国際政経懇話会

第280回国際政経懇話会メモ
「JICAと日本の国際協力:理事長の任を終えて」

2016年1月28日
グローバル・フォーラム

 第280回国際政経懇話会は、当フォーラム(JFIR)の最高参与でもある田中明彦・前国際協力機構(JICA)理事長を講師にお迎えし、「JICAと日本の国際協力:理事長の任を終えて」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日時:2016年1月28日(木)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「JICAと日本の国際協力:理事長の任を終えて」
4.講 師:田中明彦・前国際協力機構理事長・東京大学教授・JFIR最高参与
5.出席者:24名
6.田中明彦・前JICA理事長・JFIR最高参与の講話概要

(1)円借款とJICA

 日本がODAを始めたのは1954年で、その際設立されたアジア協会は1962年に海外技術協力事業団となり、1974年にJICAとなった。そして2008年10月に円借款を行ってきた国際協力銀行の一部と合併して新JICAとなった。2016年度予算で、久々にODA予算が増額されることになった。JICAの2014年度の有償資金協力は、新規承諾額1兆円であり、円借款ディスバース額は8,273億円で過去最高額である。因みに円借款の返済期間はおおむね30~40年間であり、過去貸し付けた借款の返済金も、新たな借款の資金源となっている。中国へは多額の円借款を供与したが、返済か滞ったことは一度もない。また、インドのムンバイの高速鉄道建設計画に対し、円借款を供与することとなった。返済開始は15年後で、返済終了は50年後である。インドにとっては破格の好条件の円借款である。この円借款によって、日系企業のインド進出も促進されることが期待される。これら日本のODAの成功事例は、日本ではほとんど知られていないので、対国内でももっと発信すべきである。JICAは日本の知識と良心を代表し、国益に資する組織である。

(2)技術協力とJICA

 地球規模課題対応国際科学技術協力では、デング熱対応等も行っている。また、国内NGO等との協力である草の根技術協力を数千万円規模で行っている。海外で災害が発生した際には、緊急援助隊を被災地へ派遣している。また、JICAは中南米への移住者支援事業を、現在も継続して行っている。その事業内容は、主に現地の日系社会での日本語教育及び高齢化した移住者の介護等である。JICAは海外の被災地での復興援助に関し、緊急援助から復興までのシームレスな協力を心掛けているが、そのためにも、自衛隊等とのさらなる協力が必要となっている。

(3)JICA理事長時代の外国出張

 JICA理事長として、57カ国に出張したが、その中では2015年以降の世界の開発目標を決定する国連本部等での会合に参加するため、頻繁に米国へも出張した。各国首脳との会談は援助の実施のために有益であった。また、ミンダナオ島の平和構築を目的としてフィリピンへ出張したことも記憶に新しい。ミンダナオ島では1960年代から紛争が続いていたが、2000年代から和平合意に向かって進み始めた。JICAはゲリラ側と政府側両方の土地で土地整備および学校建設を行っている。ミンダナオ和平に関しては、日本は2011年にアキノ大統領とMILF議長の秘密会談の場所を提供するなど外交面でも大きな貢献をおこなってきた。

(4)平和構築とJICA

 かつては、JICAは紛争が完全に終結して安全が確保されてから事業を開始していたが、2000年頃からは安全対策をしっかりさせた上で、アフガン等紛争の危険のある地域へも現地入りして事業を始めるようになった。アフガン復興支援は緒方貞子・元JICA理事長が主導した。イラクに関しても事務所を維持しつつ南部やクルド地域などで義業を行っている。南スーダンでも自衛隊のPKO参加以前から事業をすすめてきた。2013年12月に内戦状態になったため職員を待避させていたが、停戦がなんとか実現したので職員は現場に戻って事業をすすめている。このように、JICAの平和構築の事業は、日本の積極的平和主義に貢献している。

(文責、在事務局)