国際政経懇話会

第228回国際政経懇話会
「日本の通商政策はどうなっているのか?」(メモ)

 第228回国際政経懇話会は、石毛博行前経済産業省経済産業審議官を講師に迎え、「日本の通商政策はどうなっているのか?」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2010年10月13日(水)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「日本の通商政策はどうなっているのか?」
4.講 師:石毛 博行  前経済産業省経済産業審議官
5.出席者:21名

6.講師講話概要

 石毛博行前経済産業省経済産業審議官の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

日本の目指す産業構造の転換と通商政策の見取り図

 我が国の経済成長を今後とも可能とするためには、内需拡大だけでは不十分であり輸出を増大させることが必要であるが、現状では我が国の輸出依存度は各国と比してもかなり低い。これを引き上げる余地がある。(1)グローバル製造業がグローバルな競争で勝ち残る、(2)システム・インフラや文化関連産業といった、従来は内需志向だった産業を海外市場につなげる、(3)環境・エネルギー問題や少子高齢化等の社会問題を先取りした産業・投資を育成する、といった方向に我が国の産業構造を転換することが求められる。具体的な手段としては、WTOやEPAの推進に伴い国内改革を実現し、輸出の促進、投資収益の回収、対内直接投資の誘致、人材・旅客の誘致を実践していくこと、一言でいえば「国を開く」ことが重要になる。

WTOの現状と課題

 2001年11月に交渉が開始されたWTOのドーハ・ラウンドは、WTO加盟国(153ヵ国)による貿易自由化の推進を目指すものであるが、このラウンドが締結されれば、第三国同士のFTAがもたらす関税格差を緩和する他、各国の保護主義を抑止する効果を持つ。しかしながら、現在提案されている同ラウンドの合意案は、ある試算によると農産品と鉱工業品の関税削減に重点がおかれており、これらの産品の輸出国である中・伯・印などの新興国では輸出超過となり利益を見込めるのに対し、輸入国である日・米・EUなどの先進国では輸入超過となり損失を被る、といった貿易収支における利害得失のいわゆる「南北対立」が生じており、交渉は停滞している。この状況に対し、米国は自国に有利な化学、電気・電子、環境物品あるいはサービス分野での関税撤廃をも盛り込むかたちでの現行案の大幅な修正を要求しているが、日本とEUは米国と利害を共有しつつも、ラウンドの進展にも勘案して現行案の大幅な修正には慎重な立場をとっている。いずれにせよ、過去GATTのもとで行われた8つのラウンドが先進国主導で進められてきたのに対し、ドーハ・ラウンドは印・伯・中などの新興国も参加するものであり、これら新興国自身が国際貿易に対して責任ある当事者として交渉に前向きに臨む姿勢を持たなければ、このラウンドの締結は困難であろう。ドーハ・ラウンドが進まなければ、WTOの価値がないということはない。WTOにはラウンド以外の重要な機能として、国家間の通商問題に関する紛争処理機能がある。これまでに、IT製品への関税引き上げを進めたEUに対しIT製品輸出国である日本や米国が提訴したケースや、コークスや亜鉛等の原材料品目に高率の輸出税を賦課し輸出制限を行う中国に対し米国・EUが提訴したケースなどがあるが、通商問題の政治化を避け、国際的に合意されたルールにもとづく司法的な解決に貢献してきている。

我が国のEPA/FTAの現状と課題

 アジアの経済統合は、域内分業の促進と市場拡大を実現しうるが、当面の課題は、現在、ASEANと域内各国が個別に締結しているEPA/FTAをより広域的でマルチなものへと拡大することである。また、最近ではアジア太平洋地域を包括する高レベルのFTAのネットワークとなりうる「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)」の枠組みが注目されているが、我が国でも先日、菅直人首相がTPPへの参加検討を表明している。アジア太平洋地域には、TPPに加え、ASEAN+6、ASEAN+3、日・中・韓といったさまざまな枠組みでFTAやEPAの構想があるが、将来的には、これらのうちいずれか特定の枠組みが基軸となってこの地域の経済統合を推進していくのではないかと思われる。ところで、EPA/FTA締結による経済メリットは、たとえばメキシコとのFTAで日本が韓国より先行したことで、日本の対メキシコ輸出額の伸び率が韓国を大きく上回ったという事実に如実に示されている。逆に日本は対EU、対米FTAで韓国に先行されており、このままではEU・米国の輸入額に占める日本のシェアは激減する恐れがある。同様に、韓国は中国とのFTAの可能性をも追求しており、日本は対中貿易においても韓国に後れを取る可能性がある。そして日本がTPP参加に出遅れた場合は、TPPが企図している次世代型FTAの国際ルール形成に乗り遅れる危険がある。一般に、EPA/FTAが締結されると反射的不利益を受ける第三国が反応する。従って、我が国としてはこの法則を念頭において戦略的にEPA/FTA交渉を推進する必要がある。これまでのように「やりやすい国」とだけEPA/FTA交渉をするというのでは、日本は国際社会に取り残されるであろう。また、それに伴い、我が国の農業改革、規制制度改革、産業調整政策といった国内対策も当然求められる。いずれにせよ、本年の横浜でのAPEC首脳会議は、我が国が議長国として、全方位で「国を開く」というメッセージを強く打ち出しつつ、アジア太平洋地域の経済統合のイニシアティブを発揮する絶好の機会といえる。

(文責、在事務局)