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2009-03-25 13:55

有効需要創出のための国費の使い方

内海 善雄  前国際電気通信連合事務総局長
 未曾有の経済危機を前にして、各国とも有効需要創出のための緊急経済対策が、最大の政治課題である。欧米での果敢な対策が毎日報道されているのと比較して、世界で一番のダメージを負っているといわれている日本経済にもかかわらず、遅遅として進まない日本政治の体たらく状況に絶望感さえ感ずるのは、私だけではあるまい。

 いずれにしても、通常であれば国費が支出されないものに、数十兆円の資金が使われることになるだろうが、それは、後世の国民が負担しなければならないものであり、最も有効かつ国民の納得のいくものに使用されなければならない。永田町や霞ヶ関界隈では、甘い蜜を求めてすでに熾烈な戦いが行われているが、残念ながらあまり公にはされてない。まさに、利権政治の極みが演じられているのであるが、数十兆円は、密室の力づくの奪い合いではなく、国民が納得のいく、公明で合理的な基準に基づいて分配されるべきである。さもなくば、来るべき大幅増税も国民の納得を得ず、国家の破産に通じることになる。

私は、次の6つの基準を提言したい。

1.乗数効果の高いもの
 目的はあくまでも緊急に有効需要を創ることであるから、当然緊急に実施が可能で、かつ乗数効果の高い分野への投資でなければならない。何が乗数効果の高い分野であるかは、産業連関表から容易に予想することが可能であるから、科学的方法で、選別すべきである。

2.日本経済の効率化に寄与するもの
 しかし、一時的に波及効果が高いだけは、効率的な資金の使用とはいえない。日本の経済力の強化に持続的効果のある分野への投資でなければならない。零細農業を補助してもそれなりの有効需要は創生されるが、大規模農業への転換への支援は、日本農業の国際競争力を高め、より日本の将来のために効果が高い。使用率の低い農道を舗装するよりも、都市の渋滞解消のための道路建設のほうが、より日本の経済力の強化につながることも自明だ。

3.均衡ある国土の建設に寄与するもの
 しかしながら、都市への過度の集中化は、決して日本経済全体の効率を上げるものではない。狭い国土を最適有効活用することにより、国全体の効率性を上げることができる。そのために、道路、鉄道、通信などのネットワークを強化することが、日本国土の均衡ある発展に不可欠であり、諸外国と対抗できる豊かで効率的な社会を建設する基本である。

4.持続的な外需の開発に寄与するもの
 内需拡大が叫ばれているが、外需拡大も必要である。企業や個別の産業を支援する場合は、外需を稼げない産業(内需志向産業)よりも、外需を稼ぐ産業が優先されなければならない。たとえば、需要がサチュレートした国内向けの高機能携帯電話関連の産業を支援するよりも、将来にわたって膨大な需要がある開発途上国向けの携帯電話関連の産業を支援すべきである。

5.未来に可能性のあるもの
 更に、同じ有効需要を生むのなら、やがて衰退する既存産業よりも、未来に向けて大きく可能性のある産業、高齢者に対するサービスよりも若者の教育や人材育成などに力を入れるべきである。化石燃料の発電設備よりも持続可能な発電設備、老人用の施設よりも若者のための教育設備の方が選択されなければ、同じ有効需要を創出するにしても、より効果的な投資とはいえない。また、これらの投資経費を実際に負担するのは、未来の世代であることも考慮に入れなければならない。

6.女性が働ける環境づくりに寄与するもの
 フィンランドは、西欧で真っ先に実質的な男女同権社会を作り、女性も男性と同様に働くことにより、他の西欧諸国の2倍国民が働いて、西欧一番の豊かな国になれたという。保育施設など、女性が実際に働ける環境づくりへの投資は、日本社会の構造変革への大きな第一歩である。
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