国際政経懇話会

第250回国際政経懇話会
「米国大統領選挙の結果をどう見るか?」(メモ)

 第250回国際政経懇話会は、渡部恒雄東京財団上席研究員を講師に迎え、「米国大統領選挙の結果をどう見るか?」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2012年11月13日(火)正午より午後1時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「米国大統領選挙の結果をどう見るか?」
4.講 師:渡部恒雄 東京財団上席研究員
5.出席者:15名

6.講師講話概要

 渡部恒雄東京財団上席研究員の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

オバマ陣営の「逃げ切り戦術」と流れを決めたハリケーン「サンディ」

 2012年の米国大統領選挙では、民主党現職のオバマ大統領が、共和党候補のロムニー前マサチューセッツ州知事を破り、接戦の末再選を果たした。その勝因には、ロムニー陣営がティーパーティー運動や保守派の支持を得るのに苦戦し、予備選にて資金、エネルギーの多くを消尽した一方で、予備選がなかった現職のオバマ陣営は緻密かつ周到な選挙戦略を進め、本選に全力投球できたことがある。具体的には、オハイオなどの接戦州にロムニー陣営を圧倒する大量の選挙対策事務所(フィールドオフィス)を設置したほか、4月ぐらいの早い段階から、ロムニー氏を金持ちで冷酷な経営者というイメージを刷り込む「ネガティブ・キャンペーン」を展開したことが上げられる。2012年10月、突如米国を襲ったハリケーン「サンディ」は、まさに選挙の流れを決定づけたといえる。ハリケーンの被害が甚大だったニュージャージー州で、それまでオバマ政権を批判していた共和党のクリス・クリスティ州知事が、オバマ大統領との共同記者会見でその対応を絶賛したことで、党派対立にうんざりしていた有権者の目には、一時的にでも「超党派協力のシンボル」として好感度を上げた。かたや、ロムニー氏はその間、選挙活動を自粛しなくてはならず、選挙直前にオバマ政権を批判する機会を封じられた。このハリケーンがオバマ陣営にとっては「神風」、ロムニー氏にとっては、「オクトーバー・サプライズ」となったのである。しかし、米国の大統領選挙は基本的に現職が有利といわれる中で、オバマ氏がこれだけの精力を注がないと勝利できなかったということは、この選挙がいかに接戦であったかを物語っていたともいえる。

出口調査から見た今回の選挙結果分析

 米紙『ワシントン・ポスト』によるインターネットの出口調査の結果をみると、有権者の性別、人種別、所得別の支持率から以下のことがわかる。まず、性別による支持率をみると、男性はロムニー氏、女性はオバマ氏への投票がそれぞれ上回った。女性票がオバマ氏に流れた理由としては、ロムニー陣営が保守派の支持をつかむためにが強硬な妊娠中絶反対の姿勢をとったことなどが大きいと考えられる。次に、人種別にみると、白人の59%がロムニー氏に、黒人の93%、ヒスパニックの71%、アジア系の73%がいずれもオバマ氏に投票した。移民政策に対するロムニー陣営の非寛容な姿勢がヒスパニック票を失う結果になったと思う。最後に、所得別にみると、年収5万ドル以上の層がロムニー氏支持なのに対し、5万ドル以下の層はオバマ氏支持と票が分かれた。これは、民主党大会において、ミシェル・オバマ大統領夫人によるスピーチが、オバマ氏を低所得者層の気持ちを理解できる大統領として印象付けたのに対し、「米国民の47%は所得税を払わず、政府に頼りきっている」と失言するロムニー氏の隠し撮りビデオの流出は、同氏を金持ちの味方として印象付ける効果があった。

米国が抱える今後の課題と日本が注目すべきこと

 再選を果たしたオバマ大統領の最大の課題は、「財政の崖」をどう乗り越えるかである。2001年と2003年からの所得税などに対する大型減税、いわゆる「ブッシュ減税」が2012年末に期限を迎えるなかで、年収25万ドル以上の富裕層の減税打ち切りを主張するオバマ大統領と、継続を主張する共和党との間で、今後どのような妥協が可能になるかだが、現状では予断を許さない。また、オバマ政権は10年間で2.4兆ドルの財政赤字削減を決定し、すでに0.9兆ドルの具体的な削減に合意している。残りについては、超党派の合意が得られない場合、シーケストレーションと呼ばれる強制削減措置が取られることが合意されている。軍事費も聖域扱いとならないため、10年間で4,870億ドルの軍事費の削減に加え、さらに5,000億ドルが強制削減の対象となり、わが国を含む米国の同盟諸国にとっても大きな問題となる。大統領選挙後の日本にとって注目される人事は、だれがアジア太平洋担当の国務次官補になるかだが、これはだれが国務長官になるかによって決まる。また、よく中国寄りか、日本寄りか、という点が注目されるが、重要なのは、今の東アジアのパワーバランスをよく理解している人物がポストに就くかどうかであろう。そのほか、日本が注目すべきことは、米国では女性上院議員が20人誕生し、女性の声が強くなっていることである。中国や韓国は、領土問題と歴史問題を絡ませた広報戦略をとっており、日本の政権が従軍慰安婦にお詫びと反省の気持ちを示した「河野談話」を見直すなどいう動きに出たりすれば、米国内の世論から大きな反発を買う可能性があり、細心の注意が必要である。

(文責、在事務局)