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2026-03-26 10:23

先制攻撃は核保有国の特権

倉西 雅子 政治学者
 先日、アメリカで開かれた日米首脳会談後の記者会見の席にて、トランプ大統領が口にした真珠湾攻撃の下りは、高市首相を含め、その場に居合わせた人々を凍り付かせてしまったようです。おそらく、同大統領は、対イラン攻撃が奇襲攻撃であった理由として、‘奇襲攻撃とは、秘密裏に遂行するからこそ、その効果は絶大なのだ’と日米開戦を帰結した真珠湾攻撃を格好の事例に挙げて言いたかったのでしょう。
 
 同発言に対しては、‘日本国に対する外交的非礼である’、‘外交の場にあってデリカシーに欠けている’、あるいは、‘暗に日本国を揶揄している’として、顰蹙を買ったのも無理もないことです。仮に、現在のドイツ首相を前にして、‘ヒトラーも同じ手を使ったではないか’と言い放ったとしますと、これを聴いた人々は、真珠湾攻撃発言以上に当惑することでしょう。自己弁護のためにヒトラーの手法を肯定しているのか、過去のドイツを責めているのか、あるいは、皮肉っているのか、真意が分からないからです。複雑な表情を浮かべるしかないのですが、今般のトランプ大統領の発言が、日本国のみならず、全世界の人々にある種の衝撃を与えたことだけは確かなことです。
 
 その一方で、トランプ大統領が、凡そ80年前の出来事を持ち出したことは、過去と現在を比較する機会ともなり得ます。何故ならば、80年の時間の経過は、国際社会に変化をもたらしているからです。同大統領は、第二次世界大戦時と今日とのでは違いが存在しないかのように話していますが、両者の間には、著しい相違点があります。最大の変化の一つは、今日の国際社会では、NPT体制が成立しているところにありましょう。
 
 NPTと申しますと、非人道的な大量破壊兵器である核兵器の恐怖から人類を救うことを目的とした条約として、一般的には善意に解釈されております。同条約の人道主義が強力な盾となり、これに対する批判的な見方を封じる方向に強く作用してきたのですが、力の二面性を考慮しますと、破壊力の放棄が表面であれば、抑止力の放棄がその裏面であることに気付かされます。このことは、最早、非核保有国は、核保有国に対してこれに対抗するだけの抑止力を持ち得ないことを意味します。言い換えますと、先制攻撃をなし得るのは核保有国の特権であり、これらの諸国のみ、同攻撃手段を選択し得ると言うことになりましょう。実際に、ロシア、イスラエル、アメリカ、そして中国も(南シナ海・・・)、先制攻撃を実行しています(中国については、予測される台湾の武力併合も先制攻撃となる・・・)。
 
 もちろん、先制攻撃という手法は、国際法において侵略認定の要件の一つとみなされていますので、それ自体が禁止行為ともなっています。1974年12月に国連総会にて細作された「侵略の定義に関する決議」の第2条では、武力の先制行使は、侵略行為の一応の証拠となるとしています(イスラエル・アメリカ連合による対イラン先制攻撃も同決議違反に・・・)。法的な意味においては先制攻撃自体が違法性の高い行為なのですが(平和的解決を定める国連憲章にも違反している・・・)、NPT体制は、非核保有国から核保有国からの先制攻撃に対する物理的な抑止力を奪っているのです。
 
 この結果、NPT体制は、人類を核の脅威から解放すると宣言しながら、その実、人類を核保有国からの先制攻撃の脅威に晒していることとなりましょう。トランプ大統領が世界の‘無法地帯化’をもたらす中、核保有国のみに先制攻撃を許しているNPT体制の維持に正義があるのか、今一度、力の抑止力の側面からも考えてみるべきではないかと思うのです。
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