国際政経懇話会

第243回国際政経懇話会
「プーチン再選後の日露関係の展望」(メモ)

 第243回国際政経懇話会は、丹波實元駐ロシア連邦大使を迎え、「プーチン再選後の日露関係の展望」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2012年4月10日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「プーチン再選後の日露関係の展望」
4.講 師:丹波實 元駐ロシア連邦大使
5.出席者:30名

6.講師講話概要

 丹波實元駐ロシア連邦大使の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

ロシアの今後の内政改革の見通しは暗い

 プーチン氏は今年3月の大統領選にて63%以上の得票率を得て当選したが、この再選に同氏は胸を撫で下ろしていることだろう。なぜなら、昨年12月4日にプーチン氏率いる統一ロシア党が下院選挙にて大敗していたからである。プーチン政権は今後、低迷するロシア経済を立て直すとともに、現在ペンディングにされている幾つかの改革法案の成立を期するものと考える。ちなみに知事の公選制への改革などは既に実現されている。しかしながら、これらの改革措置はいずれも「コスメティック・リフォームズ」(お化粧直し)に過ぎない。ロシアは、ロマノフ王朝、ソ連王朝、プーチン王朝と名前を変えつつ続いているが、その本質は或るポーランドの政治評論家がいみじくも指摘したごとく何も変わっていない。政治における統治形態には、法治主義、人治主義、権力主義の3つがある(権力主義は、伊藤憲一氏が「力治主義」と呼んでいるものである)が、今後のロシアも権力主義と人治主義を合わせた統治形態となるであろう。人治主義は、コネの政治であって、腐敗と賄賂の横行を招く。ゆえに、ロシアの今後の見通しは暗い。

今後の米露関係はcoldでもhotでもないwarmなところを行ったり来たりしていくであろう

 対外的には、ロシアは今後も従来の大国外交を展開するだろう。だが、米露関係のトーンは変わるものと予測する。メドベージェフとオバマの間においては、新START交渉などが進展した。この関係を象徴する言葉は、米露間における「ボタンのかけ直し」であった。しかしこの間、プーチン氏は一度も米露関係の「リセット」などというような表現を使ったことがないことを想起すべし。同氏はそもそも米国に対して温かい気持ちを抱いていない。さらに米露間には、ミサイル問題に加え、シリアやイランに関する問題が残されている。また、一方のオバマ氏も国内の共和党ロムニーから「ロシアに甘すぎる」と言われている。こうした状況を踏まえると、米露関係の今後はcoldでもhotでもないwarmなところを行ったり来たりするような関係になるだろう。

日露関係の劇的前進は期待できない

 プーチン氏は大統領復帰後、直ぐに訪日するとの観測もごく一部にあるが、問題は何をもって訪日するかである。仮にプーチン氏が2001年3月の時と同じように、二島返還のみで交渉に臨んできた場合、日本にとって何の前進でもない。にもかかわらず、プーチン氏が今後の日露関係を劇的に前進させるとの見方や北方領土問題を解決する「ラストチャンス」「千載一遇」と捉える考え方が、日本国内の一部にあるのは理解に苦しむ。日本が四島返還を求めるのは、それが歴史的根拠に基づく正義だからである。正義はパーセントでは議論できない。2.5島返還論、3島返還論、3.5島返還論や面積折半論などがあるが、そのような人たちには竹島や尖閣も同じようになってよいのかと質問してみたい。日本は、忍耐と我慢をもって交渉を続けていくべきである。北方四島における共同経済活動についても危惧している。一昨年秋、メドベージェフ大統領と菅首相による首脳会談が行われ、その際、四島における共同の経済活動についてロシア側から提案があった。ラブロフ外相は、同経済活動について「すべてロシアの法律のもとで実施する」と述べているが、これは四島におけるロシアの管轄権を認めることになり、日本の国益を大きく損なうものである。にもかかわらず、日本国内にはそれを実現しようと考えている人々がおり、さらには共同自治まで議論する人がいるのは理解ができない。共同経済活動、さらにはエネルギー資源の共同開発等をもって、北方領土問題の解決を図ろうとする議論にも注意すべきである。今後、日本とロシアが「本気」の二国間関係を築いていくためには、日本の総理とプーチン氏との個人的関係を如何に築いていくかが重要である。例えば、橋本龍太郎氏とボリス・エリツィン氏の間にはそのような関係があった。また北方領土問題は、将来のいつか解決するときには、1998年の川奈提案的な道を通るであろうと確信している。

(文責、在事務局)