外交円卓懇談会

第115回外交円卓懇談会
「米国政治とアジア・太平洋地域協力」(メモ)

2015年9月30日
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 グローバル・フォーラム等3団体の共催する第115回外交円卓懇談会は、ポール・スラシック・ヤングスタウン州立大学政治・国際関係学部学部長を講師に迎え、「米国政治とアジア・太平洋地域協力」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2015年9月30日(水)15時00分より16時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「米国政治とアジア・太平洋地域協力」
4.報告者:ポール・スラシック・ヤングスタウン州立大学政治・国際関係学部学部長
5.出席者:20名
6.講師講話概要

 ポール・スラシック・ヤングスタウン州立大学政治・国際関係学部学部長の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1)米国の対外政策を左右する国内政治の動向

 米国の対外政策決定過程において国内政治の動向は無視できない意味合いをもつ。なぜなら、貿易促進権限(TPA)法案の可決、イラン核合意の不承認決議案の否決、シリアへの軍事介入決議案の否決といった最近の事例に見られるように、連邦議会の議決が米国の対外政策を実質的に左右している面が少なくないからである。現在、連邦議会の勢力図としては、下院では共和党が優勢であるのに対し、上院では共和党と民主党の勢力が伯仲している。今後の上院における民主党勢の伸長次第では、次期大統領は上院と下院の「ねじれ」に直面する可能性がある。その点、2016年に予定されている米国大統領選挙が国際社会の注目を集めているが、大統領選と同時に実施される連邦議会議員選挙も少なからず重要である。

(2)米国政治におけるポピュリズムの台頭と大統領選の行方

 他方、大統領選挙であるが、多種多様の候補者が入り乱れるなか、注目されるのは、いわゆる主流以外の候補者が支持を大幅に集めていることである。共和党では、今回政界に初めて進出する実業家のドナルド・トランプ氏、神経外科医のベン・カーソン氏、ヒューレット・パッカード元最高経営責任者のカーリー・フィオリーナ氏の3氏が存在感を強めている。これら3氏への共和党員の支持率の合計は50パーセントを超えている。他には、尖閣諸島における日本の領有権を主張するなど、アジアへの対外政策についても積極的に発信しているマルコ・ルビオ氏などが注目される。民主党では、前国務長官ヒラリー・クリントン氏が次期大統領候補として有力視されているものの、予備選挙を控えるニューハンプシャー州の世論調査では、クリントン氏を上回る支持率を得た上院議員バーニー・サンダース氏も注目を集めている。これら非主流派の候補が人気を集めている背景には、「タフで怖いもの知らずのリーダー」を求める米国一般国民のポピュリズム的傾向が見て取れる。とくに近年、米国民は、自分たちの声に耳を傾けず、かつ自分たちとは意見を異にしている政治的リーダーたちを拒絶する傾向にある。この傾向は、大統領選挙の争点にも反映されている。たとえば、今回の主要な争点とされる移民問題と経済(雇用)問題については、外交問題評議会(CFR)メンバーなどのいわゆる「外交エリート」の関心対象では必ずしもなく、むしろ一般国民の強い関心を反映して争点として浮上したものである。また、これまで対外政策にさほど関心を払っていなかった米国民であるが、最近は、イランの核問題やロシアの対ウクライナ・対シリア政策などに強い関心を集めており、これに伴い、これらの問題も大統領選挙の主要な争点となるとみられている。

(3)米国国内政治のアジア・太平洋地域政策への影響

 ここで、米国国内政治が、今後、米国のアジア・太平洋地域政策に及ぼしうる影響を考えてみたい。直近の課題としては、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉の帰趨が気になる。TPAが連邦議会で可決されたことで、オバマ大統領はTPP交渉を進めることができるようになったが、TPA可決自体、ぎりぎり最低限の得票での可決であり、次期大統領は、いつまたTPAをはく奪されないとも限らない。また、米国民の間で、自由貿易は、雇用創出どころか経済成長にすら繋がらないとの否定的な受け止め方が有力であるなか、次期大統領選では各候補がTPPに対する立場を明らかにすることが求められている。TPPへのポピュリズム的な反対論を無視して大統領選を戦うことは、いずれの候補にとっても致命的となりかねず、米国のTPPに対する姿勢は当面揺らぐ可能性がある。他方、日本が中韓両国との間に抱える歴史問題については、米国世論は大方「日本は十分に謝罪してきた」との判断をしている。とはいえ、米国民の間ではそのような問題そのものの認知度が低く、世論の関心事項とはなっていない。次期大統領候補の中でも、これらの問題に明確に言及しているのは上述の共和党のルビオ氏だけである。

(4)日米関係強化に必要な米国一般国民へのアピール

 以上のとおり、米国国内政治では、一般世論の声がますます影響力を持ちつつあるが、その中で日本が米国との関係強化をしようとする際、重要なことは米国一般国民へのアピールを強化することだといえる。本年、日本国際フォーラムが発表した『日米共同政策レポート』は日米同盟の今後の指針を示す優れたレポートであるが、そこで指摘されている「日米同盟のハード・パワーの強化を同盟のソフト・パワーの強化につなげ、より多くの国々を日米の味方につけることは重要だ」との指摘には自分としても同感である。同時に、日米両国が双方に対しソフト・パワーとして機能することも同盟強化につながるといえる。たとえば、米国のエリート層は日本企業の活発な対米投資や米国での雇用創出への貢献を知っているが、一般の米国民の大半はそのような事実を知らない。その意味でも日本は、米国の一般国民レベルに対し自国をもっと売り込む必要がある。

(文責在事務局)