国際政経懇話会

第262回国際政経懇話会
「ロシアの動向と日露関係について」

 第262回国際政経懇話会は、上月豊久外務省欧州局長を講師にお迎えし、「ロシアの動向と日露関係について」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2014年2月26日(水)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「ロシアの動向と日露関係について」
4.講 師:上月 豊久 外務省欧州局長
5.出席者:37名

6.講師講話概要

 上月豊久外務省欧州局長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

中間層の不満と政府の対策

 ロシア国内でのプーチン支持率は依然60%台を維持し、高水準なるも、第1期、第2期の80%台と比べ、漸次低下する傾向にある。国内での批判を容易に抑え込めた第1期・第2期(2000~2008年)と異なり、第3期(2013年1月以降)では大規模な反プーチン・デモを経験し、プーチン政権としては、国内世論に配慮せざるを得ない状況である。デモの中心は、皮肉にもプーチンの育てた中間層であり、そのデモには中央アジアなどからの移民に加え、貧困層も参加している。一連の規制強化措置や反政権派中心メンバーへの個別圧力等(刑事訴追やマスコミ・キャンペーン)により、抗議デモは失速したが、市民の不満は解消されていない。そんな中、プーチンは愛国心に訴えて、市民の不満を解消しようとしている。ソチ五輪開催も市民の不満解消のための政策の一例である。

経済・エネルギーと極東・東シベリア開発

 2007年まで8%台を維持していたロシアのGDP成長率は、リーマン・ショックの影響を受けて鈍化し、2013年には1.3%まで低下した。石油価格が下がり、外国企業も去った。そんな中、プーチンは昨年12月の年次教書演説で、「国家及び民間ビジネスのリソースは、シベリア・極東の発展のような戦略目標の達成に使われるべきである。これは我々の21世紀の国家的プライオリティである」と述べ、極東・東シベリア開発に本格的に取り組む意欲を示した。プーチンは極東・東シベリア地域の開発や経済近代化に対する協力及びエネルギー資源購入を日本に期待している。

露中関係の強みと弱み

 ロシアにとって中国は最大の貿易相手国であり、2012年の対中貿易額は全貿易額の10.5%を占めている。昨年10月にはロスネフチとCINOPECが年1,000万トンの大型石油供給契約(10年間、8,500億ドル)に署名している。また、首脳レベルでも活発に相互訪問しており、最低年3回の首脳会談を行っている。更に、国際場裡でも共同歩調をとることが多く、国連安保理においても露中共同で拒否権を行使するケースが多い。中東ではロシア、アジアでは中国がリードして、拒否権を行使している。ただ、中国は極東でロシアに人口圧力をかけ、対中央アジア貿易額もロシアのそれを凌駕するなど、ロシアから見て懸念材料もある。尖閣問題に関しては、ロシアは中立のスタンスをとっている。

日露関係と北方領土問題

 北方領土問題についての日本政府の基本方針は「四島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結する」であり、交渉における日本側の原則的立場は「日本への四島の帰属が確認されれば、実際の返還の時期及び態様については柔軟に対応する用意がある」であって、「四島の即時一括返還」を求めているわけではない。これに対し、北方領土をめぐるロシア側の姿勢は「1956年の日ソ共同宣言には『平和条約締結後に歯舞・色丹を引渡す』と記されており、それ以上の領土問題はない。歯舞・色丹がどのような条件で引渡されるか、どの国の主権の下に置かれるかも書かれていない」というもので、最近は「第二次世界大戦の結果、四島はロシアの領土の一部となり、これは国際法によって確認されている」ということも言っている。しかし、国際法というのなら、ロシア側の法的主張は容易に論破可能だと思っている。


(文責、在事務局)