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2008-04-05 07:01

経済的効果にとどまらないオープン・スカイの効果

石川 良平  大学院生
 さる3月30日、EU・米国間の航空路線を自由化する「EU・米国オープン・スカイ協定(EU-US Open Skies Agreement)」が発効した。「EU・米国オープン・スカイ協定」は、昨年4月30日にワシントンDCで開催された「EU・米国サミット」の一環として締結されたものであるが、この協定により、原理上、EU圏内のすべての航空会社が、米国の任意の都市への就航を認められ、また米国のすべての航空会社がEU圏内の任意の都市に乗り入れ可能となった。そして、それまでに米国と個別のEU加盟国との間で締結されていた二国間航空協定はすべて無効となった。

 周知のとおり、今回この協定が陽の目を見るまで、EU・米国間では、「カボタージュ(相手国内の都市間を航行する権利)」の承認や、航空会社の所有に関する国籍条項の緩和、また米連邦政府職員等が公費で海外渡航をする際に米航空会社を利用することを義務付ける「フライ・アメリカ法」の適用緩和、などの争点をめぐって幾度となく交渉が膠着した。このうちEU側への「カボタージュ」の承認は今回の協定には盛り込まれておらず、EU・米国はさらなる航空自由化を求めるべく、第二段階の交渉を本年5月から開始する予定である。

 このように、依然課題を多く抱えた「EU・米国オープン・スカイ協定」ではあるが、近年の航空業界における自由化の大いなるエポックであることは間違いない。第二次大戦以来、保護主義的性格を保ってきた航空業界は、1970年代後半のカーター政権期の米国に端を発する航空規制緩和以降、着実に自由化へと方向転換を示しており、航空自由化はいまや世界的な傾向となっている。このことが経済社会に対して持つ波及効果が甚大であることはいうまでもないだろう。しかし、同時に航空自由化には、そのような経済的効果には留まらない側面があることも忘れてはならない。

 たとえば、今次「EU・米国オープン・スカイ協定」には気候変動に関連したEU・米国間の技術協力に関する規定も盛り込まれており、「オープン・スカイ」が市場開放以上の何ものかであることを示唆している。また、同協定にEU側を代表して署名したジャック・バロ欧州委員会副委員長(運輸担当)は、同協定をEU・米国間の「オープン・スカイ」の第一段階であると規定した上で、第二段階の「オープン・スカイ」では「大西洋間の航空市場をより拡大し、資本の移動をより自由にし、そして安全保障や環境問題に関する協力関係をいっそう強化する必要がある」と指摘し、明確に「安全保障」と「環境問題」に言及している。

 考えてみれば現代社会において、航空とはヒト・モノ・カネの移動を可能にする実質的な媒体であり、この分野における自由化とは、経済的効果のみならず政治的効果・文化的効果を含んだ複合的なものとならざるをえない。そしてそれらの越境的効果が様々なリスクをも併せ持つ以上、「オープン・スカイ」には総合的戦略が要求されるのである。その意味でも「EU・米国オープン・スカイ協定」が今後どのような方向に発展していくかが注目されよう。日本は今や先進国の中で「オープン・スカイ」を実施していない数少ない国の一つであるが、これは戦略あってのことなのか。あるいは何も考えていないのか・・・。
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