国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-05-20 08:32

なぜこの時期に“竹島”か

杉浦正章  政治評論家
 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が就任してようやく日韓関係に明るい展望が開けてきたこの時期に、何で“竹島問題”なのか。福田内閣の“方向性”に懐疑の念が増すばかりである。次期学習指導要領の社会科の解説書で竹島を「日本固有の領土」と明記する方向となったが、いくら解説書とはいえ韓国側の猛反発は火を見るより明らかなことである。確かに領土問題の主張は常に継続して行うべきであり、折に触れて竹島は日本固有の領土であると言い続ける必要がある。しかし日韓関係の長期展望を考えれば、竹島問題などは100年かかって解決すればよい問題であり、今この時期に傷口に塩を塗り込む必要はない。

 かって中国のとう小平は「尖閣諸島の領有権は、短期間に解決がつくものではないから、後代の人に任せて、ゆっくり解決したらどうか」と述べている。領土問題など棚上げにして、日中親善を優先させる絶妙の“国際政治”の発想だ。官房長官・町村信孝は「日韓両国が未来志向の関係でやっていこうということなので、この問題を政治的に大きくプレーアップするつもりはない」と述べているが、相手のほっぺたを叩いておいて、プレーアップしないもないものだ。

 案の定、李明博は「事実である場合は、厳重に対応するように」と韓国外交通商省に指示した。これまでのところ、韓国政府としては比較的冷静な対応であるが、問題は李明博の支持率が低迷していることである。30%を切った調査もあり、李明博が歴代政権の“あの誘惑”に駆られない、とは保証できない。いうまでもなく対日強硬路線への転換である。これほど支持率回復に向けての妙手はない。おそらく誘惑には駆られるだろうが、対日融和協調路線を根本から転換することはあるまい。ただせっかく登場した親日派大統領を、窮地に陥れてはならない。

 文部科学省の動きは、自民党の一部から「次期学習指導要領に竹島も明記すべきだ」との声が上がったのを受けた対応のようであり、指導要領には書き込まず、解説書での言及にとどめるという方針にしたようだ。いずれにしても、文部科学省のセンスを外交に持ち込まれてはたまらない。また一つ、統制のとれていない内閣であることを露呈した。
>>>この投稿にコメントする
  • 修正する
  • 投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:4869本
グローバル・フォーラム