外交円卓懇談会

第108回外交円卓懇談会
「中国の台頭は日本にとって何を意味するか」(メモ)

2014年12月19日
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 グローバル・フォーラム等3団体の共催する第108回外交円卓懇談会は、ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授を講師に迎え、「中国の台頭は日本にとって何を意味するか」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記5.のとおりであった。

1.日 時:2014年12月19日(金)15時00分より16時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「中国の台頭は日本にとって何を意味するか」
4.報告者:ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授
5.出席者:25名

6.報告者講話概要

 ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

中国の台頭のアジア地域の勢力均衡への影響

 中国の経済成長は今後も続くであろうが、問題はそれが地域の勢力均衡にとって何を意味するかであり、それを理解するには理論が必要である。自分(ミアシャイマー教授)の理論では、国際システムは構造的なものであり、国家は文化、国内政治、指導者に関係なく一定の行動をとる。それに加え、(イ)国際システムは国家を超える権力が存在せず、アナーキーである、(ロ)全ての国家は攻撃的軍事力を持っている、(ハ)国家は互いの意図を知ることができない、との3点を仮定する。そうすると、国家は互いを恐れるようになり、生き残るためには圧倒的な強国になることが最良であるという結論に至る。それは、世界覇権が現実的でない以上、地域の覇権を勝ち取り、他の覇権国家の存在を許さないことを意味する。例えば、米国が他国の政治に口を出せるのは、強国である以上に、周囲に脅威が存在しないからである。建国後、米国はネイティブ・アメリカンの土地を盗み、メキシコから土地を奪い、同じ目的でカナダにも侵攻した。モンロー・ドクトリンで欧州に挑戦し、米西戦争に勝利し、西半球に大国が再び現れないよう徹底した。米国は、ドイツ帝国、大日本帝国、ソ連の崩壊にも重要な役割を果たし、米国が一番であり続け、西半球における競争を許さないことを明確にしてきたのである。それこそが、自分の理論のとおり、生き残るための最良の手段だからである。
 中国も米国と同じ道を辿り、日本、ロシア、インドを圧倒する強国であり続けることに意を尽くすであろう。中国人は、自国が弱かった1850年~1950年に何が起こったかを知っており、生き残るために地域の覇権を握ることが重要であると知っている。中国がアジアの覇権を目指すことは間違いない。

アジアの将来

 今後米国は、中国封じ込めを徹底するであろう。アジア回帰は中国に対するものであり、その度合いは増していくだろう。日本も、中国によるアジアの支配を許すことはあるまい。中国は日本の土地を奪取することを明言し、南シナ海を中国の大きな湖に変えようとしている。日本と米国は、これまで以上に親密な同盟関係を持つことになる。また、フィリピン、ベトナム、シンガポール、インドなども中国を恐れ、日本や米国との関係を深めている。アジアでは中国封じ込めのための連合が生まれ、中国はアジア支配にさらに力を注ぐことになるだろう。国際システムが構造的であるがゆえの結果であり、国際政治とはそういうものである。

オバマ政権とアジア回帰

 オバマ大統領は既にレームダック化しており、国民皆保険や移民についての行政命令に対する共和党等国内からの批判もある。上下院とも共和党が支配している今、オバマ大統領の政策に議会の合意を得られるかどうか、就中大統領が貿易促進権限を与えられるかどうかも疑問である。TPPが批准されるかも分からないのに、日本をはじめとする各国は譲歩するであろうか。
 中国との関係がどのように展開するかがピボットの鍵を握っている。共和党は対中封じ込め派と見られているが、しかし最初に中国に接近したのは共和党のニクソン大統領であった。共和党、民主党ともに中国と取り引きする用意も意欲もあるが、オバマ政権下でそれが実現することはないだろう。米国のアジア回帰はオバマ政権後も続くであろうが、民主党か共和党かによって展開は異なってくると思われる。中国の今後の発展はアジア回帰の鍵を握るものだが、中国が掲げる「新型大国間関係」は、米国と中国以外にもパワー・ブロックが存在する現代の世界を精密に描写していない。また、習近平国家主席の演説はアジアにばかり触れており、欧米や他の地域に言及することはほとんどない。すなわち習近平外交の焦点は近隣諸国にある。さらに中国は、国内に多くの問題を抱えており、近い将来に米国のようなグローバル・パワーになるというのは完全に幻想である。北京とワシントンの関係の鍵は、台頭する大国と相対的に衰退する大国の関係をどうマネージするかにある。米国は将来にわたり支配的な軍事国家であり続けるのだから、劇的な変化は起こらない。経済バランスは変化しようが、両国は相互に依存し続ける。中国は米国債の最大の保有者であり、米国は中国の最大の市場であるのだ。

日本への影響

 中国がアジア支配に力を注ぐようになると、日本は通常兵器に多くの資金をつぎ込むことを余儀なくされる。また、米国はもとより、韓国も含む他国との関係もこれまで以上に深化するだろう。さらに、自分には日中間で戦争が勃発するかどうかを予言することはできないが、その可能性は高くなる。そして、日本は核武装を考慮することになるであろう。主要国の中で、日本だけが核兵器を保持していないが、他の国は皆、核兵器が究極の抑止となることを理解している。核兵器の攻撃能力は実質的にはゼロであり、あくまでも抑止のための兵器である。日本に核兵器を使う用意があれば、中国の尖閣諸島における行動は根本的に違ってくる。世論が許さないとは言うが、今後、世界の構造が変化し、日本は「ゴジラ」と隣人になる日がやってくる。日本の核武装の最大の障害は世論ではなく、それを望んでいない米国である。米国は日本に核の傘を提供し続け、日米の関係は深化するが、富と通常兵器を増やし続ける中国に対し、日米は米国の核抑止力をどのように使うかを考えなければならない。

(文責、在事務局)