国際政経懇話会

第220回国際政経懇話会
「日本の問題意識:問われる日本外交と日米同盟の将来」(メモ)

 第220回国際政経懇話会は、伊藤憲一日本国際フォーラム理事長、森本敏一拓殖大学海外事情研究所所長を講師に迎え、「日本の問題意識:問われる日本外交と日米同盟の将来」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2009年12月7日(月)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「日本の問題意識:問われる日本外交と日米同盟の将来」
4.講 師:伊藤 憲一  日本国際フォーラム理事長
       森本 敏一  拓殖大学海外事情研究所所長
5.出席者:30名

6.講師講話概要

 伊藤憲一日本国際フォーラム理事長、森本敏一拓殖大学海外事情研究所所長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

伊藤憲一氏

 第32政策提言「積極的平和主義と日米同盟のあり方」は(民主党政権発足とは無関係に)過去一年余の政策委員会での審議を経て発表されたものだが、くしくも鳩山民主党政権による対米外交の混迷に対する我々の問題意識を明らかにする結果となった。鳩山政権の外交姿勢については、すでにその結論的評価を打ち出せる段階にあるといえるが、たとえば当フォーラム・ホームページ上の政策掲示板「百花斉放」にも、鳩山外交に警鐘を鳴らす投稿がいくつも寄せられている。安全保障を理解するためには、音楽における「音感」と同様、絶妙なセンスを要するが、鳩山首相と岡田外相を擁する現政権にはそのようなセンスが欠けていると言わざるを得ない。私は拙著『国家と戦略』(中央公論社、1985年)の中で、「世界情勢全体の大きな流れをつかみながら、そのなかで交渉相手のおかれた立場を洞察しつつ、それに対応したかたちで、日本の外交戦略を打ち出してゆくというのではなく、世界環境不在のまま、相手と日本の二国間関係だけで物事を隔離して判断し、しかもその孤立した二国間関係においても、日本側の一方的な希望的観測だけによって、対話不在のまま日本の態度を決めていくという例が、過去の歴史のなかにおいて、あまりにも多いのである」と書いたが、鳩山外交はまさにそのような外交を進めつつある。日本は、戦後、日米同盟を基軸としつつ、日本は米国をできるだけ利用するが、米国には日本をできるだけ利用させず、日本のコストやリスクは最小限に抑えるという「消極的平和主義」の立場をとってきたが、これは冷戦という特殊時代的状況のもとで許容された体制であった。冷戦終焉後、「テロとの戦い」が全世界的な安全保障問題の根源となるなか、日本のそのような姿勢はもはや通用しない。日本は世界的に成立しつつある「不戦共同体」のなかで、しかるべき役割を果たすべく「積極的平和主義」に転じる必要がある。鳩山首相の唱える「対米自主」とは、「消極的平和主義」の消極性を強化するという倒錯した世界情勢認識に基づく外交姿勢である。

森本敏氏

 本提言は各項目ともまったく同感するところだが、この内容が果たして現在の鳩山政権によって受け入れられるかどうかは定かではない。とはいえ、自民党が近い将来政権を奪取する可能性は低く、いかにしてこの鳩山政権とつきあっていくかを考える必要がある。鳩山政権が政権発足以来とってきた対米姿勢は、来年の参院選を意識して国内世論に配慮した動きであるかと当初は思われたが、そのような皮相的なものではなく、もっと根源的な問題を抱えていると判断せざるを得ない。先日の普天間基地をめぐる鳩山政権の決定については、ルーズ駐米大使が激怒したというが、これを聞いた首相官邸関係者はその真意を理解できなかったという。米国は日米同盟と在日米軍の存在が米国自体の国益に適うゆえに、ぎりぎり忍耐を重ね、最後まで問題打開の可能性を追求したいと考えているとみられるが、とはいえ、米国はアフガン新戦略を日本に事前に通知しないなど、すでに日米間の事務レベルでは米国からの情報が入らないといった事態が発生している。今後、このような事態が経済分野まで拡大されると日本経済は致命的な損害を被ることになりかねない。ところで、次回の総選挙が予定されている2013年の前年にあたる2012年には、米ロ両国の大統領選、中国の政権交代、韓国・台湾の総選挙の年にあたり、東アジアにおいて大きな構造変化が予想される。そのような変化に対し民主党政権がどういった対応をするかは日米同盟の今後のあり方に重大な影響を及ぼすものとなる。当面の日米同盟の課題は、普天間基地問題や核密約に関わる問題であるが、後者は前者以上に日米間の緊張を高める可能性がある。現在、すでに危険水域以上のレベルにある日米関係であるが、この関係を修復することは容易ではないし、相当のコストを覚悟する必要がある。米国は現存する懸案事項を解決しない限り、日米関係の長期的な展望についての日米間での議論に臨むことはないだろう。来年の参院選後に日米政府間協議が本格化する頃までに、我が国はあらゆるパイプを使って米国に向けて鳩山政権の対米姿勢が日本国民のコンセンサスではないというメッセージを送り続ける必要がある。

(文責、在事務局)