国際政経懇話会

第230回国際政経懇話会
「日本の問題意識:問われる日本の外国人受入れ政策」(メモ)

 第230回国際政経懇話会は、平林博日本国際フォーラム副理事長、井口泰関西学院大学教授を講師に迎え、「日本の問題意識:問われる日本の外国人受入れ政策」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2010年12月13日(月)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「日本の問題意識:問われる日本の外国人受入れ政策」
4.講 師:平林  博  日本国際フォーラム副理事長
       井口  泰  関西学院大学教授
5.出席者:20名

6.講師講話概要

 平林博日本国際フォーラム副理事長、井口泰関西学院大学教授の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

平林博当フォーラム副理事長

 第33政策提言「外国人受入れの展望と課題」は、過去一年余の政策委員会での審議を経て発表されたものである。本提言における軸となる主張は、主として次の通りである。すなわち、日本がグローバル化する世界経済の中で生き残り、成長する東アジア経済との一体性や相乗効果を確保するためには、基本的には外国人をより一層積極的に受け入れざるを得ない。しかし、この政策は日本の国益に沿うように進めるべきであり、そのためには、欧州での移民政策のもたらした結果に学ぶ必要がある。すなわち、外国人受け入れ政策は、送り出し国や本人自身の希望に沿うというよりは、受入れ国であるわが国が条件を設定し、その条件に合致した外国人を受入れるという「選択的受け入れ政策」であるべきだ。
 では、欧州の経験とはいかなるものか。第一に、基本的にはキリスト教文化圏に属する欧州における、イスラム教徒移民の問題である。EU内では東欧や中欧から西欧諸国への移住者が多いが、彼らは宗教を含め文化や基本的価値観を異にはしていないので、雇用問題を引き起こすことはあるが(例えば、「ポーランドの配管工」など)、政治的・文化的摩擦は起こさない。しかし、中東・アフリカ諸国から欧州へ渡った移民の中で特にイスラム教徒は、まったく異なった価値観と生活様式を持ち込み、受け入れ国に溶け込まないことが多い。とりわけ若い世代の中には、急進主義に染まる者が一部存在する。この結果、彼らは教育や雇用の面でハンディキャップを負うことになり、それがますます彼らに疎外感を与え、「ゲットー」のような空間を形成することとなっている。治安悪化の原因にもなっている。第二に、この結果、「ヨーロッパ・アイデンティティ」ないし各国のアイデンティティーが損なわれた、という危機感が顕在化しはじめた。これは、新たな移民が受入れ国側の若年層の職を奪うのではないか、といった経済的な面での危機感とは全く別種のものであり、極端な場合には、ネオ・ナチや国民戦線と言った極右勢力を勢いづかせている。こうした現象により、フランスのサルコジ大統領が提唱した「選択的移民政策」は、リベラルなベネルックス諸国や北欧諸国を含め、欧州諸国の共通の政策となった。第三に、欧州各国は、この政策に沿って、不法移民の取り締まりの強化、新規の移民へのより厳しい受け入れ基準の適用、ひいては、モロッコやアルジェリアなどの移民の移動経由国に対し南からの移民を押し戻すように要請したり、カナリア諸島に艦船を派遣してボート・ピープルを取り締まるまでになった。移民を受け入れる場合も、受け入れ国の言語の習得を義務付けるなどの事態となっている。
 日本の場合も、以上のような欧州が経験した問題と対処策を学ぶ必要があるだろう。日本の場合には、宗教はあまり大きな問題とはならない。なぜなら、寛容を旨とする仏教的土壌を有する日本においては、宗教的摩擦などはあまり考えづらいし、アジアのイスラムは大方穏健であるからだ。むしろ、日本に対して歴史問題や領土問題で問題のある近隣諸国からの移民受け入れが、わが国の政治安全保障環境にネガティブな印象を与える可能性があることに留意しなければならない。他方で、高度な外国人人材は日本の企業や社会にとってますます必要であり、また、日本人だけでは足りない職種、例えば介護士や看護人などについては、より受け入れやすい制度・環境を整備すれば、日本にとってプラスとなる面も多い。以上の議論を踏まえ、選択的外国人受け入れ政策をベースにしながら、その範囲でできるだけ積極的に外国人を受け入れることが、日本の国益から必要となるであろう。

井口泰関西学院大学教授

 平林副理事長がフランスを中心に話されたのに対し、私は、欧州ではドイツを拠点に労働市場や人の移動の研究を行ってきた。近年、ブリュッセルの欧州委員会と接点を持ち、共通移民政策や社会統合政策の動向も研究している。またアジアでも、人の移動の研究ネットワークを形成している。さらに国内では、群馬県太田市を座長都市とする「外国人集住都市会議」(28都市から構成)のアドバイザーを7年間務めている。さて、本報告をまとめる作業は、決して容易なものではなかった。結果的に、様々な立場の方々の考え又は懸念などを上手に反映した良い提言になったと考える。ところが、本提言の公表後のメデイアの報道ぶりをみると、各社は自らの考えに近い部分だけを本報告から抜いて報道し、結果的に相当異なる内容の報道がなされた。本当に大事なのは、本提言が政策提言のパッケージであることを理解してもらうことであろう。日本の失業率も、現在5%と非常に高いなか、外国人政策を語るには最大の注意が必要である。本提言は、労働力人口が少なくなるから外国人を入れよなどと言っていない。日本がアジアをはじめとする新興国との関係を強化し、成長する新興国市場とつながり、日本国内の雇用を増やす視点が必要である。また若年人口が急減するなかで人材を確保し、地域経済を活性化する視点も重要である。ところが、わが国の入管システムでは、入国時点で在留資格が交付され、その後の外国人の権利・義務の履行確保がなおざりになり易い。派遣・請負事業者に雇用される外国人は、ほとんど有期限契約の労働者で、現在の労働関係法令は、これら労働者の保護のための有効な措置を持たない。また、第二世代への教育や日本語学習の機会の保障など、将来発生するコストを抑制する新たな投資と考えるべきである。欧米諸国では、世界経済危機の発生後、留学ビザの濫用が問題になり、留学生受入れを抑制する動きがある。この時期こそ、欧米から還流する人材を含め、日本がアジア人材の受け皿になるための対応を急ぐべきである。しかし、先の入管法・住基法改正の場合も同様、法改正による国内の法制度の整備には時間がかかり、わが国の対応が全て手遅れになることを非常に恐れている。また、現政権内部では、外国人政策の優先度が低いことに問題がある。改めて、本提言全体を、政策パッケージとしてアピールし、広く合意形成を図り、政策転換につなげる必要がある。

(文責、在事務局)