国際政経懇話会

第213回国際政経懇話会
「ロシアの現状と今後の日露関係」(メモ)

 第213回国際政経懇話会は、谷崎泰明外務省欧州局長を講師に迎え、「ロシアの現状と今後の日露関係」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2009年4月9日(木)午前8時より午前10時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「ロシアの現状と今後の日露関係」
4.講 師:谷崎 泰明  外務省欧州局長
5.出席者:25名

6.講師講話概要

 谷崎泰明外務省欧州局長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

 ロシアは、エリツィン時代の市場経済への移行に伴う混乱の後、プーチン時代には高い経済成長の実現を通じて自信を回復していたが、いまや株価が80%も下落するなど、金融危機によってもっとも深刻な影響を受けている国の一つとなっている。ロシアの経済構造は非常に脆弱であり、過度のエネルギー依存や人口減少等の問題を抱えている。ロシア政府は、これまでに貯めこんだ資金をもとに安定化基金を作るなどしているが、金融危機への対応をめぐって、メドヴェージェフ大統領支持グループとプーチン首相支持グループの間で次第に路線対立が顕在化してきている。また、自動車、農業機械、鉄鋼等の輸入関税を引き上げるなど、保護主義的な対応への懸念が高まっている。ロシア経済は、ここ数年はしばらく厳しい状況が続くのではないかと見られる。

 ロシアの内政は、メドヴェージェフ大統領とプーチン首相の「二頭(タンデム)体制」だと言われている。プーチン首相が力を持っているのは確かだが、両者は役割分担しつつ、連携している。意見の不一致はあるものの、プーチン首相はメドヴェージェフ大統領を信頼し、メドヴェージェフ大統領も重要案件はプーチン首相と調整している模様であり、互いに協力関係を維持しており、二人の関係はまだ悪くなっていない。ただし、その周辺にいるグループの間には潜在的な緊張関係があり、メドヴェージェフ大統領を支持している実務リベラル派の官僚やビジネス界と、プーチン首相を支持しているシロビキ(軍、治安関係者等の力の省庁)の間で、政策路線の対立がある。外交面では、ブッシュ政権時代には、とくにグルジア紛争などをめぐって、米露関係は居心地の悪い状況にあったが、オバマ政権が発足してこれまでの関係が「リセット」されたことで、一安心の状況にある。2009年12月に失効する戦略兵器削減条約(START)に替わる新たな合意を達成すべく、米露両国が交渉開始に合意するなどしており、今後とも両国間で実務的関係が進展していくものと見られる。 

 日露関係については、ロシアがアジア太平洋地域をどのように考えているのかという点を念頭において外交を展開する必要がある。ロシアは、中長期的にエネルギー資源の供給源が西シベリアから東シベリアに移らざるを得ないこともあり、アジア太平洋地域に本格的なテコ入れを開始しているが、そのためには資金面および技術面から日本の協力が不可欠である。ロシアがアジア太平洋地域に関心を示していることは基本的にいいことだと認識しており、ロシアがこの地域の一つのプレーヤーとして位置づけられ、日露間で相互依存関係を強めていければいいと考えている。昨年7月の洞爺湖サミットでは、平和条約交渉に関し、「棚上げすることなく、できるだけ早期に解決する」とし、1956年の「日ソ共同宣言」および1993年の「東京宣言」を含む「これまでに達成された諸合意及び諸文書に基づき、平和条約につき、首脳レベルを含む交渉を誠実に行っていく意向である」との共通認識を確認し、基本的なベースを作ることができた。そして、11月のリマでのAPEC首脳会議の際に大枠について議論した後、今年2月のサハリンにおける日露首脳会談では、日本の基本的な考え方を麻生総理から詳細に話した。メドヴェージェフ大統領からは「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」との話があったが、つぎの日露首脳会談の機会は7月のローマでのG8サミットであり、それまでに5月にはプーチン首相の訪日も予定されているが、ロシア側のきちんとした考え方を次回には聞かせてほしいと伝えている。

(文責、在事務局)