外交円卓懇談会

第69回外交円卓懇談会
「プーチン政権下のロシアはどこへ行くのか」(メモ)

2011年6月21日
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 日本国際フォーラム等3団体の共催する第69回外交円卓懇談会は、デイヴィッド・ホリー早稲田大学客員教授(元『ロサンゼルス・タイムズ』モスクワ特派員)を報告者に迎え、「プーチン政権下のロシアはどこへ行くのか」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2011年6月21日(火)午後3時00分より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「プーチン政権下のロシアはどこへ行くのか」
4.報告者:デイヴィッド・ホリー   早稲田大学客員教授(元『ロサンゼルス・タイムズ』モスクワ特派員)
5.出席者:16名

6.報告者講話概要

 デイヴィッド・ホリー早稲田大学客員教授(元『ロサンゼルス・タイムズ』モスクワ特派員)の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

プーチン政権の誕生

 ソ連邦崩壊後、資本主義への道を模索していたエリツィン政権下のロシアでは、政治家の汚職、企業・個人の脱税、企業経営幹部等の国家財産横領などの不正が横行した。これによる経済状況の悪化に加え、第一次チェチェン紛争でマスコミがロシアによる人権侵害行為を包み隠さずに報道したことも手伝い、エリツィンは次第に国民の支持を失うことになった。1999年12月、エリツィン大統領の辞任にともない、当時首相のプーチンが大統領代行として政権を握った。後に正式に大統領の座に就いたプーチンは、エリツィンが放任した政治と大企業の癒着の排除に乗り出し(オリガーキーと呼ばれた政商たちの逮捕、追放など)、テレビなどのマスコミを政府の支配下におく(ガスプロム社資金によるナショナル・テレビの買収など)とともに、ロシア連邦構成共和国などの地方自治体から独立性を奪った(知事を民選から官選に制度を改めた)。プーチンは、その後メドヴェージェフ大統領との双頭支配体制を敷き、首相となったが、両者は対等ではなく、実権はプーチンが握っている。

プーチン政権下の民主主義

 プーチン政権下の民主主義は、政治レベルと生活レベルの二つのレベルで評価することができる。政治レベルにおいては、モスクワ集団アパート爆破事件(秘密警察の工作の疑いがある)、第二次チェチェン紛争での人権無視、ホドルコフスキーなどの政敵の容赦ない弾圧、テレビ局支配と反政府報道の統制、知事選挙の廃止等による中央集権化の推進などを考慮すると、エリツィン時代と比較して、民主主義は後退している。他方、生活レベルにおいては、経済成長による中産階級の増加、大都市の発展、高等教育機関の充実、インターネットの自由な利用、新聞やラジオを通じた反政府的意見へのアクセスなどが達成され、1990年代に比べて民主主義を受け入れる素地は拡大していると見ることができる。

今後のプーチンとメドヴェージェフの関係

 メドヴェージェフはプーチンの操り人形であるという見方もあるが、私はむしろ両者は深い友情とパートナーシップで結ばれた先輩・後輩のような関係にあると見る。国際関係においては、プーチンがロシアの国益を強く主張する強硬派であるのに対し、メドヴェージェフは他国との協調関係も重視する穏健派の役割を担っている。2012年の大統領選挙にどちらが立候補するのかは、先輩のプーチンが決めることになるだろう。それぞれの支持組織の間では小さな対立があるとしても、二人がともに大統領選に出馬して、対立することはありえない。2012年にどちらが大統領になっても、プーチンとメドヴェージェフのパートナーシップによる政権は、今後長期にわたって継続するだろう。

北方四島返還の window of opportunity は閉ざされた

 プーチン・メドヴェージェフ体制のロシアは国際社会で自己主張を強めており、日本にとって北方四島の返還を実現することは至難である。エリツィン政権時代のロシアは、財政・経済状況の悪化の中で日本からの経済的支援を期待する心境にあり、これに応じることは日本にとって北方四島の返還プロセスを進める最大のチャンスであった。法的、道義的正当性の観点から見れば、北方四島は日本に返還されるべきものであるから、公正な国際法廷に持ち込めば、日本は北方四島の返還を勝ち取るだろう。だが、モスクワを従わせることのできる国際的な司法機関は存在しない。1990年代に得たはずの好機を失った日本にとって、北方四島返還を実現できる window of opportunity は閉ざされたと考える。

(文責、在事務局)