国際政経懇話会

第215回国際政経懇話会
「世界経済危機下の日本の対アジア通商政策」(メモ)

 第215回国際政経懇話会は、岡田秀一経済産業省通商政策局長を講師に迎え、「世界経済危機下の日本の対アジア通商政策」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2009年6月17日(水)正午より午後1時20分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「世界経済危機下の日本の対アジア通商政策」
4.講 師:岡田 秀一  経済産業省通商政策局長
5.出席者:24名

6.講師講話概要

 岡田秀一経済産業省通商政策局長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

 米国をはじめとする先進諸国の年金基金や新興国の外貨準備等の投資資金が世界的に増大し、これらの投資資金が住宅ローン担保証券等に流入してバブルを生成していたが、米国住宅バブルの崩壊が引き金となって今回の世界同時金融危機が発生した。金融危機は実体経済に波及し、世界経済は先進国・新興国の「双発飛行」から新興国のみの「片肺飛行」に陥っている。日本経済は、02年から07年まで円安基調の下で輸出に牽引される形で戦後最長の景気回復を経験し、わが国の輸出依存度は諸外国より比較的低いものの、07年には過去最高水準にまで上昇していた。金融危機発生後、わが国の輸出は大幅に減少し、景気が急速に後退したが、その理由は、皮肉にもこれまで高付加価値製品の輸出に特化した産業構造を構築してきたからに他ならない。わが国の製造業はこれまで苦労して高付加価値化を進めてきたが、景気が後退するとこれらの商品は一気に買い控えが起き、もっとも深刻な影響が生じる。自動車、電気機器、一般機械は国内産業への生産波及効果が高く、わが国の輸出はこれらの産業に過度に偏っていたために、国内経済に大打撃を与えることになったのである。

 こうした中、日本政府は新たな成長戦略として「未来開拓戦略」を進めているが、国内の1500兆円の金融資産を有効活用して内需拡大を推進すると同時に、アジア諸国等の新興国市場の開拓も進める必要がある。中間層人口が急速に拡大し、高い成長が期待される新興国市場では、これまで日本企業が力を入れてきた「ハイエンド市場」のみならず、「ミドルエンド市場(ボリュームゾーン)」の獲得が課題である。携帯電話を例にあげると、日本の携帯電話は高性能すぎて価格が高くなり、ボリュームゾーンに位置する消費者には受け入れられず、安値を売りにした企業がボリュームゾーンを独占しつつある。日本は必ずしもこれらの企業と価格競争をする必要はないが、日本の高い技術を活かしつつ、機能数を減らした低価格の製品も同時並行で開発していくべきであろう。さらに、環境、省エネ、水処理など日本が有する優れた技術やアニメ、ファッション、観光資源といった日本文化を世界にもっとアピールすることも求められている。

 貿易立国日本にとっては世界の需要拡大が最大の景気対策であり、「内外一体の経済対策」が求められる。わが国はこれまで東アジアを中心に、10カ国1地域とEPAを発効・署名済みで、4カ国1地域と現在交渉中である。東アジアでは二国間の経済連携から地域的な経済統合へと取り組みが深化しており、ASEAN、ASEAN+1、ASEAN+3、ASEAN+6、APECなど重層的な取り組みが進展している。わが国はASEANとの間で日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)を締結したが、さらにASEAN+6でEPAを結べば、東アジア全体の需要に合わせた最適生産配分が可能となり、新規生産拠点の設立における戦略的選択肢が実現できることになることから、日本政府としてもこれを推進していきたいと考えている。また、日本政府のイニシアティブで東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)を設立したほか、通関システムの高度化・共通化による貿易円滑化、法制度の整備・透明性の確保、知的財産保護の強化、インフラ整備と産業振興を結んだ包括的な広域開発の推進などの協力を進めているところである。インフラ整備を進めることにより、域内の貯蓄を投資に向かわせることもできるだろう。さらに、世界的に保護貿易措置の広がりが見られる中、WTOなどを通じて保護主義を抑制していくことも不可欠である。

(文責、在事務局)