策定に際しては二つの力を峻別し、国際法と合致する自国の行動規範のみならず、他国の暴力主義への対抗をも十分に考慮すべきと思うのです。

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投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-22 23:22 [修正][削除]
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 そのトルコ政府にとって最大のライバルは、メッカとメディナという二つの聖地を擁し、イスラームとりわけスンニ派の盟主として君臨するだけでなく、世界屈指の産油国でもあるサウジアラビアです。そのサウジに対して優位に立つための一つの手段として、トルコは価値観や文化といったいわゆる「ソフトパワー」を多用してきました。そのなかには、厳格なイスラーム体制であるサウジアラビアを念頭においた、トルコ型の「民主主義とイスラームの両立」に優位性の宣伝だけでなく、公式には「オール・イスラーム的課題」のはずであるにもかかわらず、サウジアラビアが関与に消極的なパレスチナ問題への取り組みがあげられます。例えば、イスラエルが2007年にパレスチナのガザ地区を「テロの巣窟」として封鎖し始めた後、この地では食料やエネルギーの不足が深刻化。これに対して、「人道支援」の名目で食料などを輸送していたトルコの民間団体がイスラエル海軍に攻撃され、9人が殺害されています。これに代表されるパレスチナ支援は、ほとんど何もしないサウジなど他のスンニ派諸国との対比を念頭に、「パレスチナ問題に積極的なトルコ」のイメージを流布するものでした。つまり、パレスチナ問題への関与を深めることは、トルコにとって、イスラーム世界における幅広い支持を集める手段という側面があるといえるでしょう。

 トルコのこの姿勢は、その支持基盤とも無縁でありません。先述のように、エルドアン政権はムスリム同胞団の支持を得て勢力を拡大させました。ところで、ガザ地区を実質的に支配してきたハマスは、ムスリム同胞団パレスチナ支部から分裂した組織です。そのため、やはりムスリム同胞団を支援するカタールとともにトルコはハマスを支援してきました。これに対して、イスラエルや米国はかねてからハマスをアルカイダやイスラーム国とともにテロ組織に指定してきましたが、近年ではサウジなどスンニ派湾岸諸国もこれに歩調をあわせています。今年6月にサウジアラビアがカタールと断交した一つの理由は、同国がハマスを支援していたことにありました。ただし、サウジがアルカイダなどスンニ派武装組織に資金を提供してきたことは、いわば公然の秘密です。その方針を翻して米国などと協力し、イスラエルによる占領に抵抗するハマスを封じ込めることは、サウジにとってはイスラーム圏での指導力にかかわるリスクを抱えたものです。これは翻って、ハマスを支援する方針は、トルコの存在感を高めてきたといえるでしょう。

 こうしてみたとき、トランプ政権による「エルサレム首都認定」に対してトルコがひときわ大声で異議を申し立てたことは、不思議ではありません。それはトルコ人とアラブ人という民族の違いを超えて、イスラーム世界におけるエルドアン大統領の存在感を高める効果があるといえます。いわばパレスチナ問題を自らの指導性に結びつけている点で、エルドアン大統領はサダム・フセインと共通するといえるでしょう。もちろん、1991年のイラクと異なり、トルコが米国と正面から衝突することは、ほとんど想定できません。トルコは現在もNATO加盟国で、米国の安全保障上のパートナーであるばかりか、シリア難民の保護でも西側と協力しています。さらに、少なくとも現状において、多くの湾岸諸国と異なり、トルコはイスラエルとの国交を維持しています。ただし、サウジが米国との関係を加速度的に回復させているのと対照的に、トルコが米国の引力圏から急速に離れていることも、また確かです。そして、「エルサレム首都認定」を契機にトルコの影響力が中東で高まれば、それは米国やサウジの存在感が小さくなるのとともに、ロシアやイランの勢力がさらに大きくなる契機になり得ます。

 12月11日、プーチン大統領はロシア軍にシリアからの撤退を命令。ロシア軍による「イスラーム国」制圧がほぼ完了したことを印象付けました。西側諸国はこれを認めようとはしませんが、シリアでの戦闘がロシアやイラン、そしてそれらに支援されるアサド政権の優位で終結に向かっていることは否定できません。この状況下、先述のようにロシアやイランとともにシリア内戦の終結に向けた協議を主導するトルコは、アサド政権に敵対する勢力を支援してきた欧米諸国やスンニ派湾岸諸国より、「地域の安定に貢献した国」として認知を得やすい立場にあります。今回のOIC会合は、これをさらに加速させるものといえるでしょう。第二次世界大戦後、米国は安全保障、経済ともに中東で大きな影響力を保ってきました。しかし、「エルサレム首都認定」はイスラーム世界における反米感情を高め、2003年のイラク侵攻と同様、米国自身の立場を浸食させるものであり、それは中東一帯の力関係に大きく影響し、この地域の政情をさらに不安定化させるとみられるのです。(おわり)

(連載1)米「エルサレム首都認定」で利益を得る者  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-21 14:31  
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 12月13日、OIC(イスラーム協力機構)が緊急会合を開催。OICはその名の通りイスラーム諸国をメンバーとする国際機構です。今回の会合は米国トランプ大統領によるエルサレム「首都」認定を受けて開催され、共同宣言では東エルサレムをパレスチナの首都と宣言。これを認定するよう、各国に呼びかけることで一致しました。その一方で、イスラーム諸国の間でも温度差もあります。今回の会合でも、米国と安全保障、経済ともに密接な関係にあるサウジアラビアなど湾岸諸国やエジプトは、外務副大臣の出席にとどめるなど、総じて批判のトーンは控えめでした。これに対して、とりわけ米国やイスラエルに対する批判の急先鋒となったのは、議長国トルコでした。トルコのエルドアン大統領はイスラエルを「テロリスト国家」と断定。これに呼応するように、やはり首脳級が参集したイラン、カタール、レバノンなどを中心とする米国-イスラエル批判のトーンは強まり、共同声明では「米国は中東和平の調停者と認められない」ことが打ち出されました。ただし、トルコの強硬な姿勢は、単純にパレスチナ人への同情や宗教的な使命感からのみ発せられているとはいえません。そこにはパレスチナやエルサレムをめぐる問題が、中東におけるトルコ台頭の手段になっている様相をも呈しています。この点において、エルドアン大統領にはサダム・フセインとの共通性が見出せるのです。

 ユダヤ人とパレスチナ人で争われてきた、聖地エルサレムの帰属を含むパレスチナ問題は、イスラーム諸国にとって微妙な問題であり続けてきました。イスラームの価値観を強調するなら、イスラエルが占領政策を続けている以上、アルカイダをはじめとする過激派が主張するように、パレスチナ解放のためにはイスラエルやその後ろ盾である米国との対決を避けられません。しかし、地域随一の軍事力とみられるイスラエルとまともに衝突し、米国市場へのアクセスを失うことは、各国にとってリスクが高すぎます。この背景のもと、ほとんどのイスラーム諸国の政府は、1973年の第四次中東戦争を最後に、外交的な声明はともかく、実質的には具体的なアクションをほとんど起こさなくなったのです。これは各国政府にとって、自国の利益を優先させた、いわば現実的な判断だったといえます。しかし、1970年代以降、イスラームの影響力が強まるにつれ、イスラーム諸国政府の態度には自国民からの不満が増幅。それが明らかになった転機は、イラクがクウェートを占領したことを端緒とする1991年の湾岸戦争でした。

 クウェートからの撤退を求められたイラクのサダム・フセイン大統領(当時)は、「イスラエルによるパレスチナ占領」を持ち出し、米国がこれを支援・黙認しながらイラクを批判するのは「ダブルスタンダード」であると主張。そのうえで、イスラエルにスカッドミサイルを打ち込み、これを挑発しました。フセインは世俗主義的な人間で、必ずしもイスラームに熱心でなく、湾岸戦争以前にパレスチナ問題に関して積極的に取り組んだことはありません。つまり、湾岸戦争であえてパレスチナ問題を持ち出したことは、イスラーム圏諸国の支持を期待した、外交的な戦術に過ぎなかったといえます。ところが、フセインの主張に理解を示したイスラーム諸国政府はほとんどなく、この点でフセインの希望は実現しませんでした。各国政府にとって、既存の国境線を一方的に変更することは認められず、またフセインの野心への警戒もありました。しかし、これと対照的に、一般レベルではフセインの主張は広く浸透。東はインドネシアやパキスタンから西はモロッコに至るまで、多くのイスラーム諸国でフセイン支持のデモが相次いで発生したのです。つまり、フセインの論理はイスラーム諸国政府の支持をほとんど得られなかったものの、「パレスチナ解放」の大義を口にしながらも実際には何もしないイスラーム諸国政府に対する各国国民の不満を焚きつけることに成功したといえます。その結果、フセインはイスラーム世界において「唯一の超大国に立ち向かう英雄」に押し上げられることになったのです。

 この観点から今回のOIC緊急会合をみると、トルコのエルドアン大統領の言動には、少なからずフセインとの共通性が見受けられます。トルコ共和国は1924年の独立以来、世俗主義を国是とするだけでなく、冷戦期からNATO(北大西洋条約機構)加盟国として西側先進国、とりわけ米国と深い関係にあります。しかし、近すぎる関係が逆に反米感情の温床となることは、フィリピンなどでもみられるものです。その結果、2003年から同国の権力を握るエルドアン大統領は、イスラーム組織「ムスリム同胞団」などの支援を受けており、女性議員のスカーフ着用を認めるなど、社会のイスラーム化を推進。さらに、インターネット検閲の強化など、政府に批判的な勢力に対する強権的な取り締まりにより、西側先進国との関係はこの10年で加速度的に悪化しています。近年ではシリア内戦で、西側先進国がアサド政権に打撃を与えるため同国のクルド人勢力を支援することに、やはり国内でクルド人の分離独立運動を抱えるトルコは激しく反発。2016年12月にトルコ政府はアサド政権を支援するロシア、イランとともにシリア内戦の終結に向けた国際会議の開催を主導し始めるなど、NATO加盟国でありながら米国と距離を置いた政策が目立ちます。これら独自の外交方針のもと、エルドアン大統領率いるトルコ政府は、中東一帯での影響力の拡大を目指しています。その方針は、かつて中東一帯を支配したトルコ人のイスラーム帝国、オスマン帝国になぞらえて、ネオ・オスマン主義とも呼ばれます。(つづく)

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投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-20 10:07 [修正][削除]
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 然るに、2016年10月13日にその信任厚いプミポン国王が崩御、同年12月1日にワチラロンコン王子が国王に即位したことを受けて、「タイの軍暫定政権は一体何時、選挙を実施、民政への移管を実施するのか」について、各所では注目されています。取り敢えず、2017年4月7日に新憲法が公布され、同日施行されていることから、「総選挙、民政移管への道を歩み始めている」と見ても良いかもしれませんが、それでも、「実際の民政移管までには、まだまだ時間を要する」「民政移管への過程で、ワチラロンコン新国王とその新国王に近いと見られるタクシン元首相の連携により、タイの新体制は相対的には中国本土との関係が深い新国王とタクシン元首相の思惑もあって、中国本土寄りの姿勢が加速化する」と言った見方も出ているのであります。

 このようなタイではありますが、「日本人のタイに対する一般的な印象」を総括してみますと、「タイには、長年、国王が存在し、天皇制を持つ日本と類似している」「タイは歴史的に見ると農業を中心として発展して来た国家であり、そうした意味でも日本と類似している」「タイの生活の根底には『仏教』が存在している。小乗仏教を基本とするタイの仏教と大乗仏教を基本とする日本の仏教には根源的な違いがあるものの、同じ仏教が庶民にも浸透していると言う点で、日本人はタイに対してスィンパシーを感じやすい」「タイ人は『微笑みの国』の人にも代表されるように、温厚であるとの認識が、一般的には、日本人に浸透している。因みに私の経験からすると、例えば、タイ人は一般的には人前で面子を潰されることを極端に嫌い、これを面子を潰されると豹変、突然、激しい言動に出る傾向があります。従って、タイのオフィスでタイ人に注意をする際には、人前で激しく叱責するような行動は極力控えていました」

 さらに、「歴史の中での山田長政の話が日本人には多く浸透しており、そうした点からもタイに対する親しみを日本人自身が感じやすい」「タイの日本に対する反日意識がさほど無い中、典型的には、中国本土、或いは韓国などに比べると、相対的には、タイ人が圧倒的に日本びいきであると日本人が感じている」「外交面でも、ビジネス面でも、タイとの関係を強化し、それを梃子にして、中国本土やその他ASEAN諸国とのパワーゲームを行う為のカードとして、タイは利用しやすいと日本人は考えている」「ASEAN諸国への食い込みへの『橋頭堡』としてタイを捉えている」等々の印象を持ち、一般的には、「日本人のタイに対する印象は良い」と言えるかと思います。

 しかし、そうしたタイが上述したように、今後、相対的には中国本土に寄り、その立ち位置を変えていく可能性、日本にとっては危険性とも言えますでしょうか、を注視していく必要があると思います。これまでのタイに対する一般的な印象から、ある意味では少しはなれて、様々な視点からタイの情勢はフォローしていきたいと思います。(おわり)

(連載1)タイについて  ツリー表示
投稿者:真田 幸光  (埼玉県・男性・大学教員・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-19 10:26  
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 今回は、「東南アジア諸国連合=ASEAN、アセアンの優等生」「微笑みの国」などと言われる「タイ」について眺めてみたいと思います。通称タイ、正式には、「タイ王国」と呼ばれるタイは、東南アジアに位置する立憲君主制国家であります。また、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピンと共に、当初の基本姿勢としては、「中華人民共和国の人民解放軍の南下傾向」を懸念、これを未然に防ぐべく、東南アジアのこれら主要国が連携して1967年8月に創立した東南アジア諸国連合(ASEAN)に当初より加盟した国であり、アセアン諸国有数の影響力の加盟国でもあります。そして、通貨はタイバーツ、人口6,718万人、首都はバンコクであることは皆様もご存知の通りであります。また、タイの国土は、インドシナ半島中央部とマレー半島北部を占めており、南はマレーシア、東はカンボジア、北はラオス、西はミャンマーと国境を接しており、長い歴史的視点から見ると、「周辺地域との紛争も絶えなかった国」でもあります。

 因みに、この地域ではタイは比較的「強い国」として存在感を示してきた国でもあります。更にまた、マレー半島北部の西はアンダマン海、東はタイランド湾にも面しています。周辺諸国との最近の関係を見ると、「中国本土との関係は、華僑系の水面下での動きなども加わり、徐々に緊密化してきている。

 一方、マレーシアとの関係は、マレーシアに存在するイスラム原理主義勢力がタイ南部に対して影響力を強め、ある意味では距離が開いてきているとも言える。アセアン全体に於ける存在感は依然として強いが、民主主義が少なくとも形式的には損なわれていることに加えて、タイ国内はもとより、周辺諸国に対しても一定の威厳(=Dignity)を示してきたプミポン国王の崩御により、相対的にはタイの立ち位置は弱まりつつある」と言った点を上げておきたいと思います。

 その政治概況を見ると、何よりもまず、現在のタイは、2014年にプラユット将軍率いる国軍が軍事クーデターを起こし、憲法と議会を廃止し実権掌握以降、軍事独裁政権が継続している点をしっかりと認識しておかなくてはなりません。但し、クーデターと雖も、プミポン前国王下でのクーデターは、「国民からの尊敬の厚いプミポン前国王の意向を踏まえてのクーデター」との見方がなされ、一般的に言われるような、物騒なクーデターというよりも、政治的混沌を鎮めるまでの、文字通り、「繋ぎ」として、一旦、軍部が政権を担うだけであり、「大きな懸念はない」というのが、これまでのタイ内外に於ける評価であったかと思います。(つづく)

儒教と日本の女性経済専門職   
投稿者:池尾 愛子 (東京都・女性・早稲田大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-17 23:28 [修正][削除]
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 12月に入って私が出席した2つのセミナーで外国人の口から「良妻賢母(good wife/wise mother)」が飛び出した。本e-論壇(2016年6月26-27日、10月10日、2017年8月15日)で紹介したように、私自身、2年近く、「日本女性の経済学」の章を『女性経済思想ハンドブック』に書くために「良妻賢母」をどう説明するかで苦労してきた。儒教の影響は必ず考慮されるべきであり、西洋の文脈で誤解されたくないので、もう一度書いておきたい。

 「良妻賢母」の正確な理解を得るためには、江戸時代の儒学者 貝原益軒の『家道訓』(Household Management、1711年)の「家」観念や「五計(日本的ライフサイクル仮説)」の説明から始めなければならないと思う。江戸時代に男性向けに著された『家道訓』が明治時代初め、女性向けに編集され直して『家政学』の教科書として使われた時期があったので、的外れではない。英語で説明するときに、「家(house/household)」とは、「日常生活を共にし、そして家業(family business)を営む経済単位」と説明した。『家政学』は英語にしにくく、「domestic science」や「household management」も使ったが、「kaseigaku」で通した。そして『家政学』と『経済学』が結びついた『家事経済学(household economics)』などになると、アメリカのG・ベッカーが『人的資本』(1964年)において、家計と教育に焦点をおく実証研究を基にして理論的研究を展開した部分と類似点が多いと説明することができる。

 2017年8月15日に紹介したように、儒学者優勢の江戸時代後期、只野真葛(1763-1825)が『独考(ひとりかんがへ)』(1818年)を著していた。しかし、その後女性による『(家事)経済学』が登場するまで100年以上かかったのは、儒教の影響があったといわざるをえない。オランダ・ライデン大学の Zurndorfer 氏の論文「中国学術文化における女性」(2014年)は、近代以前の儒学文献の状況(「良妻」観念は存在した)を知るうえで大変役立った。儒教においては「女性が賢い」という観念はなかったことを、ある日本人研究者から聞かされた。酷い話である。実際、「賢母」は明治時代になって登場したのである。

 山川菊栄(1890-1980)の1918年講演「婦人職業問題について」は興味深い。「(「家」から)解放された」職業婦人たちには、「晩婚の傾向」が見られるようになっていた。結婚後は家庭の仕事や家族の世話が(「女中」や「家事手伝い」、「他の家族」がいなければ)女性に圧し掛かることが多かったのである(「良妻賢母」観念から解放されるのは容易ではない)。そして、日本で人口の半分を占める女性たちに参政権を付与したのは占領軍であった。民主主義の下では、個人には多くの選択の機会が広がるはずであるが、高等教育を受けた女性たちに就職の機会を大きく広げたのは、「男女雇用機会均等法」(1986年施行、1997年改訂)であったといえる。女性の経済専門職についてもあてはまりそうである。「良妻賢母」の観念は日本で生まれたが、少なくとも日本的儒教の伝統から生まれたことは忘れないでほしい。

好調な米国経済の裏にあるリスク   
投稿者:大井 幸子 (東京都・女性・SAIL代表・-)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-15 17:19 [修正][削除]
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 12月8日に11月の米雇用統計が発表された。非農業部門の就業増数が22万8千人と堅調な伸びを示し、失業率は4.1%と17年ぶりの低さとなった。また、1時間当たりの賃金は0.2%増と堅調なファンダメンタルズが確認された。このため、来年2月以降、次期パウエル議長のもと、FRBは3回は利上げをしていくと見込まれる。

 一方、同じ8日は連邦政府の公的債務残高が上限に達する「デットシーリング(債務上限)」の日となり、継続予算が失効したことになる。通常は議会が上限を撤廃し、債務を増やしていく。しかし、永遠に続く訳ではない。もし上限が撤廃されなければ、政府機能停止や国防費にも支障がでる。金融面では米国債の利払いが迫り、まさかのデフォルトの可能性も出てくる。

 それでも、トランプ大統領は大型減税政策実施を進め、その期待感からNY市場では連日株価が上昇した。米国も「株価連動政権」なのか、株高が続くうちは北朝鮮問題や荒れる中東情勢(トランプがイスラエルの首都をエルサレムとするなど)といった地政学リスクにもかかわらず、政権は継続するのかもしれない。

 さて、地政学リスクについては、北朝鮮への攻撃の日は近いといったマクマスター大統領補佐官の発言にあるように、かなり緊張が高まっている。しかも北朝鮮の脅威をまともに受けるのは日本である。現に日本海へは北朝鮮から人間魚雷ならぬ「人間細菌兵器」の疑いのある漂流者が流れ着いている。核弾頭を防御する武器を使う以前に既に恐ろしい武器(結核菌や天然痘などのウィルス)を人体に埋め込まれたボートピープルが日本に送り込まれている危険性がある。数十万人ものボートピープルが押し寄せてくるような非常事態に対して、政府は本当に国民の生命と財産を守れるのか。地政学リスクは人ごとではなく、日本の存続をも揺るがすリスクである。

北朝鮮の“イスラムすり寄り”は無理   
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-14 10:08 [修正][削除]
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 北朝鮮は、国際法に違反して核・ミサイル開発を継続し、かつ、再三にわたる国連安保理決議による同計画の放棄要求を無視してきましたので、上記の対米批判理由には唖然とさせられるのですが、この批判は、北朝鮮が、エルサレム首都認定問題を機にイスラム側に味方することで、深まりつつある国際的孤立から脱しようとする意図があるとの解説があります。しかしながら、この北朝鮮の“イスラムすり寄り”は、無理なのではないかと思うのです。

 イスラム教も、『旧約聖書』に記される“神”の啓示の下で成立しており、マホメットによる様々な“神”の言葉の他に、他の神を信じることを禁じると共に、偶像崇拝をも禁止する「モーセの十戒」をも継承しています。敬虔なイスラム教徒は、メッカに向かって毎日祈を捧げることはあっても、神像などの偶像を拝むことはしません。一方、北朝鮮は、共に独裁容認思想である共産主義と主体思想が入り混じったカルト国家です。宗教は麻薬と断じたマルクスに従い、既存の宗教は否定される一方で、独裁者は神格化され、国民に対してその像を“神”として礼拝する偶像崇拝が強要されているのです。また、ソ連邦でもロシア革命の指導者であったレーニンの遺体は永久保存処置が施されましたが、北朝鮮でも、金日成等の歴代の指導者の遺体は特別の廟に祭られています。北朝鮮は、世俗国家ではあっても、神ならぬ人を拝む偶像崇拝が体制化された国であり、イスラム教諸国とは対極にあるのです。

 加えて、その解釈には様々な問題を含みつつも(例えば、イスラム教は「汝殺すなかれ」を無視)、「モーセの十戒」をも継承するイスラム教には、一先ずは、社会倫理や道徳としての行動規範がシャリーアなどの戒律として定められています。“神は善をなすものを愛す”とし、人々に善行を勧めてもいるのです。今般の北朝鮮の核・ミサイル開発は利己的暴力主義の極致にあり、イスラムの教えに照らしても悪行でしょうから、イスラム教諸国が、北朝鮮に対して積極的な連帯を示すとも思えません。否、北朝鮮に対する支援は、原理主義者のテロ等によって著しく損なわれたイスラム教に対するイメージをさらに悪化させないとも限らないのです。

 北朝鮮は、“敵の敵は味方”の打算から対米批判声明を公表したのでしょうが、イスラム諸国は、同国の思惑通りには動かないのではないでしょうか。イスラム諸国にとっての北朝鮮は、“敵の敵は味方”ではなく、敢えて言うならば、“敵の敵は神の敵”なのですから。

(連載2)「米国大使館のエルサレム移転」がふりまく火種 ← (連載1)「米国大使館のエルサレム移転」がふりまく火種  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-13 10:03 [修正][削除]
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3430/3448
 ところが、冒頭に述べたように、トランプ政権はエルサレムに米国大使館を移転する方針に転換。これは大統領選挙の最中からトランプ氏が掲げてきたもので、その背景としては米国社会で大きな影響力をもつユダヤ人から政治資金を調達する目的があったことや、娘婿クシュナー氏をはじめトランプ政権にユダヤ教徒が多いことなどがよくあげられます。これらはもちろん否定できませんが、その一方でいかにトランプ氏がイスラエル寄りであったとしても、大使館を移転すればエルサレムをイスラエルの首都と認めるに等しく、それが大きなリスクをもつことは理解していると思われます。それにもかかわらずトランプ大統領が歴代政権の方針を転換するなら、そこには一定の勝算があるとみられます。

 その最大のキーはサウジアラビアとみられます。オバマ政権時代の米国は宿敵イランとの関係改善に努め、それが結果的にイランと事あるごとに対立してきたサウジアラビアとの伝統的な同盟関係に亀裂を生みました。これに対して、トランプ氏はイランを敵視し、サウジとの関係改善を優先させてきました。ところで、そのサウジでは、権力を独占するムハンマド皇太子のもと、内政・外交ともに大改革の最中にあります。もともと「スンニ派の盟主」で、自らも厳格なイスラーム体制のもとにあるサウジは、内外に向けて教義の宣伝などに努めてきました。その宗教的な文脈においてサウジは、パレスチナ問題やエルサレム帰属をめぐり、他のイスラーム諸国の先頭に立ってでもイスラエルや米国と対峙してもおかしくないはずです。しかし、実際にはサウジ政府はこれまでも基本的に米国と友好関係を維持してきたのです。そこには、大きく二つの理由があげられます。第一に、世界有数の産油国であるサウジアラビアにとって、米国が有力な市場であることです。そして第二に、「教義の宣伝」が結果的に「米国やイスラエルへのジハード」を叫ぶイスラーム過激派の台頭をも促してきただけでなく、王族のなかにもアルカイダや「イスラーム国」と通じる者も少なくない状況を生んできたことです。サウジ政府はアルカイダや「イスラーム国」だけでなく、パレスチナのハマスを含めて、その国際的包囲網の形成で欧米諸国と協力していますが、これは自らまいた火種の火消しに努めてきたものといえます。

 つまり、サウジ政府にとって、宗教的なタテマエからすると見過ごしがたいパレスチナ問題も、政治的なホンネからすれば、できるだけかかわらないに越したことはないのです。実際、先述の2014年のイスラエルとハマスの衝突を受けて国内で反イスラエル抗議デモが発生した際にも、サウジ政府はこれといったアクションを起こしていません。これは多くのイスラーム諸国に共通してみられる特徴ですが、ムハンマド皇太子のもとのサウジでは、それがさらに際立っています。現在のサウジを率いるムハンマド皇太子は世俗的な国家主義者とみられます。そのもとでサウジはイランとの勢力争いに邁進するなど、宗派対立が過熱していますが、他方で「国家としてのサウジアラビア」の利益がこれまで以上に重視されており、ハマスを含むスンニ派過激派組織の封じ込めも強化されています。つまり、「イスラーム共同体」としての利益より国益を重視するムハンマド皇太子のもとのサウジでは、宗教が政治的行為の大義以上の意味をもたない傾向が強まるとみられるのです。もちろん、サウジ政府は公式には米国大使館のエルサレム移転に反対しています。そうしないと、国内世論やイスラーム過激派の矛先は自らに向かいかねないからです。しかし、移転が実現したとしても、ムハンマド皇太子率いるサウジが、それに実質的に抵抗することはないとみられます。イスラーム圏の大国サウジのこの変化は、トランプ大統領の大使館移転の判断を最終的に可能にした一因といえるでしょう。

 こうしてみたとき、エルサレムへの米国大使館の移転にはトランプ氏なりの勝算があるといえます。ただし、そうであったとしても、イスラエルの占領政策を実質的に承認することに繋がる大使館移転が、中東における反米世論やイスラーム過激派の台頭を促し、中東諸国のみならず欧米諸国でもテロを加熱させかねないリスクを抱えていることは確かです。トランプ大統領の就任以来、米国は力を背景に、一方的に現状の変更を図る姿勢が鮮明になっています。そこには、膠着する問題を自分の論理で一気に打破しようとして、結果的に問題がより混迷するや、全責任を相手に転化して、さらにごり押しで問題解決を図るという「一人マッチポンプ」の行動パターンが鮮明です。周囲を振り回すことはトランプ氏の影響力をいやがうえにも高める効果があります。しかし、例えば北朝鮮との関係において、金正恩体制が核・ミサイル開発を進めてきたことに問題があったことはいうまでもありませんが、他方でトランプ政権が周辺地域の対立を加速させたことも確かです。この観点からみるなら、トランプ氏の「一人マッチポンプ」が中東においても炸裂すれば、世界がより不安定化することだけは確かといえるでしょう。(おわり)

(連載1)「米国大使館のエルサレム移転」がふりまく火種  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-12 14:39  
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 12月5日、米国トランプ大統領はパレスチナ自治政府のアッバス議長やサウジアラビアのサルマン国王、エジプトのシシ大統領などに電話し、在イスラエル・米国大使館を現在のテルアビブからエルサレムに移転させる方針を伝えました。ユダヤ教、キリスト教、イスラームの三大一神教のそれぞれにとっての聖地であるエルサレムの東半分は、1967年以来、国連決議に反してイスラエルが占拠してきました。イスラエルはエルサレムを首都と位置づけ、各国に在イスラエル大使館を移転するよう求めてきましたが、各国はこれに応じてきませんでした。そのなかで打ち出された今回の米国大使館移転の方針は、イスラエルによる占領政策を実質的に容認するもので、これを批判してきたイスラーム諸国を巻き込んで、中東全域に火種をふりまくものです。そして、その火の粉は少なからず米国自身にも降りかかるとみられます。

 パレスチナでは20世紀初頭から、ユダヤ人とアラブ人(パレスチナ人)の対立が続いてきました。この土地を二つの民族、二つの宗派でいかに分けるか(あるいは分けないか)というパレスチナ問題において、聖地エルサレムの帰属はとりわけ取り扱いが難しい点であり続けました。パレスチナをユダヤ人とパレスチナ人で分割することを定めた1947年の国連決議で、エルサレムは国際管理地区となりました。これは、どの当事者にとっても聖地であるエルサレムを、いずれか一方のものと認めることの危険を避けるためでした。しかし、この取り決めは翌1948年に発生した第一次中東戦争でもろくも崩壊。国連決議を認めない周辺アラブ諸国が、イスラエル独立を阻止するために軍事介入し、戦闘のなかでエルサレム西半分をイスラエルが、東半分をトランス・ヨルダン(現ヨルダン)が、それぞれ占領。さらに1967年の第三次中東戦争で、イスラエル軍は東エルサレムを含むヨルダン河西岸全域を占領するに至ったのです。それ以来、イスラエルはヨルダン川西岸へのユダヤ人入植を進め、実効支配を強化してきました。イスラエル政府の言い分によると、それは自己防衛のためですが、他方でそれが国連決議や植民地を禁じる国際法に反していることも確かです。

 この背景のもと、「エルサレムが誰のものか」は対立の大きな争点となってきました。1980年、イスラエル議会(クネセト)はエルサレムを首都と定めました。当時、世界全体で宗教復興が進むなか、イスラエル国内でもユダヤ教保守派が台頭。その「パレスチナ(カナーン)はその昔、エジプトを逃れてきたユダヤ人に神がお与えになった土地で、人間の都合で分割することは許されない」という主張が影響力をもつにつれ、イスラエル政府はより強硬な立場にシフトしていったのです。これに対して、ほぼ同じ時期に中東各国で台頭したイスラーム主義者の多くは、パレスチナ問題、とりわけ聖地エルサレムの帰属を念頭に「反イスラエル」の立場を鮮明にしてきました。それにつれてイスラーム世界では、イスラエルを一貫して支持する米国への敵対心も強まってきたのです。例えば1998年、後にアルカイダを率いることになるビン・ラディンは「米国に対するグローバル・ジハード」を呼びかける声明のなかで、「米国の犯した罪」のうちの一つとして、「ユダヤ人のちっぽけな国によるエルサレム占領とこの地でのムスリム殺害を支援し、その関心をそらしてきたこと」をあげています。テロを擁護することはできませんが、少なくとも米国の後ろ盾がイスラエルの占領政策を可能にしてきたことも確かです。とはいえ、米国はこれまでパレスチナ問題の解決に何もしなかったわけでもありません。米国クリントン政権の仲介によって結ばれたオスロ合意(1993)で、イスラエルとパレスチナは相互を承認し、パレスチナ問題の解決に向けて協力することで一致。パレスチナは停戦と引き換えに国連決議で認められた土地での独立を目指すことになりました。ただし、オスロ合意はそれまで対立し続けた者同士が交渉に臨むこと自体を優先させたため、エルサレムの帰属をはじめ、より取り扱いが難しい内容を先送りにせざるを得なかったのです。

 ところが、オスロ合意後もイスラエルとパレスチナ双方では、国連決議に基づく分割を前提とする和平に対する反対が噴出。パレスチナ問題の解決には程遠い状況にあります。パレスチナ内部では、イスラエルとの協議に積極的なアッバス議長率いる自治政府と、これに批判的なイスラーム過激派「ハマス」の内部抗争が激化。後者がイスラエルへの攻撃を継続したのに対して、イスラエル軍は「テロの脅威」を理由に、東エルサレムを含むヨルダン河西岸地区の占領だけでなく、ハマスが拠点にしてきたガザへの攻撃も続けてきました。2014年7月から8月にかけての戦闘では、双方あわせて2200人以上の死者を出す事態となっています。この状況のなか、エルサレムをイスラエルの首都と認める国はなく、それは最大の同盟国である米国も同様でした。東エルサレムを含むエルサレムをイスラエルの首都と認めることは、国連決議や国際法に反するだけでなく、イスラーム過激派に絶好の口実を与えるものであることに鑑みれば、これは当然だったといえます。(つづく)

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