国際政経懇話会

第206回国際政経懇話会
「今、チベットで何が起こっているか」(メモ)

 第206回国際政経懇話会は、ペマ・ギャルポ国際情勢コメンテーターを講師に迎え、「今、チベットで何が起こっているか」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2008年7月11日(金)午前8時より10時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「今、チベットで何が起こっているか」
4.講 師:ペマ・ギャルポ  国際情勢コメンテーター
5.出席者:25名

6.講師講話概要

 ペマ・ギャルポ国際情勢コメンテーターの講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

 日本人は中国を正確に理解していない。日本では、中国が『大きい』とか『古い』と言うが、チベット自治区だけではなく青海省、甘粛省、四川省、雲南省に編入された領域も含めた『本来のチベット』で中国の面積の4分の1を占めている。中国の人口の63%、面積の60%は非漢民族のものだ。1907年の英露協商によって清にチベットの宗主権があるとされ、1910年に清はチベットに軍を送ったが、翌年の辛亥革命で清は滅んだ。その後、チベットは完全な主権を持った独立国としての立場を保ち続けていたが、1950年に中国の人民解放軍が侵略を開始し、翌年には『チベット平和解放17カ条条約』を一方的に押しつけた。その後、鄧小平の時代に対話路線をとったこともあったが、中国は『17カ条条約』も破り、同化政策を急速に推し進めている。今や民族的にほとんど区別がつかなくなっている。青蔵鉄道の開通で生活が向上することを期待したが、チベットには逆効果だった。400万人の観光客が来たが、チベット人には中国人の孫請けの仕事しか与えられず、宗教活動も観光向けのアトラクションとして制限されている。こうした中で、ダライ・ラマ法王は『独立』よりも『教育権』や『警察権』を取り戻すことが急務だとして、『高度な自治』を要求している。さらに核施設を撤去し、チベットを非武装地帯化することも求めている。中国は、以前に比べて国際世論を気にするようになってきた。日本とロシア以外の主要国では議会の決議もなされている。中国側との次回の対話は10月に予定されているが、国際世論がチベットを支援してくれれば、事態の改善が期待できるだろう。今年3月の騒乱については、3月10日は1959年のチベット蜂起の記念日であり、毎年デモを行ってきた。今年は、昨年10月に米議会で法王に最高の市民栄誉賞が与えられた際、それを大々的に祝って拘束されたチベット僧の釈放を求めるという意味も加わった。チベットにはリチウムなどの地下資源が豊富だが、それ故に中国はチベットを手放そうとせず、かえってマイナスになっている。今やチベットだけでなくウイグルや内モンゴルなども自治意識を強めている。中国は外から見たら大きな国だが、いつ爆発してもおかしくない『活火山』である。今の中国は『カネ』と『コネ』で動いている。中国を生かしているのは、一時的な利益のために中国に遠慮している日本や米国、韓国である。中国の民主派とも連携しながら、覇権国家でない中国を目指すべきである。その中で日本の果たしうる役割は大きい。日本は国際社会において日本自身の立場を明確に示していく必要がある。

(文責、在事務局)