外交円卓懇談会

第96回外交円卓懇談会
「ワシントンから見た日米関係」(メモ)

2014年1月10日
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 グローバル・フォーラム等3団体の共催する第96回外交円卓懇談会は、グレン・S・フクシマ/センター・フォー・アメリカン・プログレス上級研究員を講師に迎え、「ワシントンから見た日米関係」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2014年1月10日(金)午後3時00分より午後4時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「ワシントンから見た日米関係」
4.報告者:グレン・S・フクシマ  センター・フォー・アメリカン・プログレス上級研究員
5.出席者:32名

6.報告者講話概要

 グレン・S・フクシマ/センター・フォー・アメリカン・プログレス上級研究員の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

ワシントンの変化

 2012年秋に、自分が1990年以来22年ぶりにワシントンに戻って感じた変化は次の3点であった。第1に、かつては大西洋ないしヨーロッパ指向であったワシントンがアジアや中東にも目を向けるというグローバルな関心を持つに至っている。第2に、アジア、とくに中国が台頭している。例えば上院外務委員会シニアスタッフが10人の米国人のアジア研究者を招いた際には、日本の専門家は自分1人のみで、8人が中国の専門家、1人が韓国の専門家であった。第3に、2012年の秋時点でのワシントンでの対日関心は、放射能汚染と日中間の領土紛争の2点のみであった。そこに安倍政権が誕生したため、私は日本の重要性を訴える記事を同年12月21日付で『ワシントン・ポスト』に寄稿した。

安倍政権誕生後の対日関心

(イ) 安倍政権誕生によって、再びワシントンに対日関心が生まれた。アベノミクスおよび日米関係の強化に対しては積極的評価がなされる一方で、歴史認識に関しては第1次安倍内閣の政策を踏まえ、総理が何らかの声明発信ないし行動をとるのか否か、もしとれば日中、日韓関係に否定的な影響を及ぼすのではないか、との懸念があった。ちなみに上記の米国人中国専門家8名は全員安倍政権に対して否定的であった。

(ロ) 政権発足当初数か月は、安倍・オバマ会談もうまくいき、日本のTPP参加と普天間基地問題をめぐる対応に加え、日本に安定政権ができたとの積極的評価もなされた。ところが、2013年4月以降、麻生副総理の靖国参拝、安倍総理の「侵略の定義」についての国会答弁、橋下知事の従軍慰安婦をめぐる発言、麻生副総理のナチス発言と続き、12月に安倍総理の靖国参拝があった。国内支持率の高い安倍総理が今更右翼に譲歩するためとも考えられず、ワシントンでは何のために参拝したのかと総理の真意に当惑する向きもあり、唯一説明可能なことは日中・日韓関係を犠牲にしても参拝せねばならないと総理自身が強く思っていたということではないかと考えられた。そうだとすれば総理の行動と発言に矛盾があるのではないかと考える向きも出た。

(ハ) とは申せ、今はまだ楽観主義と希望があり、特にアベノミクスについてはノーベル経済学賞受賞者のクルーグマンをはじめとする専門家に支持されている。ウォール街での‘Buy my Abenomics’等のうまい広報もあって期待も高い。ただし、期待が高い分、仮に「第3の矢」の構造改革や成長戦略が抵抗にあってスローダウンすれば失望も大きい。総理の女性の参画についても、日本が変わるとの期待を高めたという点で同じことが言える。米国内では、日本の「第3の矢」、消費税増税、TPP参加、エネルギー政策に対して関心が高く、これまでのところ経済政策に関しては肯定的に評価されている。

米国国内政治に対してもっと関心と理解が必要

(イ) こうした中、2013年9月に行われた安倍総理のニューヨーク訪問は、国連総会演説とウォール街での演説については成功であったものの、ハドソン研究所で講演したことについては、なぜ民主党政権下の米国に来てわざわざ共和党系の研究所の、しかもファンドレージングの昼食会の機会を選んだのか等の疑問を呈する向きがある。

(ロ) 1980年代から伝統的に日本のエスタブリッシュメント(自民党、財界、官界、メディア)は共和党との関係が深い。それは日本の数少ない長期政権、と言っても5年強だが、のカウンターパートが共和党で、ロン・ヤス関係や、小泉・ブッシュ関係があったのに対して、民主党政権については例えばクリントン時代に日本では7名の総理が交代した、といった背景もあろう。しかし、欧州諸国はもとより、中国や韓国も米国が2大政党制の国であることを理解して、共和党のみならず民主党関係者・団体ともこまめに関係を積み重ね強化している。これに対して日米間では、両国で似たような考えをしている少数の人々の間で交流が進み、かつ米国からの情報も共和党筋に限られる傾向があるのではないだろうか。このため2008年の大統領選挙直前に訪米した財界代表団はオバマ優位を現地で初めて知り驚愕したということもあった。オバマ政権の外交や内政に対するコメントはさておき、2016年の大統領選挙において引き続き民主党政権が生まれる蓋然性もある中で、日本の対米接触には改善の余地があると思われる。議会関係者やシンクタンクを含めて民主党関係者との関係強化に努める必要があると考えられる。

(ハ) 日米二国関係を考える際に忘れるべきでないのはワシントンのグローバル化である。日米関係は日本と米国の二国間関係のみでは律せられない。アジアひいてはグローバルな枠組みの中で律せられるのである。現に尖閣問題については、中国の立場について日本の立場より10倍は聞かされる機会が多いが、それには対米世論工作という事象面というよりも、何か日米関係を冷戦時代のままの感覚でとらえている日本人が多いからだという印象がある。

(ニ) また、中国人留学生が圧倒的に増える一方、日本人留学生が減り続けているという問題も背景の一つとしてある。つまり中国人の方が米国人の理解するようなプレゼンにたけている。また中国系米国人や韓国系米国人は高学歴を背景に、要職を占めるに至っている。どうも日本国内では、今でも「米国では、ビジネスについてはニューヨークで物事が決まり、政治についてはワシントンで決まり、そしてすべての決定は白人の年輩男性がしている」と思い込んでいる向きもある。もはやそうではない。日本は真剣にそのことを考えるべきだと思う。

 

(文責、在事務局)