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2008-08-22 19:12
EUの欧州近隣政策の限界を示したグルジア問題
小久保康之
静岡県立大学教授
北京オリンピックと並行して、グルジア問題が急浮上した。グルジア問題は、EUが必死になって封印してきた少数民族問題というパンドラの箱を開けると同時に、新たな米露対立を招き、21世紀の大きな国際問題に発展することが懸念される。
そもそも冷戦時代の旧東側地域は、少数民族問題を力で封印してきた。冷戦が終結して民族解放の動きが出てきた時、ドイツはナイーブにもスロヴェニアとクロアチアの独立をEU内で意見調整することなく、単独で承認してしまった。このドイツ外交の勇み足を契機として、旧ユーゴ地域の民族問題が一気に緊張の度合いを高め、ボスニア紛争、コソボ紛争などが生じ、EU諸国はそれらの旧ユーゴ紛争の解決に、NATO(米国)の力を借りなければならなかった。
その後、EUは、旧東側地域での少数民族問題を封印すること(表向きは少数民族の権利保護という表現)を旧東側諸国のEU加盟やEUからの様々な援助供与の条件の1つに掲げ、EUからの経済援助を必要とする旧東側諸国は、このEUからの道義的条件を飲まざるを得なかった。そのため、EUの新加盟国に対しては、「人参」を馬の鼻先に掲げる政策が功を奏したと評価されている。さらに、EUは2003年から欧州近隣政策(ENP)を開始し、拡大EUの周辺諸国の安定化と経済復興への支援を進めてきた。
しかし、グルジア問題は、EUのそうした「人参」政策の限界を正に示している。また、ロシアは、他の周辺諸国と同列に扱われることを嫌い、ENPとは別枠での対EU関係を模索している。少数民族を抱える多くの国において、民族自決の亡霊が現れることはできるだけ回避したいのが実情である。「平和ボケした民族自決論」ではなく、少数民族の権利が十分に保護されているかどうかを議論すべきであり、その枠組み作りに、我が国も積極的に参加すべきではなかろうか。
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