国際政経懇話会

第254回国際政経懇話会
「最近の中東・北アフリカ情勢とわが国の政策」(メモ)

 第254回国際政経懇話会は、宮川眞喜雄外務省中東アフリカ局長を講師に迎え、「最近の中東・北アフリカ情勢とわが国の政策」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2013年4月25日(木)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「最近の中東・北アフリカ情勢とわが国の政策」
4.講 師:宮川眞喜雄 外務省中東アフリカ局長
5.出席者:17名

6.講師講話概要

 宮川眞喜雄外務省中東アフリカ局長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

中東・北アフリカ地域の特徴

 今日の中東・北アフリカ地域諸国は、我が国のエネルギー供給と海上交通路の要衝にあるが、政治的には地域・世界の安定を脅かす問題を抱えている。「アラブの春」という民主化の動きに触発された政治的地殻変動や、それに伴う内戦、地域紛争の拡大は言うに及ばず、大量破壊兵器の拡散等も重大な問題として未解決である。
 経済的には、高い人口増加率と若年層の拡大に加え、豊富なエネルギー資源に恵まれ、我が国との経済活動深化への潜在性に富んでいる。各国の政治指導者らは、政治的問題をかかえつつも、自ら様々なプロジェクトに関与し、経済活動に大きな影響力を有しているため、欧米諸国は言うに及ばず、中国、韓国までも、同地域との経済関係を強化すべく、首脳レベルでの頻繁な働きかけを行っている。

「アラブの春」運動の影響と今後の課題

 中東・北アフリカ地域を席巻した「アラブの春」運動の影響は、国・地域によって様々である。民主化の動きによって独裁体制が崩壊し、新政権が発足するという変動を経た国もあれば、影響を受けながらも緩やかな政治改革にとどまる国もある。前者に該当する国としては、チュニジア、リビア、エジプト、イエメン等があげられるが、これらの諸国では、独裁体制の正統性に対する批判、経済に対する不満、メディア・情報通信手段の普及という要因によって政治的地殻変動が拡散したといえる。後者の国としては、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦、オマーン、クウェートといったペルシャ湾岸の王国・首長国があげられる。これらの諸国では、国民の不満は国王ではなく内閣へ向いており、またその不満も豊富な財源によって解消され、辛うじて体制を安定させ得たといえる。但し、中長期的には、民主化の波が体制に影響を及ぼす可能性も否定できない。
 また、地殻変動後の課題として、この地域全体の人々に根付いているイスラムの思想が、民主化の進展にどのような影響を与えるのかを注視していかなければならない。特に、エジプトでは、民主化プロセスが進展する中で、民意を反映した親イスラム政権が誕生したが、西欧的な民主主義を求める世俗主義勢力との対立が生じている。また、若年層の失業率、腐敗、補助金等の課題に対し、地殻変動を経た国々がいかに経済改革を効果的に実施していくかを見極めることも、これらの国々の将来を占うファクターである。

各国の情勢

 シリアのアサド大統領は、「アラブの春」に対し、実力をもって抵抗している。これに対し、国連安保理では、シリア現体制に経済制裁をかけ、反体制派を支援しようという米国・英国・フランスと、内政干渉すべきではないとするロシア・中国の対立が深く、安保理は本来の機能を果たせずにいる。
イランは、2002年に秘密裏にウラン濃縮を行うなど、着実に核計画を推進・拡大しているが、これに対し、EU3カ国(英国・フランス・ドイツ)及び米国・ロシア・中国の計6カ国は、イランの核政策を変えるよう圧力を継続している。
 アフガニスタンでは、2014年以降の持続的安定を確保できるかが課題となっている。2014年春で任期がきれるカルザイ大統領にかわる実力者がおらず、また、NATO/ISAF(国際治安支援部隊)の撤収完了予定も2014年末だからである。
 イラクは、現在、大統領がクルド人、首相がシーア派、国会議長がスンニ派というように、3勢力鼎立により安定を維持してきたが、高齢のタラバーニ大統領は健康上の問題が発生し、イランに近いシーア派のマーリキー首相が台頭しつつある。そのため、イランからシリアへの軍事物資の輸送をイラクが遮断することが期待されているが、マーリキー首相の台頭によりその役割の形骸化が懸念となっている。

日米政府の中東への対応

 これら各国の情勢に対する米国の対応は、イラクやアフガニスタンでは強力なリーダーシップを発揮したものの、シリアに対しては慎重である。その理由として、米国は、軍事物資等の支援はシリアに潜入しつつある過激派の手に渡り、シリアがアフガン化する懸念がある。国連安保理のマンデートが露中の拒否権発動で出来ない中で、法的正当性が確立出来ないこともある。
 しかし米国は、イスラエルとともに、シリアが保有する化学兵器が過激派に渡った時が武力発動のレッドラインであると考えている。
 イランについては、濃縮ウランを爆弾製造可能な6フッ化ウランの状態からそれがしにくい酸化ウランに転換し、レッドラインを回避しようとしている。
 我が国としては、殊に中東和平に対しては、2006年より経済開発を推進しつつ政治的安定をもたらすべく、パレスチナの経済開発を目指す「平和と繁栄の回廊」構想を推進してきている。現在は、西岸地区に農業開発区をつくり、そこに進出する企業の入札を開始する段階にまで進んでいる。2期目に入ったオバマ政権も、わが国同様、民間企業を呼び込み、経済分野を活性化させ和平を実現しようと動き出している。ここに日米間でインターフェースを構築できないか、今後模索していきたい。

(文責、在事務局)