国際政経懇話会

第276回国際政経懇話会メモ
「最近の国際金融情勢について」

2015年7月21日
グローバル・フォーラム

 第276回国際政経懇話会は、山崎達雄・財務省顧問を講師にお迎えし、「最近の国際金融情勢について」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日時:2015年7月21日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「最近の国際金融情勢について」
4.講 師:山崎達雄 財務省顧問
5.出席者:20名
6.講師講話概要

 山崎達雄・財務省顧問の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1)世界経済の見通しについて

 今年後半から来年にかけての世界経済の見通しについては、全体的にゆるやかな成長をとげることが予想される。そのうち米国経済については、今年第一四半期の成長率に落ち込みが見られたものの、これは大雪などの悪天候、西海岸での港湾スト、石油価格が予想を下回ったことによる関連設備投資の低迷などといった一時的要因に起因するもので、今後、中長期的には力強い成長が回復される見込みである。EU経済については、ギリシャ問題など深刻な問題を内部に抱えているものの実体経済への影響は限定的であることや、さらに2010年の欧州危機以来の不良債権問題が徐々に解消されてきていることから、今後はゆるやかながら成長に向かうと考えられる。また、新興国経済については、今年第一四半期の成長率に落ち込みが見られるが、これはブラジル経済、ロシア経済のマイナス成長が反映されるもので、ASEAN経済はまずまずの成長を持続しており、インド経済はさらに力強い成長を続けている。そのような中、ギリシャ、中国、ウクライナの各国経済の動向が、それぞれ今後の世界経済におけるリスク・ファクターといえる。

(2)ギリシャ問題とEU経済の行方

 いわゆるギリシャ問題の最大の焦点は、この問題によってEUの政治的分断がどこまで進むのか、という点にあるといえる。ギリシャ経済が、EUの提案する財政緊縮策を受け入れないままにこれまで破綻を免れていたのは、ひとえに欧州中央銀行(ECB)がギリシャ中央銀行に対し900億ユーロにも上る「緊急流動性支援」を実施したからに他ならない。しかしギリシャの経済問題はいつまでもこのような短期的なつなぎ融資による「時間稼ぎ」で解決するものではありえず、抜本的なギリシャ支援プログラムを策定する必要がある。このプログラムを通じてギリシャの信任が回復しギリシャ国債の金利が安定すれば、ギリシャ財政は独り立ちできるものと期待される。しかしながら、ギリシャ危機のそもそも背景には、ギリシャがユーロに加盟したのち、ギリシャ国債の金利の高さに目をつけたEU諸国の銀行や機関投資家などから大量の資金が流入したものの、その後のリーマンショックなどでギリシャ国債が暴落したことで、欧州の金融システムの動揺を防ぐ必要があったということがあった。したがって、過去の二次にわたるEUのギリシャ支援にはギリシャに投資している欧州の金融機関、機関投資家の救済という側面があるとギリシャは主張している。いずれにせよ、ギリシャ問題はEUの共通通貨としてのユーロそのものに内在する問題が露呈したものであり、ギリシャの危機的状況が収束したからといって根本から解決されるものではない。現在EU内部ではギリシャ財政をめぐって緊縮派と反緊縮派の対立、さらにはウクライナをめぐる対露追加制裁でも対立が見られるが、この対立の構造はひいては、今後、EUが果たして存続しうるか否かという根本的な問題につながりかねないものである。

(3)ウクライナ危機とウクライナ経済の動向

 ウクライナ経済の実態はギリシャ経済よりも深刻と見られ、経済合理性の観点からのみ考えればウクライナをいったん破綻させ、債務再編させるしかないとの見方も一部にあるが、地政学上、安全保障上の観点からは容易に破綻させられない状況にあるとの見方もある。いずれにせよ、現在、米、欧州、日、IMF・世銀(ロシアもメンバー)などによる支援プログラムが実施され、ウクライナ政府も必要な改革、債権者との交渉に取組んでいるところであり、この努力を継続、支持していくしかないと考えられる。ロシア経済については、原油価格が戻っていることもあり原油価格下落の影響は限定的であり、さらに14か月分の外貨準備高を保有することもあって、かつてのルーブル危機のような切迫した状況にはない。こうした中で、プーチン大統領がウクライナ問題につき、どの時点でいかに落とし所を見出そうとするのかが鍵であり、G7は一致して、ロシアに対して正しい選択を迫っていくことが必要である。

(4)中国経済の動向

 最近の日中関係の改善の兆しは、本年4月のジャカルタでの日中首脳会談における習近平主席の日本に対する前向きな姿勢にも見て取れるが、その中国が現在の日中経済関係についてもっとも懸念を抱いているのが、日本の対中投資の減少であろう。この背景には、中国国内での賃金上昇、労働争議への対応の難しさ、そして円安があると考えられる。他方、中国は、自国経済がこれまでの高成長から持続可能な成長への成長速度の転換が行われる一方、賃金上昇に伴う国際競争力低下を背景に、労働集約型から知識集約型への経済構造の転換が必要となっている。さらに、中国はリーマンショック以降の拡張的財政金融政策により世界経済を牽引してきたものの、今になってその際に採ってきた経済政策のしわ寄せとして、不動産バブル崩壊の危険性、地方政府の負債、シャドーバンキング等さまざまな問題が一気に噴出している。中国はこれらの問題について正しく認識し、その対応策についても真摯に検討している。その中で、不良債権やシャドーバンキングなどの金融問題の解決に際し、これまでの外貨準備の投入による対応に代わり、地方債発行を通じて地方の財政資金を投入することで対応することになったことが注目される。AIIBについては、当初、中国が主導権を握れる新規の機関を新設したいとの中国の強い意図をもって設立準備が行われたが、その後、欧州諸国や日米による内と外からの働きかけにより、AIIBは構想段階から紆余曲折をへて、現在は制度面である程度改善されてきており、ガバナンス、債務持続性などの面で既存の国際機関にひけをとらないような機関となるよう引き続き協力し、内外から働きかけていくことが必要といえる。

(文責、在事務局)