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2013-09-11 06:58
「尖閣打開策」が浮き沈みの内幕
杉浦 正章
政治評論家
尖閣国有化から一年を振り返ると、日中双方の失ったものの大きさを今さらながらに想起せざるを得ない。すべての問題は、都知事であった石原慎太郎による「東京都の尖閣購入」発言という“仕掛け”に端を発するが、本人は卑劣にも民主党政権のせいにして“頬被り”を決め込んでいる。水面下では元外務省首脳などが打開策の動きを見せたが、首相・安倍晋三はこれを却下して、事態は一触即発の状態のまま推移している。しかしG20 での日中首脳立ち話会談など一歩前進の動きも生じている。これを一歩前進二歩後退でなく、せめて一歩前進半歩後退にとどめる動きにつなげなければならない。裏話を披露しながら、1年間を検証する。色々政治家を見てきたが、石原ほどいけしゃあしゃあと姑息(こそく)なうそをつく政治家は見たことがない。9月11日付の朝日新聞のインタビューでは、自らの発言を覆して、「地方自治体が買った方がよかった」と東京都が買うべきだったと述べている。「都が購入すればどんな因縁の付け方がある?」なのだそうだ。加えて「野田政権がこれは人気取りになると思っただけの話。民主党政権は読みも浅くて目先のことしか考えない」と首相・野田佳彦をこき下ろしている。
しかし、これは全く“史実”と異なる上に詭弁(きべん)だ。石原は昨年4月に尖閣購入を米国で表明した後、「国が買うなら、それでもよい」と発言、集めた寄付金を国の購入資金に回すことまで提案しているではないか。昨年8月19日野田と首相官邸で極秘裏に会談して、国が購入する方向で一致している。そもそも石原が「東京都が購入」などという荒唐無稽な構想を打ち出した意図は、野田に国の購入を促すための策略であったのだ。詭弁と言う理由は、都が購入して、石原が職員を常駐させたり、船だまりを作ったりすれば、それこそ日中激突に発展していただろうからだ。都購入による日中戦争だ。それを「野田の人気取り」というのは、卑怯未練なる責任転嫁に他ならない。しかし、野田の対応にも大きな失策がある。野田は石原との極秘会談を経て、当時の外務副大臣・山口壮を8月末に中国に派遣、国務委員・戴秉国に「国が購入する方針だが、これは石原の動きを押さえ、混乱を回避するための措置でもある」「建造物など建てないという従来の方針は変えない」などの方針を伝えた。これに対する戴秉国の感触を山口は野田に「甘く伝えた」(政府筋)というのだ。
これが9月9日の野田と国家主席・胡錦濤との立ち話会談にまで及んだ。英語の通訳しかいない要領を得ない会談で「野田はそれほど強く胡錦濤は反対しなかったと感じ取ってしまった」(政府筋)というのだ。これが会談後たった2日で購入の閣議決定に踏み切った“誤算”につながる。反対したにもかかわらず、こけにされたと激怒した胡錦濤が、かってないほどの反日デモ扇動を指示したのは言うまでもない。野田は明らかに“詰め”が甘かったのだ。この反日路線は党内基盤が確立していない習近平も受け継いだ。習はいまだに基盤が確立しておらず、国内の情勢も貧富の差の拡大や汚職批判などが原因となる暴動やデモが繰り返されるなど極めて不安定だ。元共産党幹部・薄熙来の裁判などで垣間見せる党内の権力闘争の激しさは、習の基盤の脆弱さのみを際立たせる。習は尖閣なしでは基盤の構築が困難とも言える状況なのだ。しかし、中国政府がこのままでいいと思っていない事情は、主として経済問題から台頭している。今年1~6月の日中貿易は前年同期比10・8%減、日本の対中投資は同31%減に落ち込んだ。日本企業が1千万人超の雇用を生みだしている現実も無視できないのだ。これを反映して尖閣問題でも微妙な変化が生じている。国有化の当初は「購入による国有化取り消し」を要求していたが、今の対応は「日本は領土問題の存在を認めるべきだ」にまで柔軟化している。
こうした事情を背景に、さる6月に日中間で一つの打開策が水面下で生じた。元外務省首脳筋が中国の人脈を通じて動いたのだ。政府筋によるとその中から生じた打開策の骨子は「日本側は領土問題の存在は認めない。ただし中国が領有権を主張することは妨げない。その上で問題を棚上げする」というものだ。同筋によるとこの打開策は安倍にまで上がったが、安倍は棚上げは領土問題の存在を認めることになるとの立場から、これを却下したといわれる。しかし、安倍にしてみれば東京オリンピックを視野に入れた場合、筆者の主張するように「五輪デタント」は何が何でも達成したいところであろう。元外務次官・栗山尚一が 「国際的な紛争を解決する方法は三つ。外交交渉、司法的解決、解決しないことでの解決。最後の方法は棚上げとか先送りとか言えるだろうが、尖閣問題を沈静化させるにはこの方法しかない」と述べている通りだ。棚上げが嫌なら先送りでの問題凍結を実現するしかない状況に立ち至っているのだ。
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