外交円卓懇談会

第52回外交円卓懇談会
「経済・安全保障の連関(nexus)と東アジア地域主義」(メモ)

 第52回外交円卓懇談会は、トーマス・J・ペンペル・カリフォルニア大学バークレー校政治学部教授を報告者に迎え、「経済・安全保障の連関(nexus)と東アジア地域主義」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2009年8月27日(木)午後3時より午後4時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「経済・安全保障の連関(nexus)と東アジア地域主義」
4.報告者:トーマス・J・ペンペル   カリフォルニア大学バークレー校政治学部教授
5.出席者:17名

6.報告者講話概要

 トーマス・J・ペンペル・カリフォルニア大学バークレー校政治学部教授の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

東アジア地域主義の制度化の進行

 東アジアの地域主義には、さまざまな制度の多元的・重層的構造が見られ、そこには「制度的ダーウィニズム(よい制度が生き残り、悪い制度は衰退する)」とでもいうべき作用が見られる。そこが、単一の機構を通じて発展してきたEUなどの地域統合との大きな違いがある。他方、経済と安全保障に分けて観察すると、この地域の経済領域の制度化は、1997年のアジア金融危機のような、外部からもたらされた地域共通の脅威に対応するため進行してきたのに対し、安全保障領域では、地域共通の外部的脅威は存在せず、脅威は地域に内在しているという構造がある。このため各国の相互不信が抜けない。ソ連という共通の外部的脅威が存在した欧州との違いである。

経済領域と安全保障領域の相互連関

 いうまでもなく、東アジアにおける地域主義の気運の高まりは、1997-98年のアジア金融危機に端を発するが、この危機は、それ以前から存在していた域内のインフォーマルな経済統合をよりフォーマルなものへと転換する契機となった。ASEAN Plus Three、East Asia Summit(EAS)、Chiang-mai Initiative 等の政府レベルの地域協力枠組みが一斉に発足した背景には、域内各国が、将来起こりうる同様の域外からの経済危機をバッファーするためのメカニズムの必要性を痛感したことがあった。このように、経済面での地域協力が着実に制度化しているのに対し、安全保障面においては、依然「大国の闘争場(Cockpit of Great Powers)」の様相を呈している。とはいえ、過去30年間を通観すれば、ベトナムのカンボジア軍事介入以後は大規模な熱戦の例はなく、総じて東アジアは平和であったといえる。懸案は、北朝鮮崩壊に伴う混乱と核拡散問題であるが、6者協議は、北朝鮮の崩壊を防ぎつつ、その行動を律するという役割を果たしている。東アジアの地域秩序には、経済領域における「協力の気運(ripe for cooperation)」と安全保障領域における「対立の気運(ripe for rivalry)」の間で、一方の影響が他方に波及するという両者の連関がみられる。

注目される「トライラテラリズム」の動向

 そのからみでいえば、近年成立しつつある日中韓、日米中、日米豪などの「トライラテラル」の枠組みは重要である。とくに、昨年12月の日中韓首脳会談の開催は画期的であった。この首脳会談は、たんなる「おしゃべり(talk shop)」のレベルを超え、実質的な交渉の場として機能している。既存の枠組みに加え、「トライラテラル」な交渉の場において、各国共通の利益を確認し、経済領域と安全保障領域双方の課題に取り組み、両者を関連づけることが重要だ。

今後の米・東アジア関係の展望

 ブッシュ政権の米国はイラクという泥沼にはまっていたが、オバマ政権の米国は、クリントン国務長官の発言のとおり「アジアへの回帰」を目指すだろう。オバマ政権の発足により、米国の外交政策はブッシュ政権時の「ユニラテラリズム」から「マルチラテラリズム」に方向転換した。東アジアの諸問題は米国の関与なくして解決できないものが多いが、米国はEASへの参加やAPECの再活性化を目指す可能性が大きい。今後は「マルチラテラリズム」の枠組みの中で、米国が東アジア諸国との共通の利益を模索し、東アジアの地域秩序の構築に関与を深めてくるものと思われる。

(文責、在事務局)