外交円卓懇談会

第109回外交円卓懇談会
「21世紀の大国間関係は平和たりうるか」(メモ)

2015年1月13日
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 グローバル・フォーラム等3団体の共催する第109回外交円卓懇談会は、T.V.ポール・マギル大学教授を講師に迎え、「21世紀の大国間関係は平和たりうるか」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2015年1月13日(火)14時30分より16時00分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「21世紀の大国間関係は平和たりうるか」
4.報告者:T.V.ポール・マギル大学教授
5.出席者:21名

6.講師講話概要

 T.V.ポール・マギル大学教授の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

国際体制における既存勢力と台頭勢力のせめぎ合い

 歴史的に見ると、国際政治を推進する主因は戦争であり、非暴力的に国際体制に変化が起きたことはまれであった。勝者が戦後処理を行い、また既存秩序体制による変革に対する厳しい政策と、台頭勢力側による暴力的な変革との相互作用の中で国際秩序が創られてきたと多くの研究者が述べてきた。ミアシャイマー教授を持ち出すまでもなく平和的変革はフィージブルでないと考えられてきた。平和的な変革ができるか否かは国際秩序に正当性があるかどうかに依るが、既存秩序側が正当性のもとに台頭勢力を抑えようとする中で、台頭勢力側が正当性についてどのようなパーセプションを持つかを考える必要がある。例えばロシアはEUの行動には正当性が欠けていると考え、中国は米国をはじめとする西洋が創った国際体制に欠陥があると考えている。
 平和には、国力と経済力が異質的(heterogeneous)であり、社会活動が同質的(homogeneous)あるという3つの条件が必要であり、最も達成が難しいのは社会活動が同質的であることである。しかし、今日の経済のグローバル化は衝突を惹起するし、昔なら何十年もかかった成長が今や非常に速く達成できるようになっているため、昔の出来事に立脚してきた理論が将来について当てはまるかを問う必要がある。既存秩序に不満を抱く中露2大国は近隣諸国に対してアサーティヴになっているが、これに対応するためにはより大きな力によるべきなのか、あるいは国際法によるべきなのか。1930年代、40年代の植民地主義の世界とは違い、今は貿易、投資、市場、テクノロジーのすべてで相互依存がグローバルに進んでいるので経済活動を一緒に行う必要がある。
 また、30年代と異なるもう一つの側面は、国際連合、ARF、ASEANのメカニズム、ヨーロッパのメカニズムといったinstitutionsが存在することであり、現在はその中で台頭勢力のengagementおよびsoft balancingを行うことができる。昔は台頭勢力がモノを言う場がなかったので攻撃的になって戦争をしたが、今は国際社会に向けて発信する場がある。
 そうした中で国際規範について考えると、ロシアとウクライナの紛争や中国が南シナ海のようなグローバル・コモンズでやっていることは伝統的な規範に大きな影響を及ぼすこととなる。
 過去と現在の違いは防衛力と抑止においても見られる。かつては空母、航空機、戦車が戦略の中心であるとともに領土を占領しようとしたのに対し、今日の兵器システムは防衛する側に昔より強い防衛力を与えたのでこうした戦略は成り立たない。またテクノロジー就中サイバー・テクノロジーによって防衛力は変わりうる。「イスラム国」が米国のCentral commandに侵入できたことや北朝鮮のサイバー攻撃がこれを如実に物語っている。

今日のせめぎ合いの特色

 かつての台頭勢力がマルクス主義等のイデオロギーを掲げたのに対し、今日の台頭勢力にはこのようなinternationalizationがない。
 他方、国際連盟、国際連合等のinstitutionsには大して重要ではないと自由主義者達は議論してきたが、実は各国は他の強国を抑えるためにこのような機関を利用していた。過去150-200年の、institutionsはlegitimacyを得るために大国に活用されていた。今日のグローバル化が進展した世界においては、非大国が強国を抑えるとともに自分たちを正当化するために国連を活用している。たしかに国連は侵略を阻止しえなかったが、大国でも例えばオバマ大統領は正当性を国連に依拠した。国連以外のinstitutions を見れば、ASEANは中国を抑えるために、ヨーロッパの機関やG8(G7)はロシアを抑えるために活用されている。確かにそれが実際上有効である保証はないが、他の選択肢はない。
 核によるホロコーストへの恐れの一方で、勢力均衡とは何かについて異なった解釈が生まれている。プーチン大統領は伝統的な勢力均衡論者であり、ヨーロッパに引き込まれてしまった旧ソ連の共和国への西進を考えているのに対し、ヨーロッパはリベラルな平和主義のもとリベラルな勢力均衡論を考えている。ちなみにナポレオンもヒットラーも西から攻めてきたのである。
 従って、どのようなinstitutionsが今生まれようとしているのか、換言すればhard balancingを抑える条件は何かを考える必要がある。その中で、核技術、経済活動にかかる技術、サイバー技術等のテクノロジーの役割は大きい。この観点から領土について付言すれば、戦前の日本が人口問題や国の宿命としてそうであったように、昔は領土が豊かになるための条件として必要だったが、今は必要ない。ただし領土は感情面で大きな価値がある。

中国の台頭について

 中国はこれまでで最も急速に台頭している国である。また国際秩序への挑戦者となりそうである。
 ただ、戦前のドイツや日本が当時の世界経済秩序の中で苦しめられたのとは異なり、中国は既存秩序から利益を享受してきた。国連やG20等の場は中国に台頭する機会を与え、さらに今日では中国はこのような場を米国等を抑えるために活用している。ところが、中国はリベラルではない。民主主義国はお互い戦争をしないと言うが、中国は民主主義国ではない。即ち中国は既存秩序の半分から享受しているが、民主主義と言う他の半分が欠落している。
 中国の平和裏の発展、平和裏の台頭は20年間は機能したが、今は懸念を呼び、また増幅している。中国が国際法の一部を受け入れ、一部を受け入れていないことから、他の諸国にuncertaintyを与えている。
 中国の指導者は自分の地位が安泰ではないのでナショナリズムを利用し、また中国はそう望めば軍事大国になれる。Cleverなのでやりすぎないようにしているものの、小さな島々等については力を活用している。
 中国やインドが現下の国際システムで政治力を発揮できずに世界の指導的役割を果たせないでいるとすれば、どのように行動するだろうか。こう考えれば、より良いinstitutionsが必要である。20世紀の両世界大戦は疾病に次いで多くの人命を奪った“killer”であったが、その後疾病については薬の開発等大きな進展があったのに対して戦争については薬は開発されていない。しかもほんの小人数の人がその命運を握っているのが現状である。

 

(文責在事務局)