国際政経懇話会

第237回国際政経懇話会
「最近の韓国情勢と日韓関係」(メモ)

 第237回国際政経懇話会は、重家俊範前在大韓民国特命全権大使を講師に迎え、「最近の韓国情勢と日韓関係」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2011年9月27日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「最近の韓国情勢と日韓関係」
4.講 師:重家俊範  前在大韓民国特命全権大使
5.出席者:14名

6.講師講話概要

 重家俊範前在大韓民国特命全権大使の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

朝鮮半島が抱える南北対立

 韓国在勤時代に訪問した鉄原(チョルウォン)という地域は、南北境界線に接した朝鮮戦争の最激戦区であったが、なお戦争の爪痕が色濃く残っている。鉄原は、もともと朝鮮戦争前までの5年間は北朝鮮の施政下にあった地域で、朝鮮労働党の地方本部の建物の銃痕が今でも生々しく残っており、南北朝鮮の緊張を実感できる地域である。1948年8月15日に大韓民国(ROK)が、同年9月には朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)が独立を宣言して以来、朝鮮半島は、38度線を境界にして、南北対立が始まり、米ソ冷戦の最前線となった。他方、海上においては、黄海側で北部限界線NLL(Northern Limit Line)が設けられたが、この境界線を巡って南北対立が激化し、昨年3月の韓国哨戒艦沈没事件や、同年11月の延坪島砲撃事件は、このような不安定な水域で起きたことになる。

南北統一に向けた取り組み

 南北の間には、平和協定は未だ締結されておらず、北朝鮮は米国に対して、平和協定締結のための米朝会談を強く求めているが、これは北朝鮮が米国との直接交渉を強く欲していることの表れである。しかし、韓国国内では、昨年の南北間の緊張の高まりと共に、統一に向けた機運が低下している。ある世論調査では、過半数が南北統一に対して否定的であった。このように、韓国では統一のコストの高さを考えると、今は統一より経済発展がもたらす恩恵を享受することの方が利点があると考えられている。わが国は、朝鮮半島情勢に対して、あらゆる事態を想定する必要がある。

両独統一からの教訓

 南北統一を考える際、両独統一から教訓を得ることができる。昨年12月の英誌『エコノミスト』は、南北統一について、両独統一から学ぶ利点を挙げつつも、大きな相違点として、人口と所得の南北差が大きいことを指摘した。南北朝鮮のように、格差の大きい地域(あるいは国)が統合する場合には、財政支援や移住の自由を認めることが必要となる。また、南北朝鮮は血を流した事実があり、そのため、今日に至るまで両国の間には強い敵愾心が存在することも、ドイツとの重要な相違点であると思う。さらに、両独統一の安全保障の問題では、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)、欧州通常兵器削減交渉(CFR)など、利用できるメカニズムがあったが、東アジアには、そのような場が存在しないため、今後6ヵ国会議、ASEAN地域フォーラム(ARF)といった枠組みを有効に活用していく必要がある。

最近の韓国情勢

 最近の世界経済の先行きの不透明さに対し、韓国もやや警戒心を募らせているものの、基本的に韓国全体は、ここ数年実に活気に満ち溢れている。李明博大統領のプラグマティックな姿勢が、韓国国民のさまざまなモチベーションの向上に貢献しており、国民のマインドセットは大統領と同じ方向にある。政治面では、来年の12月に控えた次期大統領選の候補者に注目が集まっている。韓国大統領は一期5年で再選がないため、大統領選挙への注目度はかなり高いものとなっている。与党では、李明博大統領と同じハンナラ党から立候補予定の朴槿恵(パク・クネ)候補が本命だが、野党の元IT起業家でソウル大学教授の安哲秀(アン・チョルス)候補の政界進出も噂されている(「おり、両者による接戦が予想される」に代えて)。現政権は今後、(イ)レームダック化、(ロ)北朝鮮への対応、(ハ)同政権が掲げる「公正社会」の具現化、等の課題に直面することになる。

韓国を取り巻く外交状況

 韓国の外交政策の最重要の課題は、南北関係(すなわち北朝鮮問題)、対米関係、対中関係、対日関係である。まず、南北関係であるが、李明博大統領は極めてしたたかな外交姿勢を打ち出している。2007年の大統領選挙の際、対北朝鮮政策として、北朝鮮による核の放棄と対北朝鮮支援を目的とする「非核・開放・3000構想」を打ち出したほか、昨年8月15日の大式典「光復節」での演説では、「統一税」創設を提案した。次に対米関係だが、李明博大統領とオバマ大統領との個人的な関係を基に、極めて良好な関係を築いている。太平洋における米国との同盟関係は、今後日本ではなく韓国が担うといった気負いさえ感じられる。対中関係では、政治面では歴史問題や領土問題で両国の関係はギクシャクした状況が続いている一方、経済面では、今後も中国は韓国にとって最大の輸出相手国であることに変わりはなく、その重要性は一層高まるといえる。最後に日韓関係だが、両国間にはことあるごとに領土問題・歴史問題を持ち出す傾向があり、依然として両国関係が進展できずにいる。こうした関係をできるだけ早くリセット、改善させ、成熟化させることが両国に求められる。

(文責、在事務局)