国際政経懇話会

第253回国際政経懇話会
「駐米大使の任を終えて」(メモ)

 第253回国際政経懇話会は、藤崎一郎前駐米大使を講師に迎え、「駐米大使の任を終えて」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2013年3月6日(水)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「駐米大使の任を終えて」
4.講 師:藤崎 一郎 前駐米大使
5.出席者:34名

6.講師講話概要

 藤崎一郎前駐米大使の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

成功した安倍総理の米国訪問

 2月21日から24日にかけての安倍首相の訪米は成功裡に終了したといえる。その理由として挙げられるのは、オバマ大統領との個人的な関係をアピールするのではなく、講演やインタビュー出演などの形式で、首相が米国全体に働きかけたことがある。日米関係の強化には、レーガン元大統領と中曽根元総理の関係や、ブッシュ元大統領と小泉元首相との関係を引き合いに、首脳間の個人的な信頼関係が大事であるとメディアなどでしばしば報道されるが、個人的関係の重要度は、大統領の性格に応じて考えた方がよい。オバマ大統領の場合は、職務とプライベートを峻別し、また誰に対しても公平さを心掛けるという印象であるため、首脳間の個人的な信頼関係を強調するよりは、このような方法が功を奏した。

オバマ政権の現状と外交課題

 第2期オバマ政権の閣僚の顔ぶれをみると、第1期政権時と比べクリントン元国務長官のようなスター性のある人物はおらず、極めて有能かつ目立たないタイプの人物ばかりである。特にジェイコブ・ルー財務長官はその典型といえる。また、ブッシュ政権時には、「実権を握っているのはチェイニー氏」などの権力闘争を匂わす報道がなされたが、現政権にはそのような報道が一切なく、これは政権の情報統制が非常に利いている証拠だともいえる。
 対外政策については、第2期政権でもアジア重視戦略には変わりなく、それは東アジア首脳会議(EAS)への大統領の参加、ASEAN大使の創設などにも表れている。しかし、外交努力の大半がアジア・太平洋地域に割かれるというわけではない。中東においては、イランの核開発をどのように封じ込めるのか、「アラブの春」後の中東和平問題にどう対処するのか、などの諸問題が今後も大きな課題であり続けるだろう。
 また、米国の中国観は、振り子のようにプラス(経済権益、国連における協力、中国の北朝鮮との関係性、大国外交の巧みさ)とマイナス(中国の軍備拡張、台湾問題、人権問題、知的所有権をめぐる問題など)の間を往復するものであるため、現在米中関係が冷え込んでいるからと言って、この状態が永続的に続くとは限らない。特に米中双方とも政権が交代した現在、その可能性は高く、日本はその動向を常に注視する必要がある。

日米関係強化に向けた日本の課題

 私の任期中には首相が5人交代し、「日米関係は非常に大変だった」と言われているが、私は、信頼関係が損なわれるような政策の変更はあってはならないと思う。普天間基地問題は、1996年4月のモンデール・橋本会談から2009年の民主党政権誕生までの約10年間、何も動いていなかったという見方があるが、これは間違いである。交渉は水面下で進められており、基地の辺野古への移設については、沖縄県知事、名護市長の賛成を得るところまでこぎつけていたのである。鳩山政権による普天間基地の県外移設提唱は、日米間で普天間基地移転に関する協定まで締結したにもかかわらず、それを一方的に変えようという提唱であり、日米間の信頼関係を損なう結果になったが、その後の政権は修復に努めた。
 また、日本は各種国際機関の意思決定の場に参加していくべきである。例えば、国連の意思決定は、国連安保理常任理事国、とくに米中両国を中心とした常任理事国によりなされており、日本を始めとして、その場にいない他の国々の意思は全く反映されない仕組みになっている。TPPについても、同様に意思決定の場にいることが大事であり、参加しなければ日本の立場は悪くなることはあっても、良くなることはないだろう。

(文責、在事務局)