国際政経懇話会

第256回国際政経懇話会
「中国とはいかなる存在か」(メモ)

 第256回国際政経懇話会は、渡辺利夫・拓殖大学総長を講師に迎え、「中国とはいかなる存在か」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2013年6月27日(木)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「中国とはいかなる存在か」
4.講 師:渡辺利夫 拓殖大学総長
5.出席者:23名

6.講師講話概要

 渡辺利夫拓殖大学総長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

「大清帝国の後裔」としての中国

 「中国とはいかなる存在か」という問いの答えは2つに集約することができるが、その1つが「大清帝国の後裔」である。習近平国家主席は、中国共産党総書記および中央軍事委員会主席に就任後、第18期中央委員会第1回全体会議にて、「アヘン戦争での敗北以来170年余にわたり屈辱の歴史を背負わされてきたわが中華民族が、ついに偉大なる復興への道を探り当て、世界を瞠目させる成果を収めつつある。中華民族の偉大なる復興こそが近代以降の中国人が最も強く待ち望んでいた夢である。現在、我々は過去のいかなる時期よりも中華民族の偉大なる復興の目標に近づきつつある」という講話を発表したが、この講話に、習近平政権の考える中国の方向性を読み解く鍵が隠されている。すなわち、中国国民は1840~42年のアヘン戦争以来、「屈辱の近代史」というトラウマを抱えており、その克服が中国人にとっての願望であった。30年あまりの改革開放政策を経て、ようやくWTO加盟、北京五輪・上海万博開催を果たし、GDP世界第2位という経済大国にまでなったことは、権力者や既得権益者はもとより、他に誇るべきものを持たない貧困層にとって痛快な出来事であったろう。習主席の講話にある「中華民族の偉大なる復興」とは、このような中国人の胸に宿りはじめた情動をうまくすくい上げた修辞(レトリック)であり、170年余前の偉大なる過去、つまり、漢族、満族のみならず、モンゴル、チベット、ウイグルをも組み込み、歴史上最大の版図を擁した大清帝国以前の中国への回帰を願う国民の規範的な歴史意識に見合ったものといえる。

大清帝国を支える「華夷秩序」と「冊封体制」

 大清帝国を支えていたのは、「華夷秩序」という中国王朝が代々擁した価値の序列概念である。これは、「中華(中原)」(現在の華北平原)を中心に同心円状に広がり、その外縁に位置する人種・民族ほど価値の序列が低くなるという概念である。漢族中心の明では、同概念が原理主義的レベルにまで高められたが、満族・漢族の連合政権である大清帝国では、人種、宗教、言語の多様性を容認する「分治的」な対応をもって異民族支配に臨み、モンゴル、チベット、ウイグルをも含む王朝を築いた。そこには主権国家概念はなく、もはや帝国自体が一つの天下だったのである。帝国を支えるもう1つの概念は、「冊封体制」である。これは、中華の礼式に服するなら、その見返りに王位や爵位を与え、その土地と人民の統治権を与えるという中国固有の国際秩序概念である。大清帝国は、モンゴル、チベット、ウイグルを「華夷秩序」に組み込み、さらに外縁にある朝鮮、ベトナム、琉球等は「冊封体制」を以て自らの国際秩序体系の中に組み込んだのである。したがって、中国が大清帝国以前の中国への回帰を願うということは、同帝国が擁した版図をも継承しようとしているのだということを我々は認識せねばなるまい。

後れてやってきた帝国主義国家

 「中国はいかなる存在か」の問いのもう一つの答えは「後れてやってきた帝国主義国家」である。それは、1992年に中国が制定した領海法に端的に表れている。すなわち、同法は、その第2条で「中華人民共和国の領地領海は中華人民共和国の大陸とその沿海の島嶼、台湾及びそこに含まれる釣魚島とその付属の各島、澎湖列島、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島及びその他一切の中華人民共和国に属する島嶼を包括する」とうたう。これらは中国にとっての核心的利益だと近年は明言している。同法は、中華民国政府内務省が1935年に作成した「南海島嶼地図」を、中国共産党が1947年に権威付けし、1992年に制定したものだが、その制定プロセスに国際法的観点は全く含まれていない。ドイツ、日本、米国は対外膨張に乗り出した時期はあるが、それは遙かなる遠い過去の話である。しかし、中国は今まさに「失われた歴史の回収」に乗り出した「後れてやってきた帝国主義国家」なのである。日本は「中国とはいかなる存在か」という根源的な問題を見据えた上で、長期的戦略をとらなければならない。日中間における目下の最大の懸念である尖閣諸島問題についても、単に「戦略的互恵関係で話し合いを続ければ収まる」というようなわけにはいかないのである。

(文責、在事務局)