国際政経懇話会

第227回国際政経懇話会
「中国ビジネスリスクと日本企業の課題」(メモ)

 第227回国際政経懇話会は、高原彦二郎コンサルビューション代表を講師に迎え、「中国ビジネスリスクと日本企業の課題」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2010年9月15日(水)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「中国ビジネスリスクと日本企業の課題」
4.講 師:高原 彦二郎  コンサルビューション代表
5.出席者:19名

6.講師講話概要

 高原彦二郎コンサルビューション代表の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

 近年、多くの日系企業が、中国市場の成長性・規模およびその安価な労働力などを背景に、中国への事業展開を急速に進めているが、日本と中国では、人間関係観、交渉方法、権利意識、公私の感覚等に関する考え方が両極にある、ともいえるほど異なっており、そのような国民性や文化の違いを理解しないまま、目先の利益に捉われ、事業展開することはきわめて危険である。中国における経営リスクは、大きく分けて①外部経営環境上のリスク(例えば、反日感情や「指桑罵槐」による日系企業攻撃等)②意思決定と情報リスク(財務データの不正、会計士の不正による情報操作に基づく意思決定リスク)の経営監査上のリスク、③業務執行上のリスク(従業員の資質、債務不履行、商業賄賂等)、の3種類がある。いずれのリスクに対処するためにも、経営現地化の促進が有効な手立てと考えられるが、現状では日系企業の取組みは遅れている。さしあたり、②、③のリスクに対処することが急務であるが、日系企業の取組みは不十分である。尚、上記のリスクは中国における経営リスクであり、決して中国人リスクでは無いことを理解する必要がある。弊社では、中国人の経営者から日本人の不正調査依頼を受ける事もある。中国という国の環境の中で発生する経営リスクと理解する必要がある。

 日系企業の中国における経営管理のあり方を考えるにあたって参考となるのは、欧米企業の多くが採用する現地子会社のガバナンスの手法である。たとえば、中国に進出した日系企業の現地子会社の総経理は、そのほとんどが本社(日本)から派遣された日本人であるのに対し、欧米企業の現地子会社の総経理の多くは、海外の華人を含む中国人が採用されている。そうすることで、言語や文化の障壁が緩和されるとともに、中国の固有リスクに対応した経営監視が可能になるからである。参考になる中国における経営管理手法としては、「成果主義(飴)」と「承認・出金の統制(鞭)」を組み合わせた「老板(ラオバン)方式」とよばれる方式がある。すなわち、現地人スタッフの能力は信頼しても、その行動は信用しない、という「性悪説」に基づく経営管理方式である。

 一方大企業を中心に、最近欧米のガバナンス方式を採用し中国子会社の総経理を中国人にする動きがあるが、「性善説」のみを前提にした日本式経営管理のままでは、中国人総経理の暴走等逆効果となる可能性も考慮する必要がある。欧米の企業のガバナンスの形を真似すれば良いという訳ではない。中国人総経理に対する監視も含む経営監視システムを如何にシステム構築するかが重要なポイントになる。

 日系企業の経営管理の特徴として、自社内外における不正の発生の可能性に極めて鈍感だという「リスク感性」の希薄さが挙げられる。これは、海外事業展開をするしないに関わらず、日本企業が直面している問題である。この「リスク感性」の希薄さは、終身雇用、暗黙の信頼関係、自然な相互牽制といったいわゆる「日本型経営」の前提条件がもたらすマイナス面であるが、一方で「日本型経営」には、その前提条件ゆえに経営の効率性という優れた部分もある。今後、我が国の企業には海外経営において競争力を高めるために、「リスク感性」を高めつつ、他方で「日本型経営」の優れた部分を維持すること、いうなれば「性悪説によるガバナンス・システムを構築しつつ、日本型性善説経営を維持する」という一見相反する経営管理システムの構築が、アジア的感性を共有する中国など、アジアでは今まで以上に求められて来る。

 ところで、リスクマネジメントにおける「リスク対応」とは、あらゆるリスクを排除するということではなく、日常の事業の成功を脅かす業務執行上のリスク(ダウン・リスク)は排除しつつも、利益機会をもたらすリスク(アッパー・リスク)は積極的にこれを取り入れるという、自己責任に基づく意図的・選択的なリスク対応の事である。中国進出をリスクの観点からいえば、今後日系企業に求められるのは、中国固有リスクを排除し(ダウン・リスクを排除する)、中国という潜在力を如何に企業戦略に取り入れるか(アッパー・リスクをとる)、という戦略的なリスク対応の視点である。

(文責、在事務局)