国際政経懇話会

第260回国際政経懇話会
「我が国の安全保障に関する当面の課題について」(メモ)

 第260回国際政経懇話会は、西正典防衛事務次官を講師にお迎えし、「我が国の安全保障に関する当面の課題について」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2013年11月19日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「我が国の安全保障に関する当面の課題について」
4.講 師:西 正典 防衛事務次官
5.出席者:33名

6.講師講話概要

 西正典防衛事務次官の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

我が国周辺の安全保障環境(中国)

 現在、我が国周辺の安全保障環境を見渡した際、圧倒的な重心は朝鮮半島以南にある。米ソ冷戦時代は極東ソ連軍の問題が最重要課題だったが、現在はそれが中国の問題へと遷移した。しかも、中国については、中国がどう打って出るかよりも、これから先中国がきちんと統治された国であり続けてくれるかの方が、重要な課題である。その中国は現在、陸軍を削減し、海空軍に注力しつつある。特に海軍はその性能がまだまだ劣っているので、軍事費をそこへ投資せざるを得ない状態である。中国は元々陸軍国で、第二位がミサイル及び核、第三位が空軍であり、海軍は第四位で、一番後回しだった。
 中国では、国営企業優先で銀行からの融資が行われているため、民間資本が発展出来ていない。その為、中国では銀行に対して不満を持つ人々が多い。将来金融危機が起きて、パニックとなった場合、中国政府は事態をコントロール出来るのだろうか。先日、中国の退役将校に「中国が統一を維持したまま軍事大国になる分には、日本も防衛力を増強して対応出来るが、分裂して周辺諸国に迷惑を掛けるような事態に陥った場合には、対応するのが困難だ」と言ったところ、かなり深刻な顔をしていた。

我が国周辺の安全保障環境(北朝鮮)

 もう一つの関心事は、北朝鮮の動向である。情報が極めて少ないが、北朝鮮の金正恩は、先代金正日の遺臣やお目付を片端から排除し、抵抗する者は粛清しているようだ。特に軍及び警察で粛清が行われており、外貨管理の権限も軍から政府へと移しているらしい。これらのことから、金正恩は「先軍政治よりも経済復興」を目指しており、先軍政治から軍事と経済との「並進政治」へと移行している最中だと思われる。金正日の遺言である「先軍政治」がなくなった場合、北朝鮮はどこへ向かうのか、見えにくい状況が続いている。

我が国周辺の安全保障環境(ロシア)

 ロシアに関しては、先般、初の日露2プラス2(安全保障協議委員会)が開催された。この2プラス2では、ロシアに対し、領土問題はあっても関係を前進させることができることを明らかにし、日露間での防衛協議のチャンネルを開設することができた。対露では段々とこのチャンネルを拡げて行っている。
 極東ロシアには、ソ連時代は兵士が数十万人いたが、崩壊してロシア連邦となった現在は約8万人しかいない。現在、極東ロシアの対中国境線の守りは手薄であると聞いている。しかも、極東ロシアの人口が約600万人なのに対し、中国満州地方(東北地方)の人口は1億人であり、ロシアにとって安全保障上のリスクとなっている状況らしい。

自衛隊による国際平和協力活動

 自衛隊は現在アジア、中東、アフリカ及び中米等で国際平和協力活動を実施し、のべ約4万人の隊員を派遣している。先日の台風の被災地フィリピンへも現在、1,000名規模の隊員が派遣されている。東南アジアで国際平和協力活動をやることによって、各国が対海賊等だけでなく、対中国で何を考えているのか、アメリカ経由ではなく直接生の情報を得ることが出来ている。

軍事技術の動向(サイバー等)

 サイバーの問題はスノーデンで急に脚光を浴びたが、これは技術の問題である前に、むしろHuman Behaviorの問題である。その7割は技術より、「扱う人間のエラー」の問題である。米軍の情報システムは、潜航中の潜水艦のセンサー類以外は総て巨大なシステムで繋がっている。世界一スーパーコンピュータで膨大な量の情報を分析し、ビッグデータを活用できているのが米軍の情報システムである。しかし、その米軍でさえも古いシステム(レガシーシステム)の克服は、容易ではない。日本の陸海空自衛隊の情報システムも、現在統合されてはいるものの、かつて陸海空が別々に開発を依頼したため、発注先企業各社各様の古いシステムができの悪い迷路状態になったまま使っている。アメリカはサイバーの世界で圧倒的な情報量を持っている為、その情報を中露に狙われていると聞くが、アメリカは「誰に何の情報を盗まれた」かまで把握出来ていると聞いたことがある。アメリカは「中露にはアメリカが必要とする高度な技術が(現時点では)存在せず、不公平だ」とイライラしているらしい。

軍事技術の動向(その他)

 NBC(核、化学、生物)兵器のうち、C(化学兵器)は破壊する技術及び手順は確立出来ているが、安全に廃棄出来る場所がないのが問題である。また、B(バイオ兵器)は反応が出るまでに時間がかかるため、誰がどこで仕掛けたかを調べるのに時間がかかるのが難題。米軍の作戦は、ゼロカジュアリティ(1人の犠牲者も出さない)を目指している。人間そのものが最も高価な兵器である以上、これを失う訳にはいかず、(可能な限り)無人爆撃機等のロボット兵器へ切り替えている模様。アフガン及びイラクでの米兵の死因の多くが、路肩爆弾のIED(即席爆発装置)による被害であり、これを回避してゼロカジュアリティを達成する為の兵器製造への協力の要請が、アメリカから日本へ来ていると聞いている。


(文責、在事務局)